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BEST TRACKS OF THE MONTH – August, 2019

The 1975 – 「People」

スタイリッシュでポップ、現代社会をクールに、かつ痛烈に切り裂くメッセージ性の強い歌詞、どこをとっても今最強で最高のロック・バントの一つであるThe 1975。さぞかし前作の路線を引き継ぐ毛色の曲だろうと、皆思っていたはず…なのだが、なんだこれ!予想を遥かに上回る裏切り方である。マリリン・マンソンを彷彿とさせる風貌のマシューが、さながらナイン・インチ・ネイルズのインダストリアル・ロックのような音に合わせ髪を振り乱しながらシャウトし続ける。攻撃性100%の音や曲調は、メタルやハード・ロックというよりは、ゴシック・パンクに近く、バウハウスやザ・キュアーを想起させる要素もあり一辺倒ではない。そして、この曲が決して恣意的に作られたわけではないということは、歌詞を見れば分かる。人類の身勝手さ、政治への失望を吐き出すように叫ぶには、鋭く重い、切れ味のある音が必要不可欠だ。ロック・バンドとしての底力を見せつけ続ける彼らにただただ脱帽した。(相澤宏子)

Alessia Cara -「OKAY OKAY」

パーティの会場で居心地悪そうにしている所謂ウォールフラワー達のために作られたという代表曲「Here」(2015年)に象徴されるように、アレッシアは常に素の自分と何かに流されてしまいがちな周りとのギャップを嘆き、そこに抗うことによって自分自身を確立し、同じ境遇にある人々に力を与え、素のままの自分でいることがどれほど美しいことなのかを歌ってきた。しかし、2019年の彼女は、これまでの彼女とは一風変わった装いを見せている。ジーンズ姿ではないドレス姿の自分、もっと言えば、何かを演じた自分、を提示しているようにも思えるのだ。

「私は無数の仕掛けを持ったポニー。世界でたった一人のね。1から10段階で言えば、11よ」。コーラスでこう歌うように、1から10段階が今までの彼女ならば、「OKAY OKAY」では11の彼女を見ることが出来るかもしれない。それは、彼女自信が殻を破ったことによる成長などという大それたものではなく、もっと単純で軽い感情によるものだという様にも感じられ、サンプリングされた「Okay, okay」や、いつにも増して弾むドラム、時折鳴り響くラッパの音にも表れている。彼女が纏ったドレスは、皮肉にももっとダメージの効いたシーンズだった様だ。(Si_Aerts)

DIIV – 「Taker」

この曲を聞いたとき、かつてのどこか夢心地でふわふわとしたサウンドを捨て去り、儚さと甘さは残しつつも、低音を強化したずっしりと重いサウンドを構築したことに驚いた。それもそのはず、この曲を含む10月にリリースされるアルバムのプロデューサーは、マイ・ブラッティ・ヴァレンタインやナイン・インチ・ネイルズを手掛けたこともあるSonny Diperriだ。それぞれ、シューゲイザー、インダストリアルの代表的なバンドであるが、この2組ともに共通するのは音の重心は下にありつつも、攻撃的にこちらに向かってくることだ。より決定的だったのは、新曲を2018年のデフヘヴンとのツアーにて公開し、フィードバックを繰り返しながら完成させていったこと。サイケデリックにも分類されるようなバンドではあるが、デフヘヴンとツアーを行うことで、ハード・ロック的な手法で音を攻撃的に外向きに発散する方向に持っていったのだ。ボーカルのザカリー・コール・スミスのスカイ・フェレイラとの恋愛やドラッグ問題など、甘いも苦しみも味わったバンドの選択は、従来の自分たちから脱却すること。同じ日にリリースされたThe 1975の「People」がインダストリアルだとか、マリリン・マンソンのようだと話題になったが、かつては、音さえも内向きであったバンドたちがエネルギーを外に向け、ともすれば攻撃的になっている傾向が生まれつつある。現状を変えたい、そんな思いが世界的に表れつつあるような気がする。(杢谷えり)

First Aid Kit – 「Strange Beauty」

8月7日に自殺でこの世を去ったデヴィッド・バーマンの喪失感がじわじわと押し寄せてきている。本国を中心に海外でも、例えば同じ時代に生き、同じドラッグ・シティから作品を出し続けてきた同胞のビル・キャラハン(スモッグ)はシルヴァー・ジュウズ(時代)の「Trains Across The Sea」をステージで披露して追悼。そしてバーマンからの影響を認めていたスウェーデンの女性フォーク・デュオのファースト・エイド・キットも逝去の報を受けてトリビュートの新曲を発表した。それが8月22日に発表された「Strange Beauty」だ。“David died yesterday Today it’s raining”と始まる冒頭からバーマンへの思いが溢れ出て止まらない。だが、メンバーのクララ・ソダーバーグは「デヴィッドの死によって自分の荒廃した感情を受け止めるためのこの曲を書いた」と語っているように、悲しい気持ちを穏やかで清々しいまでのメロディに転換させているから、聴後感は不思議と「ハレルヤ」な思いに包まれる。そしてこのEPにはもう1曲シルヴァー・ジュウズの「Random Rules」のカヴァーが含まれているが、この仕上がりが本当に素晴らしい。いつかカヴァー・アルバムを作る日のために準備していたそうだが、まさかこんな形で世に出ることになるとは彼女たちも想像していなかっただろう。パープル・マウンテンズとして再出発したばかりだったデヴィッド・バーマンにあらためて「ありがとう」を。(岡村詩野)

Foals – 「Black Bull」

今年3月にリリースされた『Everything Not Saved Will Be Lost Part1』と対になる新作Part2が10月にリリースされるフォールズ。その新作からのリード・シングルである。Part2のアルバム全体のコンセプトとしては、破壊と炎のイメージを全体に纏い、終末観的な雰囲気で神妙に終わったPart1への回答ということだが、「Black Bull」は、その神妙な雰囲気を一気に吹き飛ばすような、今までで最もストレートなヘヴィさを持っている曲だ。フォールズにはこれまでも「Inhaler」、「What Went Down」といったライヴでお馴染みのヘヴィなキラー・チューンがあったが、この曲はそのラインナップに確実に新たに加わるだろう。ライヴはバンドもオーディエンスもエネルギーを解放する場所だ、とフロントマンのヤニスが言うように、この不穏な先の見えない世界の中で、各々が持て余すエネルギーを解き放つような力がこの曲にはある。(相澤宏子)

Konradsen – 「Television Land」

最小限の編成から奏でられる音楽の豊かさ、様々な楽器が交わることで拡張されるサウンドの美しさ、その両方を伝えている。ノルウェーのオスロを拠点とするボーカリスト兼ピアニストJenny Marie Sabelとマルチ奏者であるEirik VildgrenのユニットKonradsen、この2人が先ごろリリースした「Televion Land」について話したい。ピアノと歌声のみで始まる前半、そのミニマルでありながら低い音から高い音へと展開していくメロディが豊かだ。まるで開け放った窓にゆらゆらとはためくカーテンを見ているような静謐でありながら動きのあるサウンド、風は強くなったり弱くなったり、そんな自然によってもたらされた風景を見つめているようでもある。曲が進むにつれ、ボイス・サンプリングやコーラスが重なり、一室で窓を見つめていた気分は、ドラムやベース、そして管楽器が合流する頃には一気に空間を広げていく。その移り変わるサウンド・スケープが美しいのだ。Konradsenは本楽曲を含むデビューアルバム『Saints and Sebastian Stories 』を10/25にリリースする。ミックスをチャンス・ザ・ラッパーやジェイムス・ブレイクなど声を中心に大小様々な空間を構築するアーティストを手掛けたTom Carmichaelが行っていることも納得だ。アルバムのリリースに益々期待してしまう。(加藤孔紀)

Oliver Tree -「Alien Boy」

いまポップ・カルチャーではリゾやリアーナなど美しさの多様性と既存の女性らしさからの解放が一つのムーブメントになっている。カリフォルニア出身のラッパー/SSW/プロデューサー/映画監督であるオリバー・ツリーは、ツアー名を“Ugly Is Beautiful(醜さは美しい)”と掲げるなど、そんな動きへの男性側からの返答ともいえそうだ。

現在、最後のツアーを回っている彼の最新EP『Do You Feel Me?』に収録されている代表曲「Alien Boy」は、自分がまわりと違うことを宇宙人に例えながらも、それも個性と捉えることでその大切さを説く。メランコリーなメロディーの上で歌われることで疎外感も暗に示されているが、彼の道化的スタンスや芯のあるソウルフルな歌声は、そんな視線に対して顔で笑って、心で中指を立てる。世間からの疎外感を持っていたとしても、そんな自分を肯定していいんだと思わせてくれる彼の楽曲は、リゾやリアーナと同じように世の中に溢れる呪いの言葉を解いてくれるようだ。(杉山慧)

South Penguin – 「aztec」

アカツカによるソロ・プロジェクト、South Penguinが、岡田拓郎(ex.森は生きている)をプロデューサーに迎え、ファーストアルバム『Y』をリリース。ブリストルのレジェンド、ザ・ポップグループが1979年に発表した名盤『Y(最後の警告)』と同タイトルを冠したことに象徴されるように、完璧なまでに洗練されたアーバンポップの仮面の下に、魑魅魍魎がうごめくポストロック的世界観を忍ばせた傑作だ。中でもこの「aztec」は流麗なフレーズ、甘い歌声と、時折顔を覗かせる知的で不穏なギターサウンドがせめぎ合うところに、彼らの一筋縄ではいかない魅力が凝縮されている。しかもサビにはフリッパーズギターの「偶然のナイフ・エッジ・カレス」を大胆にパクった…いや、強く想起させるメロディが鎮座している上に、タイトルはそのフリッパーズがパク…大いなるオマージュを捧げたアズテック・カメラから取ってしまうという徹底した確信犯ぶり。この音楽的IQの高さと肝のすわり方。なんだかまたすごい若者が出てきたぞ…という熱い胸騒ぎを覚えずにはいられない。(ドリーミー刑事)

Spinning Coin – 「Vision At The Stars」

ネオアコの重鎮たちに現在最も愛される若手といえばこのSpinning Coinだろう。グラスゴー出身、本作もリリース元のドミノ傘下のGeographicも主宰するスティーブン・パステルとパステルズの作品も手掛けたこともあるGregor Reidがプロデューサーを務める。ネオアコ、特にアノラックといわれるギター・ポップを引き継いでいる若手バンドであることは間違いない。しかし、この曲はそれだけの枠組みで語るのはもったいないように思える。たしかに歌とメロディは、ギター・ポップではあるが、歌と歌をつなぐのは、ドゥーワップさえ彷彿とさせるどこかわくわくするようなスキャット。ドラムのフィルはファンクのように力強い。かといって、浮いているわけでもなく、曲の流れの中に納まっている。一味も二味も加えた味付けをしたことにより、今までとは異なる料理を出してきたのだ。それは、既存の枠組みから脱却して、さらに広い世界へ打って出ようという意気込みを感じられる。(杢谷えり)

Thom Yorke & Flea – 「Daily Battles」

充実のニュー・アルバムも記憶に新しいトム・ヨークから、早くも次の一手が。監督・主演エドワード・ノートン、1950年代のニューヨークを舞台とする映画『Motherless Brooklyn』への書き下ろし。〈日々の戦いの線は引かれた〉と投げかける導入は、作品の物語の始まりを予感させる。

3分に満たないシンプルな楽曲だが、質感がそのまま保存されたラフな録音の中、包み込むようにユニゾンで聴かせるヴォーカル・ワークは、小曲と呼ぶにはあまりに贅沢。そして、去年発表されたこちらもサントラになる『Suspiria』収録の「Suspirium」を思わせるワルツ調のピアノを基調とした芳醇な弾き語りの中でも、出色の存在感を放っているのがアトムス・フォー・ピースでの盟友フリーの演奏だ。暖かくも芯のあるベースは、付かず離れずの距離感で主旋律に寄り添い、楽曲後半で幾重にも重なり浮かんでは沈むトランペットは、「Life In A Glasshouse」(レディオヘッド『Amnesiac』)で起用された当時79歳の故ハンフリー・リトルトンのプレイにも似た、奇妙な時空の歪みを醸し出している。

