BEST 9 TRACKS OF THE MONTH – July, 2021
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
arauchi yu -「Whirlpool」
ceroの中で作編曲に大きな役割を果たす荒内佑によるソロ初アルバムからの先行曲。荒内といえば、和声とリズムの複雑化・多層化という革命をceroにをもたらした立役者であるゆえ、ソロもその方向性を踏襲するのかと思いきや、ミニマルなトラックメイクに舵を切ったことに驚かされた。また、鍵盤奏者でありながらヴァイオリンやチェロを大胆にもメインに据える選択も意外。クラップやマリンバを際立たせたパーカッシヴなリズム、そして跳ねる弦楽器が一定のモチーフを繰り返しながら出入りし、まるでタペストリーのようにひとつの絵を描いていく。クラシカルながらも、現代音楽のようでもあり、でもちゃんと踊れる。あえて“舞曲”と呼びたくなる1曲だ。アルバムの全容にも期待。(井草七海)
Morly -「Wasted」
新世代のローラ・ニーロ! そう呼びたくなる逸材の登場だ。柔らかい声質だけど憂いを秘めた表現力は、オーセンティックなスタイルだからこそ映える。ミネアポリス出身で現在はロンドンを拠点とするケイティ・モーリーによるソロ・ユニット。まもなくリリースされるファースト・アルバム『Til I Start Speaking』からの曲でもあるこれは、他の先行曲と比べてもとりわけ清らかさにおいて群を抜いている。ピアノをメインとするゴスペル調の演奏の中で、失った愛、裏切りを受けて自省を誓い、真の愛を求める歌詞は、そこだけ切り取れば厳か。だが、優美で軽やかなタッチの節回しが既に歌の中の住人が新しい扉を開けていることに気づかせてくれるのだ。(岡村詩野)
Nate Smith – 「Fly (For Mike) feat. Brittany Howard」
ヴルフ・ペックのメンバーによるサイド・プロジェクト、ザ・フィアレス・フライヤーズのメンバーとしても活動するジャズ・ドラマー、ネイト・スミスが9月にリリースするリーダー・アルバム『Kinfolk 2: See the Birds』からのシングル・カット。昼間の暑さが嘘のように、心地よい風が体を撫でる夏の夜の情景を想起させるスムースなピアノとギター、サックスの鳴りに驚嘆。それらを優しく見守るドラム・プレイも巧み。さらに、本曲はネイト自身も『Jaime』(2019年)へ参加したアラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワードをフィーチャリング・ボーカルとして招聘。リリックを担ったブリタニーはソウルフルに、強く優しく、ネイトの亡き父へと捧げたという本曲を歌い上げていく。(尾野泰幸)
Nino SLG -「L.S.O.M」
昨年11月にリリースされたシングル「House Invasions」が早耳のリスナーから高評価を獲得したロンドン出身の16歳のラッパーによるデビューEP『State Of Mind』から。デイブの幼馴染で彼の楽曲も手掛けているKyle Evansプロデュースの叙情的なトラックと、それに見事に調和するスムースかつ感情的なフロウがロンドンの状況について綴られたリリックへと引き込んでいく。「I talk facts but they don’t wanna hear my stories(私は事実を語るけど、彼らは聞く耳を持たない)」。群雄割拠のUKラップ・シーンに新たなリリシストの登場だ。(高久大輝)
NNAMDÏ -「Lonely Weekend」
ンナムディ(NNAMDÏ)は、セン・モリモトらとレーベル《Sooper Records》を運営していることでも知られるシカゴ在住の音楽家。いわゆるストレートな黒人音楽ではなく現代音楽、エレクトロ、アンビエントなどを咀嚼した創作性高い作品が魅力だが、この《Secretly Canadian》25周年のカヴァー・シングル企画では、なんとケイシー・マスグレイヴスの『Golden Hour』(2018年)収録曲をとりあげていて驚く。しかも前半は原曲以上に素朴なカントリー。だが、コーラスを多用した中盤以降のユニークな構成と展開が聴きどころで、この人の引き出しの多さとアレンジセンスに舌を巻く。ウィルコ、スリーター・キニーとのツアー(交通事故で骨折したそうだが)でさらに飛躍していってほしい。(岡村詩野)
Silk Sonic – 「Skate」
ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるユニット(命名はブーツィー・コリンズ)、シルク・ソニックのセカンド・シングル。ドゥーワップなコーラスと甘い歌詞にヴィンテージ・ソウルへのリスペクトが溢れたデビュー・シングル「Leave The Door Open」に続く本楽曲「Skate」は、外出の自粛を余儀なくされる今夏だが思わず外に飛び出したくなってしまうサマー・チューンだ。まるでローラー・スケートのウィールが回転するように、歯切れ良く演奏されるギターのカッティングとコンガのダンサブルなリズムが軽快で、気付いたら自室で踊ってました。2曲続けて、セレナーデとも思える少し消極的な恋の気持ちを歌っているのもチャーミングで良い。(加藤孔紀)
Unknown T – 「Driller sh!t」
ヴァージル・アブローに見出されランウェイに現れたり、ベルリン発の音楽プラットフォーム《A COLORS SHOW》(THE FIRST TAKEのような感じだ)に出演するなど、破竹の勢いでスターダムを駆け上がるイースト・ロンドンのラッパー、Unknown T。凶暴なドリル・サウンドを軸にした彼の2枚目のミックステープ『Adolescence』からのリード曲のひとつ「Driller sh!t」は、冷たく芯のある声で繰り出される前のめったようなフロウが素晴らしい。ドリル・ミュージックに新たな風を吹かせる彼は、《PAUSE Magazine》のインタヴューで音楽活動に欠かせないものは何かを問われ、一言でこう答えている。「Affection.(愛情さ)」。(高久大輝)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴きる逃し注意の楽曲をピックアップ!
Isaiah Rashad – 「RIP Young」
《TDE》ファンの間では誰の作品よりも待ち望まれていたのではなかろうか? Isaiah Rashadの新作『The House Is Burning』収録の一曲。2013年の《BET Hip Hop Awards》にてカリフォルニアを第二の故郷と呼んだテネシー出身のZayは、その言葉を体現するかのように、同じく南部出身のProject Pat「Cheese and Dope」をサンプルしつつ、西海岸らしいレイドバックしたビートで悠々とラップ。ちなみにこの曲、前々作『Cilvia Demo』収録の「Heavenly Father」と同様に、本人はファンに好まれないと予想しながら渋々収録したのだとか。(奧田翔)
Soccer Mommy – 「rom com 2004」
ボン・イヴェールやチャーリーXCXとの仕事で知られるBJバートンとともに制作した本曲について、「しばらく前にポップなデモを作ってBJに破壊するように言った」と語る彼女。ゲームのオープンワールドを探索するMVも相まって、グリッチ(バグ)を積極的に楽しむようなローファイな遊び心がそこかしこから飛び出てくるのがなんとも楽しい楽曲だ。それでもなおギターストロークに歌声を託す王道の立ち振る舞いは、フィーダーのグラント・ニコラスをはじめとする僕のヒーロー達の姿が重なってくる。度々危機に瀕しているように語られるギターロックの系譜だが、彼女のような新たなヒーローは生まれてくるのだから何も心配はいらないだろう。(阿部仁知)
【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事
http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/
Text By Sho OkudaHitoshi AbeShino OkamuraNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono