BEST 11 TRACKS OF THE MONTH – November, 2020
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Hope Tala, Aminé – 「Cherries」
前作まではギターを弾き語って作った曲を、シンプルなバンドのアレンジで歌うウエスト・ロンドンのSSWだった。それが最新EPでは一変、サウンドに華やかなアレンジが施されることで、彼女の音楽に新たな可能性が生まれていた。特にアミーネと共作したこの曲では、バウンシーかつ強調されたバスドラムのキックと軽快なアミーネのフロウ、素朴に響くギターのバッキングと物悲しさを感じさせる彼女の歌声とが、一見対称的ではあるが、心地良く、かつダンサブルな楽曲として成立していて素晴らしい。ギターを弾き語るSSWが自室から、自身の歌唱とボサノヴァ・ギターのスタイルはそのままに、フロアで響くサウンドへと一歩を踏み出した。(加藤孔紀)
John Carroll Kirby – 「Love Theme」
《Stones Throw》から出た自身のファースト・ソロ『My Garden』の他、アヴァランチーズからマイリー・サイラスに至るまで今年だけでも多数の作品に参加してきたLAの鍵盤奏者/プロデューサーの新曲が、《Mexican Summer》から到着。シンセやピアノの多彩な音色で優美な空間を創出したこのインスト曲は、2018年の録音ながら、サム・ゲンデル周辺含めた現代LAジャズの上に位置するものであり、環境音楽〜アンビエント再検証の時代を象徴するものでもあり。かつ、ソランジュ、フランク・オーシャンらと仕事を重ねてきた職人気質と、美しい音像を寡黙に追い求めるポップ・ロマンティスト的資質とが交錯する様子も興味深い。(岡村詩野)
Katy Kirby – 「Traffic!」
バック・ミーク(ビッグ・シーフ)も所属するレーベル《Keeled Scales》よりリリースされる、ナッシュヴィル拠点のSSWによる新作からのリード・トラック。薄いヴォコーダーがかかったヴォーカルと、せわしなく動き回るサウンド構成が本曲のインディー・ポップとしてのキャッチーな軽やかさを支える。他方、「あなたしかいない」という一文のリピートが特徴的なリリックが表現するのは、ケイティー自身が怪我をし続けるユニークな本曲のMVでも表現されているように、他人を基準にせず自身の傷をまず自分自身のものとして感じ取るということ。シリアスネスとユーモアを同居させるソング・ライティングが光る佳曲。(尾野泰幸)
Kit Sebastian – 「Abandoned」
昨年デビュー・アルバムをリリース、すでにカルト的な支持を集める男女2人組の、7インチからの1曲。多国籍な楽器とトルコ語のヴォーカル、中東風のメロディとそれを取り巻くフレンチ・ポップ~トロピカリア風のアレンジ──そんな前作を踏襲した本曲でも、バラライカやボンゴ、シタール(だろうか?)といった、国籍もごちゃまぜなアナログな楽器を操り、曼荼羅のような世界を描き出す。まさに「独自」の一言だ。ほぼ録って出しゆえの音のスモーキーさによるのか、セルジュ・ゲンズブールにもたとえられる彼らだが、彼らの場合そのサウンドが濃密なサイケデリアへと結実するのが面白い。スカスカな音空間がデカダンな妖気を放つという、時代と逆行したオーパーツ的存在感。そこが彼らの独自性にして、比較対象に挙がりがちなクルアンビンとの決定的な違いでもあると思う。(井草七海)
Tony Velour – 「H8 ME 2 feat. Alice Longyu Gao」
あまり大きなプロモーションはされていないが、アトランタを拠点に活動するラッパー、そしてプロデューサーでもあるTony Velourの最新作『3M』が素晴らしい。中でも本曲は、ハイパーポップの潮流を牽引する100 gecsのDylan Bradyが手がける変則的なトラックをリズミカルかつ抑揚の効いたフロウで乗りこなす快作で、客演で参加した中国生まれで京都に在住した経験もあるというAlice Longyu Gaoの日本語を交えたラップも異質な存在感を放っていて面白い。もし気に入ったらアルバムを通して聴いても後悔しないはず。(高久大輝)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!
DEN – 「粉」
2019年に中国で放送されたオーディション番組『这!就是原创』で一躍注目を集めたSSWのDENの新曲はネオソウルの系譜に連なる彼の魅力が詰まった一曲だ。ソウル・シンガーとしての確かなスキルに加え、ダンスやスケボー等のストリート・カルチャーに親しむ彼のベースにはヒップホップのフィジカルなリズム感と中国語・英語を軽やかに行き来するワード・センスがある。「粉」―つまり「粉饰」(飾り立てる)というタイトルの通り幾重にも重なる華やかなビートの中を瑞々しいミックス・ヴォイスとファルセットで駆け回る様が、実に気持ち良い。番組出演当時まだ大学4年生だった彼の今後の活躍に更なる期待が高まる意欲作だ。(Yo Kurokawa)
KSI – 「Really Love (feat. Craig David, Tinie Tempah & Yxng Bane) [Digital Farm Animals Remix]」
コロナ禍の不安を横目に街はクリスマス・ムード。しっとりとしたR&Bが聴きたくなってくる季節である。UKのYouTuber/ラッパーのKSIがクレイグ・デイヴィッドとDigital Farm Animalsをフィーチャーしたこの曲はド・ハウスなオリジナルが10月にリリースされたが、新たにTinie TempahとYxng Baneを迎えたオフィシャル・リミックスが追加リリース。こちらは冬っぽいキラキラR&Bテイストに仕上がっていて、00’年代R&Bを彷彿とするメロディにノスタルジーを感じつつ、トラップビートを内包したリズムの新鮮さのバランスが絶妙。何と言ってもクレイグ・デイヴィッドのヴォーカルが一級品だ。(望月智久)
Marika Hackman – 「You Never Wash Up After Yourself」
ロックダウン中のロンドンの自宅で制作され、初期作を思わせるダークで内省的な作品となった最新作『Covers』。そのトーンを決定づけるのが冒頭のレディオヘッドのカヴァーだろう。原曲のスムーズなアルペジオとは対照的にためらいがちにもたつくリズム、晴れない心象を映したようなプロダクション。退廃的な歌詞はオーバーダブされた彼女の歌声によってさらに陰鬱に響き、そこにハエの羽音のようなノイズがまとわりつく。外に出られず感性が死んでいく様が昨今の空気とあまりにもマッチして思わずたじろいでしまうが、徐々に色彩を取り戻していくアルバムの流れを思うと、この克明過ぎるほどの現状認識こそがスタートラインなのだ。(阿部仁知)
Megan Thee Stallion – 「Sugar Baby」
待ちわびられたMegan Thee Stallionのデビュー・アルバム『Good News』収録の一曲。日本語でいうところの「パパ活」に興じるさまを描いた曲だが、そうやすやすと男性に主導権を渡さないのがHot Girl Megだ。時にそのトキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)が批判の対象となるフューチャーを引き合いに出し、関係を持った男性を「あいつはフューチャー気取りだけど、私は彼を過去形にする」とバッサリ切り捨てるラインは痛快そのもの。00年代前半のサウスらしい軽快なトラックは、Webbie「Bad Bitch」をサンプルしたもの。(奧田翔)
鴨田潤 – 「Reason to dance (feat.寺尾紗穂)」
2020年における重要なトピックの一つは、ここ数年日本語の歌から距離を置いているようにも見えた、イルリメこと鴨田潤の言葉がシーンに帰ってきたことだろう。詩集とセットになった『三』に続き、16年に制作された『ニ』を寺尾紗穂と共にリメイクしたEPをリリース。その中に収められた「Reason to dance」は片想いの大名曲のカヴァーだが、リリックは13年に書かれたという彼のオリジナル。カセットテープを思わせる強いヒスノイズと美しくもいびつな音像の向こう側から、現実感のない新しい日常を強いられる今の私たちを予見し、それでも紡がれていく体温のある営みを慈しむような言葉が聴こえてくる。(ドリーミー刑事)
浮 – 「つきひ」
「浮」と書いて「ぶい」と読む。東京在住のSSW、米山ミサによるソロ・プロジェクト。田中ヤコブ「THE FOG」の7インチ・ヴァージョンで瑞々しいスキャットを聴かせていた人物だ。歌とギター、ピアノにハーモニカというシンプルな編成に加え、既発曲にはあまりみられない分厚いコーラスが美しい。聞き手とほどよい近さで鳴らされる歌、ゆったり隙間を持たせたピアノの佇まいなど、サウンド・プロダクションの一つ一つが、彼女の節回しが持つミクロで有機的な色彩を際立たせている。この寒空の下にあっても、いま己の装いを獲得しつつある一人の歌い手の体温が確かにここに感じられる。そんな幸福なアンビエント・フォークだ。(吉田紗柚季)
【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事
http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/
Text By Sho OkudaHitoshi AbeTomohisa MochizukiYo KurokawaSayuki YoshidaDreamy DekaShino OkamuraNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono