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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Arooj Aftab, Vijay Iyer, Shahzad Ismaily – 「To Remain/To Return」

パキスタン生まれでバークリー音大出身のアルージ・アフタブ、近年は《ECM》から作品を出すピアニストのヴィジェイ・アイヤー、マーク・リーボウやサム・アミドンら多くのバッキングでも知られるベーシストのシャザード・イズマイリーによるコラボレート曲。NYのスタジオでライヴ録音されたものを最小限の編集で仕上げたそうで、祈りを捧げるマントラ的なヴォーカル、滴り落ちるがごときリフを奏でるピアノ、まるで天井裏を歩く足音のようなベース……それらが絶妙の間合いで淡々と進行していく。その不穏さを孕んだ美しさにはただただ息を飲むばかりだ。6曲入りのファースト・アルバム『Love In Exile』はまもなく3月24日発売!(岡村詩野)

Beck – 「Thinking About You」

ベックの新曲「Thinking About You」は、ある意味で期待以上だった。指弾きのアコースティック・ギターとハーモニカをメインにした簡素な楽曲構成のバラード。“彼女は行ってしまった”と唄う奥ゆかしいヴォーカルは、離婚した元妻を表しているというなんとも興味の持てない憶測もあるようだが、ベック自身のルーツ『One Foot In The Grave』(2009年)に立ち返るような渋いフォーク/ブルースがすんなりと沁みる。さらにバック演奏にブレイク・ミルズ、ジャスティン・メルダル・ジョンセン、ロジャー・マニングと長年のメンバーをはじめ、MVのメインアクトは日本人の松島エミを起用するなど、ベックの時代を乗りこなす柔軟性と自己を保つバランス感覚には、いつも驚くばかり。(吉澤奈々)

Indigo De Souza – 「Younger & Dumber」

ブラッド・クックがプロデュースした前作が各批評メディアから賞賛されたインディゴ・デ・ソウザによるニュー・アルバム『All of This Will End』からのシングル・カット。前作でのインディー・ロックやシンセ・ポップを基調としつつ、軽やかに動き回るカラフルでモダンな音像を想像すると、幾分大仰で重厚感を感じるバラードとして展開する本曲には驚くが、力強く荘厳な雰囲気を漂わせるボーカルが見事であるがゆえに楽曲は引き締まった印象に。自らの若い頃からの記憶を辿りながらこれまでで最もエモーショナルに構築した楽曲だという本曲は、微細な感情の揺れ動きを丁寧に表現するヴォーカリストとしてのソウザの魅力を伝えている。(尾野泰幸)

Russ Millions – 「Shawty ft. Ms Banks, Ivorian Doll, TeeZandos」

UKドリル・ミュージックのキーマン、Russ Millionsの新作ミックステープ『One Of A Kind』は、彼の名を広範囲に知らしめることになった2021年のヒット・シングル「Body」と比べても、ダークで暴力的な側面を注目されがちなドリル・ミュージックにおいてリリシズムと同時にダンス・ミュージックとしての機能性をも追求するそのスタイルに大きな変化はないが、ラップにパーティーを求める人にとって楽しめる内容であることは間違いない。中でもこの曲ではMs Banks、Ivorian Doll、TeeZandosら、いわゆる“フィメール・ラッパー”にスポットを当て、ドリル・シーンのジェンダー不均衡を解決するために作られたそう。つまりそう、ダンス・フロアに差別はいらないってこと。(高久大輝)

霊臨 – 「SUDAMASAKICHACKYO! (aromatic ver.)」

擬態し成り代わるという愛の形がある。『推し、燃ゆ』がより一般化させた模倣と名づけられた執着を、霊臨は肯定する。笑いと、“MA $A KI”にかこつけ踏みまくるライムではぐらかしながら。「パンはヤマザキ/それもマサキが/食った後の歯型すら似せるよ」。配信停止した『NEO NORMAL』収録ヴァージョンでは、ファッションのカジュアルな浪費/受容への痛烈な皮肉が前景化していた本楽曲。だがテンポダウンしたこちらのヴァージョンはスパイスよりもお砂糖多め、メロウなラヴソングの印象。恋はストーク。リリックのニュアンスを自ら再定義している。ちなみに、摂取し取り込むという愛の形もある。「ここはマサキのカルビ あーあ/…お腹が減るなあ」。(髙橋翔哉)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

a.s.o.「Rain Down」

Tornado Wallace名義でサイケデリックな名トラックを連発するルイス・デイと、女優/モデルとしても活動するシンガー・ソングライター、アリア・セロール・オニールによるデュオ。変形の8cmCDでもリリースされたデビュー曲「Go On」に続きポップソングの構造に取り組んだ新曲は、単なるチルアウトものという形容を超える仕上がり。マドンナあるいはガービッジをリファレンスにした、野暮ったさスレスレのメランコリックな旋律とトリップホップ/ダウンテンポ的ムードが(挿入されるスクラッチも含め)一周回って新鮮で、Avalon Emersonしかり、エレクトロニック・ミュージック・アクトの90年代回帰を実感させられる。(駒井憲嗣)



Cornelius – 「変わる消える」

こんなにもフィジカルを手に取る日を待ち焦がれた楽曲はなかった。2021年夏に配信リリースされ、すぐに消えてしまった悲運の名曲がついに12インチでリリース。しかもmei eharaが歌ったオリジナルとジョン・キャロル・カービーによるリミックスに加え、まさかの本人歌唱版も収録。初めて聴いた2021年7月の戦慄、活動再開直後のライブで聴いた2022年夏の歓喜、そして会いたい人が次々といなくなってしまう2023年2月の寂寥。同じ歌なのに聴くたびに意味がどんどん変わっていく聖典のごとき坂本慎太郎の歌詞。二曲目に収録されたsalyuに提供した「続きを」のカバーと合わせて聴くと、小山田圭吾の決意表明のように響く。(ドリーミー刑事)

Drahla – 「Lip Sync」

英リーズのトリオ、Drahla。昨年の「Under The Glass」に続くカムバック第二作目となった今作は、アメリカの現代美術家、Bruce Naumanの同名の作品からインスパイアされたものだという。その作品は上下逆さまになったカメラに男の口元のみが映し出され「Lip Sync」とひたすら繰り返される、といったものだ。1時間にも及ぶビデオが仄めかす無為的な身体の揺動は、Drahlaがデビュー以来志向していたノー・ウェイブの引き起こす痙攣と相同している。ビデオとは全く異なり目眩く展開する、ノイジーなギターとサックスに支配されたこのシングルは、Bruce Naumanのブルータルな作品群たちへの最良の批評に他ならない。(風間一慶)

H.Hawkline – 「Plastic Man」

H・ホークラインはウェールズのカーディフ出身のシンガー・ソングライターで、TVやラジオのプレゼンテーターとしても知られている。この「Plastic Man」は、3月10日にリリースされた5作目となるアルバム『Milk For Flowers』からの2曲目となる先行トラックで、長年のコラボレーターで元パートナーでもあるケイト・ル・ボンがプロデュースしている(シンセも担当)。グラム・ロックとモダン・ポップが手を組んだ現代感覚のあるサウンドが魅力で、H・ホークライン自身のユーモラスな部分もかいま見える。アルバムでは交流のあるスーパー・ファーリー・アニマルズに通じるサイケや、インディ・フォークも加わり、全10曲ながら豊かな音楽景色を描き出す。トッド・ラングレンあたりが好きな方はきっと気に入るはず。(油納将志)

Joanne Robertson – 「Blue Car」

Dean Bluntとの共作や彼のレーベルWorld MusicからもリリースするUKのSSW、Joanne Robertson。3月リリース予定のアルバムからタイトル・トラック「Blue Car」が先行公開された。この10年ほどの間に録音された未発表音源をまとめた作品とのことで、しかもリリースはロンドンのエレクトロニック系レーベル《AD 93》からというのは意外ながらも納得。しかしなぜギター一本と声だけでここまで心揺さぶられてしまうのか。そのプライベート感もあいまった“Sketch for winter”な肌触りに、このアルバムが届くまでは冬のままでも許す。(小倉健一)

