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BEST 10 TRACKS OF THE MONTH – September, 2021

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Bartees Strange – 「Weights」

昨年の個人的ベスト・アルバム『Live Forever』リリース以降、数多くのバンド、ソロ・ミュージシャンの作品プロデュースに抜擢されたと思えば、フィービー・ブリジャーズ「KYOTO」のリミックス・シングルにも登場。先日は《Pitchfork Music Festival》に出演するなど着々と売れっ子街道をひた走る、現行インディー・ロックの裏番長バーティーズ・ストレンジによる最新曲。大味なシンセサイザーを基底に、オルタナ・ギターが唸り、ストレンジのラップ・ライクなボーカルが弾ける彼の音楽的特徴が盟友ウィル・イップとのタッグのもとでこの2分36秒に閉じ込められている。何処を取っても文句なし。(尾野泰幸)

Dijon – 「Many Times」

Abhi//Dijonの1人でLA在住のSSW、Dijon Duenasの待望のデビュー・アルバムからの先行曲。この曲の何が出色か。それは、ラップのようにたたみかける歌唱とソウルフルな歌唱とが、緊張と解放となってわずか2分6秒の中をダイナミックに行き来してみせているところだ。加えて、歌の背後からは、パトリース・ラッシェン「Haven’t You Heard」さながらのピアノのフレーズが聴こえてくる。サビに向かって一気に解き放たれるダンス・ミュージックの、とりわけディスコのマナーを踏襲しているのかとも思ったり。《blondedRadio》でも取り上げられたMk.geeと、ビッグ・シーフやニック・ハキムにも関わるアンドリュー・サーロがプロデュースで参加している点も注目。(加藤孔紀)

Hyd – 「No Shadow」

2014年に唯一のシングル「Hey QT」を発表したソフィーとA.G.クックの共同プロジェクト、QTにおけるアイコン(音源のヴォーカルはHarriet Pittard)として知られるHayden Dunhamによるソロ・プロジェクト、Hydの11月にリリースを控えたEPから先行シングル。2017年に一時的に視力を失い彼女が得た、暗闇の中でこそ境界線や限界を手放すことができるといった感覚が、A.G.クックのプロデュースによるふくよかなシンセとエフェクティブなヴォーカルが生み出す浮遊感とシンクロしていくよう。五感のひとつを失うとその他が研ぎ澄まされるというのはよく聞く話だが、「夜が私たちを結びつける」と響く歌声には経験を伴ったからこその説得力がある。(高久大輝)

Moses Sumney, Sam Gendel – 「Can’t Believe It」

既に交流がある二人とはいえ、こうして直接コラボレートをするとそれぞれの特異性に明確な共通点があることが改めてわかる。16歳のモーゼス・サムニーがカリフォルニアに引っ越してきて最初にラジオで聴いた曲というT-ペインのこの曲(2008年の『Thr33 Ringz』収録)を、彼は原曲そのままにオートチューンを用いて自身の歌唱力・表現力を人工的に歪ませてみた。そして、リル・ウェインを迎えたオリジナルに対し、モーゼスはサム・ゲンデルを共演相手に指名。テープの逆回転風のサムのスモーキーなサックスもまた生楽器らしさを遠ざけたような音色だけに、メロウなR&B調でもフィジカルになり過ぎていないのが面白い。(岡村詩野)

Wendy Eisenberg – 「Analogies」

バンジョーをルーツ音楽の手段としてではなく、ラディカルな武器として認識するようになって久しい。近年はディス・イズ・ザ・キット、ステフ・ジェンキンスのようにバンジョーを手にした女性SSWも増えているが、ジョン・ゾーンとの交流もあるNY拠点のこの人はとりわけ個性的だ。現代音楽を奏でる手法となることもあれば、この曲のように女性版サム・アミドンと思えるようなルーツ音楽のモダナイズに挑んだ歌モノもあって一筋縄でいかない。11/5にはこの曲を含むアルバム『Bent Ring』が出るが、その前には超絶アヴァンギャルド系のアルバム『Bloodletting』もリリースされる。間違いなく今年の個人的ベスト枠の一人。(岡村詩野)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴きる逃し注意の楽曲をピックアップ!

Charli XCX – 「Good Ones」

自身も立役者であったハイパーポップ的サウンドを離れ、ユーリズミックス「Sweet Dreams」を連想させる80年代風ダンス・ポップへ。2018年の楽曲「1999」振りにプロデュースを担当するのは「Blinding Lights」はじめザ・ウィークエンド近作も手がけるオスカー・ホルター。繰り返される「わたしはいつも良い人を手放してしまう」というリリックはビターなラヴソングである以上に、「1999」同様の過去のカルチャーへの憧憬とも重なり、なにより今年1月に亡くなったソフィーへの追悼という解釈が可能。チャーリーの固定ツイートには葬礼をイメージしたMVに添えた、墓石の絵文字が哀しいほどキュートに並ぶ。(髙橋翔哉)

!!! – 「Fast Car / Man On The Moon」

ニューヨークのガレージ・ディスコ・バンドが、さもすれば懐メロクラシックと揶揄されそうな20世紀の名曲をコロナ以降の世界に鮮烈に蘇らせた。トレイシー・チャップマンの「Fast Car」は近未来的なスーパーカーに置き換えられてスピードを更にあげて走り去る。リリックだけを抽出してブレイクビーツ仕立ての「Man On The Moon」を聴くと「ヒトはホントに月に行ったのか?」と陰謀論を説く歌にさえ聞こえてくるから面白い。誰もが知るモンスター・バンドである以前にR.E.M.はKRSワンやQティップを客演に迎えるような常にヒップでオルタナティヴな存在だった。マイケル・スタイプがこのカバーを聴いて大喜びして絶賛しているがその証拠。フロアでみんなで大きな音で聴きたい。(山田稔明)

Oneohtrix Point Never & Elizabeth Fraser – 「Tales From The Trash Stratum」

2020年のアルバム『Magic Oneohtrix Point Never』収録曲に、コクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーをフィーチュアした作品。同バンドはOPNが影響を受けたアンビエントの文脈にも、いま隣接するポピュラー音楽の文脈にも存在しており、さらに、ディストピア感ある原曲と彼女の「天使の歌声」はどちらも異世界の空気を放っているので、納得の組み合わせだ。繰り返されるチェンバロのアルペジオと、鳥のさえずりや旋律と呼応する柔らかく透きとおったボーカルが印象的。植物の映像に波紋をイメージしたグラフィックが重なったオフィシャル・ヴィジュアルと合わせると、精霊と天使の会話にも聴こえてくる。(佐藤遥)

Remi Wolf – 「Sexy Villain」

ヴィヴィッドな衣装とキャッチ―な楽曲が話題のソングライター、レミ・ウルフによるデビュー・アルバムから先行曲。DCコミックへの言及など近年の悪役を主人公にした映画群にみられるカラッとした雰囲気が心地よい。特にサビ終わりの”抜き足差し足忍び足”と歌う所はコミカルでもあり象徴的だ。その流れの中でのロバート・デ・ニーロへの言及は、彼が主人公を演じた映画『キング・オブ・コメディ』などを参照点とし社会から居場所を失った者の悲哀を描いた映画『ジョーカー』がどうしても頭をよぎる。7月にリリースした「Liquor Store」でも依存症について歌っており、そうしたシリアスなテーマも含めて聴かせてしまうのが彼女の魅力だ。(杉山慧)

Snail Mail – 「Valentine」

物憂げな電子音が丁寧にレイヤーを重ねていく様が新境地を感じさせる、セカンド・アルバム『Valentine』からの先行リリース。なるほどボン・イヴェールなどを手がけてきたブラッド・クックが共同プロデュースというのも頷ける。だがその先のコーラスで繰り広げられるのは、90年代オルタナへの憧憬を鳴らしてきたこれまでの作品をさらに上回る激情のギター・サウンド。同性愛者の苦悩が綴られた本曲だが、その社会的理解は未だ果てしなく遠いことを示すかのようなあまりにドラスティックな展開だ。ここで描かれているのは諦念や怨嗟、復讐心にも感じられる。しかしそんな感情ごと昇華せんとするその姿が、僕にはどこまでも美しく見えるのだ。(阿部仁知)

Text By Hitoshi AbeHaruka SatoToshiaki YamadaShoya TakahashiShino OkamuraKei SugiyamaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono

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