BEST 15 TRACKS OF THE MONTH – October, 2022
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
ANXIOUS – 「WHERE YOU BEEN」
本年1月にリリースされた新作『Little Green House』が《Sterogum》にてアルバム・オブ・ザ・ウィークを獲得したことでも話題を呼んだコネチカット出身のエモ/インディー・ロック・バンドのアンクシャスによる最新曲。プロデュースはブランニューやテイキング・バック・サンデイの作品でもプロデューサーを務めるマイク・サポーネ。バンドのルーツたる、フォンテンズ・オブ・ウェインやデス・キャブ・フォー・キューティーのような胸を刺すエモーショナルで内省的なメロディーとリリックに、ジミー・イート・ワールドが引き合いに出される懐の深く、快活なバンド・サウンドを兼ね備えた本曲に次代のモンスター・バンドの息吹を感じてしまう。(尾野泰幸)
ENNY – 「Champagne Problems」
「シムズ(リトル・シムズ)からお金では買えない宝石を受け取った」とラップするのは、サウス・ロンドンはテムズミード出身のラッパー、ENNYだ。緩やかなドリル・ビートの上を跳ねるラップは、後半ではR&Bさながら滑らかなメロディへと変貌。そんなわけで聴き心地の良さだけでも十分魅力的なのだけど、「“セックスのラップをしない君が好きだ”と彼らに言われるけど/うーん、それって私に何が言いたいんだろう/ヒップホップの基本がミソジニーだとしたら/私はキム(リル・キム)とフェラ(フェラ・クティ)で育ったから/でもプッシーについてラップしたら私はセルアウト」といった調子でクリティカルなリリックを綴っているのにも注目したい。現在UKで最も今後が気になるラッパーのひとり。(高久大輝)
(G)I-DLE – 「Nxde」
冒頭からリーダー、ソヨンの発声の幅広さが詰め込まれた楽曲。母音の伸ばし方や鼻濁音、唇をすぼめたり舌を巻いたり。ドジャ・キャットを連想させる粘っこいフロウが、ダーク・キャバレー風のトラックを乗りこなしていく。本楽曲のMVにもインスピレーションを与えただろう映画『ラストナイト・イン・ソーホー』は、ショービジネス界における女性たちへの視線の恐怖を内面化していく物語だった。MVでは数々のビート・スウィッチと衣装替えとタイムスリップを繰り返しながら、そういったカメラや群衆からの視線をさらりとかわしていく。「私はヌードで生まれてきたもの/で、あんたは変態ってだけ」。口角に皮肉を含みながらも、大衆へ問いかける現代のポップの理想形。(髙橋翔哉)
Kóboykex – 「Night Out」
コズミック・アメリカーナといった感じの異才ユニットだ。アイスランドとノルウェーの間にあるフェロー諸島(デンマークの自治領)出身のSigmundとHeiðrikの2人によるウェスタン/エレクトロ・デュオ、Kóboykex。今年作品を発表し始めたばかりながら目指している方向は明確で、この曲もベックとジャック・ホワイトがスペイシーなアレンジでロウファイ録音したら……といった風景が思い浮かぶようなユニークな曲になっている。彼ら自身、この路線をカントリーとエレクトロニカのミックスさせた“Countronica(カウントロニカ)”と呼んでいるそう。人口僅か5万人程度の小さな島から世界を楽しませる存在になっていくか?!(岡村詩野)
霊臨(TAMARIN) – 「TRICK 🖤R TREAT ft.雑魚ドール」
SoundCloudシーンで注目を集める雑魚ドールとコラボレートを果たしたハロウィン・ナンバー。バブルガムな魅力を持った霊臨の飾らないキュートな言葉たちは、そのユルい響きとは裏腹に、鋭い刃となって突き刺さる。今年リリース、現在は配信停止されている2作『NEO NORMAL』、『Log in!(deluxe)』と比べて、彼の視点は自身の暮らす街から資本主義社会全体へと一気に広げられた。アルバムにもあった、東京の街のにおい、闇(病み)を抱えた若者の気配は、少しの叙情性を加える形で雑魚ドールが受け継いでいる。一方で霊臨の声は、Itaqとの「BEAUTIFUL」で見せたエモさから一転、あくまで冷静な怒り、醒めた微笑を湛えている。(髙橋翔哉)
Phantom Handshakes – 「Stuck in a Fantasy」
NYを拠点に活動するインディー・ポップユニット、Phantom Handshakesによる11月3日リリースのアルバム『A Passport to Remain』からシングルカットされた「Stuck in a Fantasy」。彼らが”ほろ苦い白昼夢のような曲”と話す楽曲は、祈りにも叫びにも似た「妄想から抜け出せない」と繰り返す、朧気なヴォーカルが揺らいでいる。DIIVを思い起こさせるような無骨なベースラインと線の細いアルペジオの絡みは、まさにドリーム・ポップといった淡さを持ち合わせているが、パンデミック下に共通の音楽趣味をきっかけにオンライン上でユニットを結成してから今もなお、徹底してローファイに拘った宅録制作を貫く潔さがある。(吉澤奈々)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!
