BEST 10 TRACKS OF THE MONTH – May, 2021
Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!
Chime & Ace Aura – 「The Future (Melodic Riddim Vol. 1 Sample Pack Demo)」
ダブステップ・シーンで活躍する2人のプロデューサー、ChimeとAce Auraがタッグを組み初のサンプルパックをリリースしていて、本曲はそのデモ。要はこんな風に使えますよというお手本なだけあって、ばっちり踊れるのですが、曲に使うための音を曲でプロモーションしているわけで、あんまり良くても逆効果では?などと思わなくもない。SPLICEから購入できます。
ところで、サンプルパックなるものの便利さはわかっていても、このままでいいのかと音楽を作らない自分でさえ考えたり……。まあ、音楽はいつだってそんな憂いを越えていくのでしょうが、タイトルの「The Futute」は皮肉っぽく読めたりもしますね。(高久大輝)
Hazel English -「California Dreamin’」
昨年のアルバム『Wake UP!』のインスパイア元となった楽曲を公開したヘイゼル・イングリッシュ。アルバムの内容そのままに、60年代後半~70年代前半のサイケデリック・ポップが並ぶプレイリストの冒頭を飾るのが、自身によるママス&パパス「California Dreamin’」のカヴァーだ。原曲に忠実なアレンジに手作り感満載な音作りながらも、翳りと繊細さを宿した自身の声による多重コーラスが、サイケデリックさよりも、どこか儚い夢見心地を醸し出すところが彼女らしい魅力だ。オーストラリアからLAへ移住、その地の在りし日の幻を追いかける“夢追い人”としての彼女の現在が写し出す潔いカヴァーである。アートワークは彼女の敬愛するマーゴ・ガーヤンのオマージュだろうか、そんなところも、粋。(井草七海)
Sharon Van Etten, Angel Olsen -「Like I Used To」
ロードの新作にフィービー・ブリジャーズやクレイロが参加、クレイロの新作にはロードが……と今年も女性同士の熱い連帯が続いているが、この曲のコラボも2021年度を象徴する1曲と言っていい。どちらとも仕事をしたことがあるジョン・コングルトンがプロデュースだが、曲調は60年代のガールポップのオマージュで、“ウォール・オブ・サウンド”さながらの厚みと奥行きあるもの。特に低音タムのドラマティックな響きと、セカンド・コーラス前から挿入されるキラキラしたエレクトロの絡みが素晴らしい。ファースト・コーラスがシャロン、セカンドがエンジェルで、サビのハーモニーはこれ以上の相性の良さはないと思えるほど美しい。大音量で聴いて鳥肌を立てて昇天して吉、の大傑作。アートワークはハートの『Dreamboat Annie』パロディか? なんにせよガールズ・パワー。(岡村詩野)
Maple Glider -「Baby Tiger」
オーストラリアはメルボルンを拠点にするシンガーソングライター、Tori Zietschによるソロ・プロジェクト、メイプル・グライダーが《Partisan Records》よりリリースする新作に収められた一曲。エコーを聞かせつつも、声の輪郭を残す冷えた歌声が、極めてシンプルなアコースティック・ギターを引き連れつつ体の中へと染み込んでくる。厳格な宗教家庭に生まれ、一時はイギリスのブライトンに住まい、メルボルンへと戻ってきたという彼女が作り出す物悲しくもしかと芯の強さが宿る歌に、同じく(カルト的な)宗教一家で育ち、あちこちを渡り歩きながら育ってきたエイドリアン・レンカーによる歌の姿をかいまみる。(尾野泰幸)
Rich Brian, NIKI, & Warren Hue -「California」
アジア・太平洋諸島系米国人の文化遺産月間である5月に《Asian Mental Health Collective》の後援を目的に《88 rising》によって開催されたオンライン・イヴェント「Asia Rising Together」、その最後にインドネシア出身の3人のラッパー/シンガーによって初披露された。アジアにルーツを持ちながらLAで過ごすリアルと活動の不安を語りながら、一方でLAの広い空を表現するような美しいギターのアルペジオや陽気なフロウと歌声が響くこの曲には、彼らがそこで体験した悲しみや喜びといった幾つもの記憶が交差している。 アジアから異国に渡り暮らす人々の生活とその軌跡が、確かにあるということを描く曲。(加藤孔紀)
Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!
black midi – 「Chondromalacia Patella」
進化の過程を何段階か飛ばしたかの如き怪作『Cavalcade』からの先行リリース。制作に加わったピアノはジャジーなエレガンスを付加し、サックスも現代音楽のような不穏なムードを引き立てるのに一役買っているが、やはり特筆すべきは大胆かつ緻密な曲構成だろう。メインとなるフレーズの種類は決して多くはない。だが、ギターとベースの間で重心を移動しながら展開による強弱で違った響きを生み出しているし、前節からフレーズを引き継ぎシームレスに移行する様も、卓越したDJプレイのようにクールでスタイリッシュ。混迷を極めきった末にポーンと投げ出されるどことなくシュールなアウトロからも、相変わらずの試合巧者ぶりが伺える。(阿部仁知)
City Girls -「Twerkulator」
公開当初から#TwerkulatorChallengeとしてSNSで話題を集めていた楽曲が正式にリリースされた。マイアミのヒップホップ・デュオのシティ・ガールズによる本作は、アフリカ・バンバータ「Planet Rock」を大胆にサンプリングした楽曲だ。
前々から彼女らのコミュニティでは踊られていたのかも知れないが、本作の肝は、言わずと知れたヒップホップ黎明期の偉人の代表曲を、“この曲でトゥワーク踊れんじゃね”と言わんばかりにトゥワークの文脈で捉え直したことだ。「Planet Rock」がTR-808の開発者の意図とは違う使い方で制作された楽曲であることが、余計に味わい深い。(杉山慧)
Erika de Casier – 「Busy」
「好きな音しか鳴ってねーじゃん!」と鬼リピ中なこの楽曲は、コペンハーゲン拠点のエレクトロ/R&Bシンガーが《4AD》移籍後に放ったセカンド『Sensational』に収録。ドリーミーかつ無国籍に鳴り響く弦楽器やハープシコードのサンプルと、2ステップのビートに乗っかるウィスパー・ボイスは、アリーヤからクレイグ・デイヴィッド、あるいはロウ・エンド・セオリーへの憧憬すら覗かせる。過去に出会ってきたダメ男を次々と切り捨てていくアルバムにおいて、〈私は自分がなりたいものになる/ToDoリストはびっしり埋まってるんだ〉と決意を新たにする歌詞も最高。2019年にD.A.N.主催のイベントで来日してたのを見逃したことは、一生後悔しそうです。(上野功平)
GOFISH – 「さよならを追いかけて」
名古屋を拠点に活動するシンガーソングライター、テライショウタのソロユニット、GOFISHによる3年ぶりのアルバム「光の速さで佇んで」からの一曲。もうどんな言葉も付け足す必要もないほど真っ直ぐに心へと届く言葉とメロディ。元山ツトム(ゑでぃまぁこん)によるペダルスティールをフィーチャーし、歌の輪郭をできるだけささやかに支え、自然なまま響かせていくことに専念したような演奏。イ・ラン、井出健介によるどこか不器用な手触りが残るコーラスも胸を打つ。自分の中にあるあらゆる葛藤や愛憎、周囲をとりまくすべてのしがらみから解放された時、心に残る最後の感情がこんな景色だったらどんなに素晴らしいだろうと思った。(ドリーミー刑事)
Lil Baby & Kirk Franklin – 「We Win」
壮大なゴスペル・トラックとオートチューン・ラップが梅雨時期の湿気を爽快に吹き飛ばしてくれるハレルヤ・チューンはレブロン・ジェームス主演『スペース・プレイヤーズ(邦題)』のサントラに収録。リル・ダークとのジョイント・アルバムも話題のリル・ベイビーと、ゴスペルのカリスマ、カーク・フランクリン、両者の個性をキッチリまとめるのは名プロデューサー、ジャスト・ブレイズという映画サントラならではのエクスクルーシヴなツイストだ。オフィスのスピーカーから、お馴染みのプロデューサー・タグが聴こえた瞬間「Shazam」した。初期カニエやチャンス・ザ・ラッパーのフィーリングもありつつ、NY直系のダイナミックなドラムが真骨頂。(望月智久)
【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事
http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/
Text By Hitoshi AbeTomohisa MochizukiDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki OnoKohei Ueno