Matthewdavid – 「Liquidity (feat. Brin)」

去年あたりから雑貨店でキノコの置き物をよく見かけるし、ドリーミーなキノコの写真集があれば、誌面でキノコのコラージュを見かけることも。ビョークだってキノコや菌類の生命力に魅了されていた。そして本楽曲が収録されるのは、《Leaving Records》の創設者Matthewdavid、約5年振りのアルバム『Mycelium Music』(菌糸体音楽)。潜り込み、崩れて溶けて響き合うツィターをフィーチャーしたきらびやかな音は、地上のキノコの下で築かれる菌糸の美しき広大なネットワークそのものか。その流動性を強調するような水の音も心地いい。心惹かれる菌類の関係は、分解と共生をくりかえしひっそりとその糸を伸ばしている。(佐藤遥)

SAMOEDO – 「I’m crazy about you」

元シャムキャツの、あるいはミツメ、ネバヤンの、といった枕詞が不要になるほど、一つのバンドとしての世界観をファーストアルバムで確立したSAMOEDOの新曲。どこか懐かしくドリーミーなシンセを基調に、さりげなく差し込まれるニュー・ウェイヴ風のギターとベース、どこまでも優しいメロディ。そのどれもがお互いをリスペクトしながら一つの音像を作り上げている点こそが彼らのオリジナリティ。日本語を母国語としないリスナーでも気軽に口ずさむことのできるように考えられたであろう歌詞と符割りにも、真にグローバルな視点を感じる。みんながこんな気持ちで日々を生きたなら世界はもっと良くなるのに、と思うのは飛躍がすぎるだろうか。(ドリーミー刑事)

Täbï Yösha – 「Pause (feat.Suiker)」

カナダはケベックに拠点をおくTäbï Yöshaの最新曲。前作「Le drapeau blanc」(2022年)のトラックはOuska & Suiker「Raeh」を下地にしていたが、本作でもビートメイカーのSuikerがトラックを提供しており、二人の相性の良さが伺える。彼女は自身の影響源としてエリカ・バドゥやカリ・ウチスなどをあげている。デビュー曲でネオソウル色の強い「Move On」(2020年)は前者、Suikerとのコラボ以降の楽曲、特にちょっぴり儚いダンス・ミュージックである本作は後者の側面が見受けられる。声色はリゾを彷彿とさせるが、抑えめでクールな仕上がりだ。(杉山慧)

Yokkorio – 「Feather」

2018年以降、台湾インディーシーンの最重要バンドとして人気を集めたThe Fur.。2021年のセカンド・アルバムを最後にバンドは活動休止から解散、Yokkorioは同年始動したヴォーカル柚子のソロ・プロジェクトだ。ドリーム・ポップの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ甘酸っぱいサウンドはそのままに、本作ではよりアコースティックで抒情的な一面をのぞかせる。アイルランドが舞台のhuluオリジナル恋愛ドラマ『ふつうの人々』にインスパイアされた人間関係にまつわる1曲で、共同制作には彼女がツアーのサポート・アクトを務めるdeca joins、そして我是機車少女の凌元耕を迎えるまさに台湾インディーの粋の結晶だ。(Yo Kurokawa)

石川紅奈 – 「Sea Wasp」

Verveから3月にメジャーデビューするベース/ヴォーカリストのアルバム先行リリース曲。プロデューサーは小曽根真。国内外で活躍する腕利きミュージシャンが参加し、ギター、ピアノが全編の印象を決定づける手数の多いドラムの上に、力強いソロをとっていく。自身はウッドベースを冷静に抱えながら透明感あるスキャットで、タグボートのように縦横無尽に奏でる彼らを港へ導く。どこかジャズという枠を意識させない自由さを感じるのは、スペイシーな音響とポップなメロディの影響か。ジャズが他のジャンルを越境して盛り上がりを増す中、こうしたオーセンティックだが実験的で開かれた音楽こそが、ジャズ本来の間口の広さを認識させてくれる。(キドウシンペイ)


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