Ab-Soul – 「Do Better」
長年のアブ・ソウルのファンならば、本曲のミュージック・ビデオでビルの屋上から飛び降りる彼を見て、思い出す人がいるだろう。10年前、ソウルとの交際中に、コンプトンのラジオ塔から身を投げ自ら命を絶ったAlori Johである。彼女をはじめ身近な人を何人も失ったソウルは、サバイバーズ・ギルトに打ちひしがれながらも絞り出すように言葉を紡ぐ。世界から隠れるために欠かさず身につけてきたサングラスとフードを取り去って、俺は恵まれているのだと言う。ビデオの最後で本人が語る、「もう散々泣いたから笑ってるんだ」という言葉が印象的。我々ファンにできるのは、それが強がりでないことを祈ることだけだ。(奧田翔)
Dear Nora – 「sinaloan restaurant」
ガール・プールやデイヴ・ロングストレス(ダーティー・プロジェクターズ)がルーツに挙げるなど、アメリカのDIYポップシーンに確かな影響を与えてきたKatie Davidsonのプロジェクト、Dear Nora。発売されたばかりのアルバム『human futures』収録の本楽曲は、パンデミック下で閉店したメキシコ料理店がモチーフだ。アンビエントな質感を湛えた安らかな歌と響きが、記憶や息遣いを音に刻む。それは、近年誰もが味わったであろうやりきれない想いに寄り添うようだ。近年のライブメンバーだったニコラス・ケルゴヴィッチやZach Burba(iji)が制作にがっつり関わっていることにも注目したい。(前田理子)
Gretel Hänlyn – 「Drive」
重く立ち籠めるインディー・フォークなデビュー・シングル「Slugeye」、そしてフィーチャーされたムラ・マサ「2gether」で幽玄なるローヴォイスを強烈に印象づけた、ロンドン在住19歳のシンガー・ソングライター。凛としたライヴ・パフォーマンスも定評ある(『Echoes with Johnny Beth』をチェックしてほしい)彼女の新曲は、三たびタッグを組んだムラ・マサなりのポップ・パンク的プロダクションを纏い、よりオルタナティヴに突き抜ける。ニック・ケイヴがリリックにおける最大の影響源だとするだけあり、どうしようもなく相手に惹かれる速度と自立した個人でありたい気持ちとの間の歪みを簡素なフレーズで描くストーリーテリングにも注目したい。(駒井憲嗣)
Lucas Santtana – 「Vamos Ficar Na Terra」
エレクトロニカとMPBの合流を加速させた張本人である、バイーア州のSSW、Lucas Santana。鮮烈なビートとカットアップが印象的なキャリアの初期と比べ、ここ数年はアコースティックな方面へ舵を切っていた彼が発表した新曲は、ほのかに物憂げなチェンバーフォークだ。バイーアの大先輩であるカエターノ同様、ポリティカルな命題を実地に落として吟ずる感覚は、政局の変わり目にあるブラジル本国に置いてもよりクリティカルにマスへと沈澱する。初期から覗かせていたレゲエへの関心をさりげなく忍ばせるあたりにも確かな成熟を感じる、確実に今触れておきたいSSWの一人だ。 (風間一慶)
Ohhki – 「Glitter」
わずか二年間でアルバムを三作発表し、ジャイルス・ピーターソンもラジオでプレイしたという京都在住の密室ローファイ・ファンクの鬼才、イサヤー・ウッダが名義をOhhkiと改め10月1日にアルバム『E.C.H.O』をリリース(配信開始は9月30日)。そこに収められた本曲は、歌謡曲の断片を掠め取ってきたようなメロディ、フィジカルに作用する太いリズムと音数の多いシンセのフレーズを備えており、これまでよりリスナー・フレンドリーと言えるかもしれない。だが音と音の隙間、かりそめの輝きの向こう側に潜む、仄暗い海の底から世界を見上げるような眼光は相変わらず。暴力、疫病、カルトに覆われた日常のためのポップ・チューン。(ドリーミー刑事)