ウィントン・マーサリスらが参加したジャズ・ヴァージョンも同時に公開された、物悲しくも美しいこの楽曲が示す「日々の戦い」とは、古き良き時代を懐かしむ諦念なのか、或いは新たな希望への闘争なのか。「物語の中からこの楽曲が浮上し、特別なことが起こる」と語ったノートン。映画の公開も待ち遠しいところだ。(阿部仁知)

Tohji – 「mamasaidloveme」

「パソコンとかでみんな同じ映画とかを見てちっちゃい頃から育ってるから、みんな同じ場所に住んでるんですよね。違う場所にいるけど」

国内ヒップホップのリスナーならご存知のYouTubeチャンネル、ニートtokyoから一昨年の暮れに「わかってねーなと思うこと」というタイトルで投稿されたインタビューの中でこう語っていたのを覚えている。若者を中心にカリスマ的な人気を集めるラッパー、Tohjiの待望のファースト・ミックステープ『angel』は、少しぎこちなさそうに言葉を紡ぎながら話していた青年の面影を僅かに残しながら、その言葉の意味を突き詰めているように思えた。

『angel』リリース時にInstagramやTwitterでTohji自身が発信したメッセージにはこうある。(様々な解釈ができる内容なので要約せず全文を掲載する)「それは、angelってことだった/俺に宿っているもの、それにフィールしてくれる皆んなに宿っているもの/このミクステは俺の、みんなの生活に溶け込む音を作った/通して繰り返し聴いてほしい/いつでも新しい表情を見せてくれる音だし、きっとみんなの奥底まで寄り添う音だと思う/音楽よりも、一歩その先の純粋なangelが立ち現れるはずだから」。おそらくこのミックステープにおいて最も重要視されているのは言語や地域を超えた人間のフィーリングそのものへ働きかけることであり、本曲「mamasaidloveme」はそれを象徴している。リリックは特になく、アンビエンスからメロディアスなトラックへと切り替わっていき、Tohjiのコーラスが響くのみ。そこに浮かぶリスナー各々が何を感じるのかのみに振り切った姿勢。それは同時に国も肌の色も違う人間がフィールしあえる、その可能性を信じているというTohjiの決意の表れのようにも感じるのだ。アジアツアーやロンドンでのライヴの盛況ぶりはまさにそれを証明しているだろう。耳を澄まして、目を離すな。わかっていないうちに世界は変わっていくぞ。(高久大輝)

折坂悠太 – 「朝顔」

主題歌抜擢の報せに驚いたリスナーも多かったことだろう。折坂悠太がフジテレビの月9ドラマ『監察医 朝顔』に書き下ろした配信シングルである。脇を固めているのは、おなじみの“合奏”メンバー、管楽器の高橋三太と松村拓海(ともに1983)、ストリングスアレンジの波多野敦子と、先のシングル『抱擁』やアルバム『平成』と同じ顔ぶれ。しかしこれまでの彼の楽曲にはあまり見られない、Aメロ、Bメロ、サビからなる伝統的なJ-POPの曲構成となっている。ドラマの制作陣と二人三脚で制作が進められたとのことだから、タイアップがあってこその取り組みなのだろう。

『監察医 朝顔』は法医学ドラマである一方、3.11で母を失った父娘の痛みをたどる物語でもあって、そう考えれば彼の抜擢にも合点がいく。『平成』の「揺れる」や「さびしさ」の歌詞にもあった、聴き手と痛みを分かち合うための絶妙な距離と温度が「朝顔」の歌詞にもあるのだ。ここでのそれは、登場人物の心をなでるように経由してから視聴者のもとへやってくる軽やかさをも兼ね備えている。挑戦を経てアーティストとしての自由度を上げた彼が、今後どういった道筋を歩んでいくのか楽しみだ。(吉田紗柚季)

Text By Hitoshi AbeSi_AertsSayuki YoshidaDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaDaiki TakakuKoki KatoHiroko AizawaEri Mokutani

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