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BEST 11 TRACKS OF THE MONTH – September, 2020

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Badge Époque Ensemble – 「Sing A Silent Gospel」

トロント拠点の彼らが、近年カナダから届く音楽を支えていたと言えるかもしれない。本楽曲には、カナダ拠点のU.S. GirlsことMeg RemyとDorothea Passがヴォーカルで参加しているが、彼らとの共演は初めてではない。このバンドの中心人物であるMaximillian TurnbullはU.S. Girlsの楽曲制作やプロデュースに関わり、メンバーも演奏で参加。おまけにアンディ・シャウフのライヴに参加するメンバーもいるときた。ステレオラブが『ミルキー・ナイト』で行ったブラジル音楽の参照や、ブルーノ・ペルナーダスを思わせるオーケストラルなサウンドが、今トロントの凄腕の音楽家たちによって届けられる。(加藤孔紀)

Jeff Rosenstock – 「DONE DONE DONE」

5月にニュー・アルバムをリリースしたジェフ・ローゼンストックによる最新EPに収録された一曲。主に6月、自宅で録音作業をしたという本曲は、曲後半にかけて展開する昂ぶる感情に身をまかせたような轟くファズ・ギター・サウンドと、拡声器のようなエフェクトのヴォーカルが体を震わす、本作で最も彼らしい楽曲だろう。
Bamdcampの作品ページには彼のメッセージが記されている。この曲はあらゆる場所で暴力に苦しむ数多の被害者へ捧げられ、収益は慈善目的の寄付とされる。もし余裕があればこの曲への課金の代替として、あなた自身で寄付をしてみてもよい。政治性と他者への配慮の同居。これが、私が彼を信頼する理由だと痛感する。(尾野泰幸)



Saba – 「Mrs. Whoever」

従兄弟の死の影響を色濃く反映したアルバム『CARE FOR ME』から約2年、昨年はNoname、Sminoとのトリオ・Ghetto Sageのシングル「Häagen Dazs」でも注目を集めたが、ソロとしてリリースは久々。セルフ・プロデュースの穏やかなトラックの上で、手にした名声、プレッシャー、そして積み上げた自らの努力を、物憂げに、確かめるようにラップしていく。MVに付されたコメントにあるように、彼は音楽を自分を見つめ新たな道へと進むためのものとして捉え、だからこそ完璧よりリアルを描くことを選択し続けている。なお、オフィシャルサイトに表示される赤い電話機は彼の故郷シカゴの市外局番を入力するとMVが再生される仕様だ。(高久大輝)

台風クラブ – 「日暮し」

この曲の背後にあるのはオアシスでありブルートーンズであり……つまりは90年代のブリットポップの欠片。ただ、ヴォーカル&ギター/ソングライターの石塚淳はそうした文脈関係なく荒削りなギター・サウンドとメロディの良さだけに倣い、暑い京都で極上の“夏の終わり”を作り上げた。とはいえ中盤のギター・ソロやリフがスワンプ風だったりするあたり、米南部化した90年代後半のシャーラタンズを思わせて、ちゃんと歴史に学ぶ石塚のひたむきさが垣間見えたりもする。自粛期間に石塚の自宅の防音室でドラム以外を録音。ミックスは江添恵介(渚のベートーベンズ)。「日暮し」とは「その日暮らし」のことであり蝉の「ヒグラシ」のことでもある。石塚のメランコリアが全開した屈指の1曲だ。(岡村詩野)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Big Sean – 「Everything That’s Missing” ft. Dwele」

同郷のDweleを迎えた一曲。『Detroit 2』で、ビッグ・ショーンは故郷デトロイトへの愛を示す。その最も分かりやすい形は総勢11名の「Friday Night Cypher」だが、こちらはより彼の内面に迫ったかたちだ。J.コールが『2014 Forest Hills Drive』(2014年)でそうしたように、あるいはポスト・マローンが『Hollywood’s Bleeding』(2019年)でそうしたように、ショーンは自らの居場所をハリウッドでなく故郷に見出す。同市の厳しい冬の寒さを思わせる金属音に続き、彼はツイッターよりも本能をフォローすることを宣言する。長いキャリアを経て再び原点に立った32歳の、旅立ちの歌だ。(奧田翔)

Joshua Burnside – 「Driving Alone in the City at Night」

北アイルランドのSSWの最新作『Into the Depths of Hell』から。おそらく音源の制作期間、彼が暮らすベルファストも移動が制限されていたことと思うのだが、アイリッシュ・トラッドの香りをまとう老獪で朴訥とした語り口が、タイトルの通り窓の外で移り変わっていく情景を浮かび上がらせる。街の喧騒から閑静な通りを走らせるようにテクスチャーは緩やかに寄せては返し、時折トンネルを抜けるようにドラスティックに盛り立てる中でも、裏拍を刻む弦の駆動は淡々と前進していく。僕とはきっと交わることもない無数の人生を横目にふと感じる孤独。時に高らかに、時にシニカルに歌い鳴らす彼の表現が、どうにもそんなモノクロームの心境と重なってしまう初秋の夜だった。(阿部仁知)

The Moons – 「Today」

 ポール・ウェラーのバンドの一員であるAndy Croftsのソロ・プロジェクトバンドであり、かつてはテンプルズのジェームス・バッグショーとトーマス・エジソン・ワームスレイが在籍していたThe Moons。その当時は曼荼羅サイケデリックな曲もあったが、この10月に6年ぶりにリリースされるアルバム『POCKET MELODIES』の先行曲は、オーソドックスなギター・ロック。これまでの曲にはなかったAndy自身の出身地のブラジルを思い起こされるラテン感漂うパーカッションと、伸びやかなボーカルは憑き物が落ちたかのように自然体。そこにアップライト・ピアノがアクセントとなり曲を締める。目が醒めるようにも聞こえるこの曲は、現状を打破しようとしているようにも聞こえる。(杢谷えり)

syd B – 「RITF」

昨年EP『Water Me』で話題を集めたLAのシンガー・ソングライター、syd Bの新曲。本作は、H.E.R.などを思わせる「Lights On」でみせた軟らかな歌声を、楽曲と映像の両方でさらに強調した楽曲だ。

PCの画面上を映した「Lights On」のMVと違い、Clyde Munroeが手掛けた本作のMVは、VHSのハンディカムを思わせるレトロな質感を持っている映像など穏やかな雰囲気にさせる光の使い方で開放感を演出。彼女が外で心地よく羽を伸ばすシーンとアコギによる始まりや彼女の清涼感のある歌声も相まって、夏の終わりから冬が来るまでの短かい今の季節にぴったりな楽曲となっている。(杉山慧)

Travis Scott – 「FRANCHISE(feat. Young Thug & M.I.A.)」

フォートナイトやマクドナルドとのコラボに加え、話題沸騰中の映画『TENET』への楽曲提供と絶好調なトラヴィス・スコットがヤング・サグとM.I.A.を迎えた新曲。ヤング・サグ名義の「The London」でトラヴィスとの相性の良さは証明されていたけれど、圧倒されたのはM.I.A.。M.I.A.の独特な歌い回しと、エレクトリックなビートが響くバウンシー・トラックとの相性が良すぎる上、一個小隊並の火力を誇る個性際立つ3人が見事に調和している。間のあいたトラックの隙間に気持ち良くハマっていくラップ、それぞれのかけあいやアウトロのシャウトまで味わえる、どこを切り取ってもおいしい作品。(望月智久)

YELLOW黃宣 & 9m88 – 「怪天氣」

「Bad Weather」というシュープリームスのキュートな名曲がある。彼女たちは破局寸前の、明らかに悪天候の恋をポップに歌い飛ばしている。だが、YELLOW黃宣 & 9m88が「怪天氣」で描く恋模様はそう単純に割り切れない。台湾出身の二人は、揺れ動く感情と曖昧な関係を怪しい天気の不安定さに呼応させる。作・編曲の黃宣はバンドのYELLOWとしてジャジーかつファンキーな「羊皮先生」などソリッドなスタイルが魅力だが、ウォン・カーウァイ監督の映画『2046』の台詞「全ての記憶は涙で濡れている」から着想を得て作り始めたという本楽曲では、繊細な一面をみせた。少ない音数と夢うつつなアレンジに加え、抑えたボーカルが冴える9m88のしっとりした歌声も感傷的に響く。(Yo Kurokawa)

リ・ファンデ – 「おかしなふたり (feat.Haruko Madachi)」

久しぶりにデュエット・ソングの旨味がたっぷり詰め込まれた曲を聴いた。ソロ名義初のアルバムリリースを控えたリ・ファンデが、ザ・ワイズリー・ブラザーズの真舘晴子を迎えてドロップした先行シングル。スロウで歌謡的な歌いまわし、言葉尻を濁すようなピッチ感に、2人のいつものヴォーカルには見られないアンニュイさが宿っている。リの楽曲に真舘の歌が応じ、真舘の歌にリが歌で応え……デュエットならではのそんな生々しい共振がそっくりパッケージされているのがたまらない。ギターの小林 “Bobsan” 直一(Mountain Mocha Kilimanjaro)を筆頭に、バンド・メンバーのオーセンティックな仕事ぶりも光っている。(吉田紗柚季)

Text By Sho OkudaHitoshi AbeTomohisa MochizukiYo KurokawaSayuki YoshidaShino OkamuraKei SugiyamaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki OnoEri Mokutani

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