PawPaw Rod – 「Shining Star」
オクラホマ育ちLAを拠点に活動するシンガー・ソングライターのPawPaw Rod。チャンネル・トレスも所属する《GODMODE》からの2作目となる最新EPからの一曲。アンダーソン・パーク以降の70年代ソウルのポップネス再考の流れに、ギル・スコット・ヘロンも引き合いに出されるほど、ヒップホップのルーツに根ざした形で取り込んでいる。本EPでは、どの曲も分かりやすいサビ部分での繰り返しが耳を惹く構成になっている。特にこの曲の「You’re My Shining Star」のサビは、懐かしのポップ・ソング的な加工が施された本作において、色々な楽曲を一緒に思い浮かべるという意味でも面白い構造になっている。(杉山慧)
Tourist – 「Your Love(Sofia Kourtesi Remix)」
今年5月にリリースされた『Inside Out』のリミックスのうちのひとつ。Touristはロンドンを拠点に活動していて今年で10年目、Sofiaはペルー出身でベルリンを拠点に活動していて昨年のEPが注目を集めていた。原曲でTouristは友人との愛を称えているが、リミックスのゆったりとしたbpmとハンドクラップはその愛を心から祝福しているみたいだ。そしてTouristらしい眩しさと暖かさには浮遊感が加えられている。Sofia Kourtesis「La Perla (Tourist Remix)」が海を泳いでいる曲だとすると、このリミックスは空を飛んでいる曲。二人の曲はいつだって遠くに連れ出してくれる。(佐藤遥)
Mikan Hayashi x 凌元耕 – 「夏のせい」
たゆたう記憶の海に音もなく背中から沈んでいくような、水中から眺める歪んだ景色がスローモーションで遠ざかっていくような。そんな不思議なパノラマが広がる本作は台湾・高雄出身のバンド、ゲシュタルト乙女のヴォーカルMikanのソロプロジェクト“取暖實驗室”の記念すべき1曲目。日本と台湾の異なるスタイルのアーティストとコラボする企画で、今回パートナーには我是機車少女の凌元耕を迎え、サカナクション等も手掛ける浦本雅史が東京でミックスとマスタリングを行った。音楽や文化の組み合わせを通じて芸術の温度を伝えるコンセプトの企画のオープニングに、夏の熱が冷めるのを静かに眺めているこの低温さを持ってくるセンスが好きだ。(Yo Kurokawa)
DJ Sabrina The Teenage DJ – 「Dance Now」
DJサブリナ・ザ・ティーンエイジDJはロンドンのプロデューサー2人組で、中古で安く購入したドラムマシンとシンセを使ってアーリー90’sなムードのローファイなダンス・ミュージックを作り続けている。ヴェイパーウェイヴの世界観に通じるサウンドだが、DJサブリナはよりダンス・フロアを意識しており、インディー・ポップのフィールドもまたぐようなアプローチも見せるところが特色と言っていいだろう。The 1975のマシュー・ヒーリーもそのノスタルジックでありながら新鮮さも感じさせる音楽性に魅了されたひとりであり、最新作『外国語での言葉遊び』からの先行シングル「ハピネス」の制作をDJサブリナにオファー。この最新シングルも含め、いつまでも聴いていたくなるドリーミーな魅力が広まりつつある。(油納将志)
【BEST TRACKS OF THE MONTH】
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Text By Sho OkudaYo KurokawaHaruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiRiko MaedaNana YoshizawaIkkei KazamaDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono