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BEST 10 TRACKS OF THE MONTH – January, 2023

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

abracadabra – 「at the zoo」

ざわめき。その音たちが醸しだす得体のしれなさは、ミュータント的な夜行性のディスコ。あるいはダブ的な処理を施したギターと打楽器の刻みや、ノー・ウェイヴの力を借りたサックスによるけたたましい咆哮は、そこに無数の存在の影やにおいを意識させる。トム・トム・クラブやESGにしばしば喩えられるオークランドの2人組は、そのチャーミングさとチャンプルー感はそのままに、『Discipline』期キング・クリムゾンのアイディアやロビン・スコットのキッチュさを参照することで、こわばりつつも気のおけないパーティーへ誘いかける妖しさを手にいれた。そのほかにも彼女たちの80年代ニュー・ウェイヴへの愛着が詰まったセカンド・アルバム『shape & color』から。(髙橋翔哉)

M83 -「Oceans Niagara」

M83ことアンソニー・ゴンザレスが帰ってきたと感じたのは私だけではないはず。3月にリリースされる新作から「Oceans Niagara」は発光するようなシンセの硬い音、爽快なクリーン・ギターが対になる。そのM83特有のサウンドは、エネルギッシュで夢心地に誘うようだ。実兄のヤン・ゴンザレスが手掛けたMVは、友情をテーマに制作されたという。幼少期に二人で見たアニメやTV番組からの影響を、奇妙かつサイケデリックな色彩に反映させる。そういえば幼い頃、未知の世界というのは不安や恐怖を感じることなく、高揚する気分があったのかもしれない。ヴォーカルの“Beyond Adventure”と繰り返す歌詞からは力強さをも感じ取れるようだ。(吉澤奈々)

SadBoi – 「Only U」

ピッチアップしたヴォーカル・サンプルが回転し、プロデューサータグが鳴る。そして聞こえてくる、しなやかな歌声。聞き覚えはないだろうか。昨年からSadBoiという名義でリリースしているのは、SNSを見ても、クレジットを見ても、どうやらEbhoni Jade Cato-O’Garro、以前は“Ebhoni”という名義で活動していたシンガーということで間違いなさそうだ。過去には《Pitchfork》でもトロントのR&Bの王座を奪還する存在として取り上げられた彼女がどんなきっかけで名義を変えたのか、残念ながらその詳細は掴めていない。とはいえ、フックの「Only U」という言葉の前の切なくもあり皮肉っぽさもあるため息だけでその表現力が健在であることがわかる。引き続き注目したいシンガーだ。(高久大輝)

Sam Gendel feat. Meshell Ndegeocello – 「Anywhere」

今年も絶好調のサム・ゲンデル、ニュー・アルバム『COOKUP』が2月24日にリリースされるが、この先行曲含めて90年代〜2000年代前半の間に発表されたR&B/ソウルのヒット曲のカヴァーになっている。アリーヤ、ビヨンセ、ボーイズIIメンなどをとりあげたそのアルバムについてはまた機会を改めるが、まずはこの先行曲のクールさにはお手上げになってしまった。ヴォーカル・グループ、112の98年の曲をかなりミニマルにカットし、歌詞も一部のみに短縮してコーラス・パートをミシェル一人に託す大胆さ。そして原曲でフィーチュアされたリル・ゼインのラップ部分をサムのサックス・パートに置き換えたかのような曲後半。ブレスやスモーキーな音色、タンキングがそのまま歌い手の呼吸を伝えたような、去年の来日時(6月)のジュディ・シルのカヴァーを思い出す。(岡村詩野)

Tiny Ruins – 「The Crab / Waterbaby」

ニュージーランドはオークランドを拠点とするミュージシャン、ホリー・フルブルックを中心とした“音楽集団”、タイニー・ルーインズによる最新楽曲。透明度を極端に高めたギターと主張の強いメロディアスなジャズ・ベースが楽曲を導きながら、そこへ印象的に挿入されるチェロの音色が曲全体の爽やかな印象を支えている。「私には儀式が必要/私には慣例が必要」と繰り返し歌われるように、本曲は「道を正してくれたり、その日にチャンスを与えてくれる」儀式や慣例についての歌だというが、自分にとっての何気ない癖やルーティンがその人の実存と深く結びつくこともある。そんな目の前にありながら普段は意識しない一瞬への感覚を研ぎ澄ませた一曲。(尾野泰幸)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Future Utopia – 「We Were We Still Are ft. Kae Tempest」

フューチャー・ユートピアはストームジーやデイヴ、カノといったグライム・アーティストをはじめ、イージー・ライフやカサビアンなどのバンドなどの諸作を手がけてきた英国を代表するプロデューサーのひとり、フレイザー・T.スミスによる初となるソロ・プロジェクト。2020年にファースト・アルバム『12 Questions』をリリースしたが、昨年からセカンド・アルバムへ向けての先行トラックを発表しており、今年第1弾となる本トラックではケイ・テンペストをフィーチャーしている。ヒップホップやハウスなどの従来のダンサブルなアプローチから打って変わって、オリエンタルなフィーリングを伴ったバンド・サウンドで、来るべき2作目がさらに幅広い内容になることを示唆しているようだ。(油納将志)

パソコン音楽クラブ – 「Vector」

ライブで使われる音源などをまとめた『DEPOT vol.1』。このEPで実際に足を運んだライヴを思い出し、気持ちが昂ったひとも多かったはず。そのうちの1曲「Vector」は過去のライブプロジェクトから発掘された素材に手を加えたものとのこと。ゆるやかな推進力とぷかぷか浮遊する心地よさに身を任せ、ブレイクで息継ぎをしたらあとはもうこのまま当てもなく漂い続けたい。いままでのアルバムやEPの最大公約数のようでありながら風景や心情といったコンセプトとは切り離されているからか、聴いているうちにSoundCloudにアップロードされている楽曲を聴きたくなった。vol.1ということで次回以降も楽しみだ。(佐藤遥)

Tunico – 「Sambola」

リオ・デ・ジャネイロのジャズ・コミュニティから、極上のラウンジ・ミュージックが飛び出してきた。ソプラノ・サックスとアコースティック・ギターを操るセッションマンのトゥニコによるデビュー作では、インストMPBの伝統と現行ジャズ・シーンの合流が図られているという。確かに先行公開されたシングル「Sambola」からは、アジムス〜タンバ・トリオ周辺のブラジル産レアグルーヴに通じる勘所の良さをひしひしと感じる。ゲストにアントニオ・ネヴィスを迎えるなど、同時代のローカルなシーンとの繋がりも勿論継続中。ご推察の通り、リリースはUKの名門レーベル《Far Out Recordings》から。(風間一慶)

TYSON – 「Can’t Be Unstuck feat. Coby Sey」

Dean Bluntの新曲「PRESSED」でも歌う才能が朝のまどろみのような空気を届ける。《Touching Bass》のコンピレーションにも参加していたMolinaroをプロデュースに迎え、ノイズにまみれた『Conduit』を放ったCoby Seyが見えない絆がテーマのリリックと包容力に満ちたトラックに、物柔らかな歌で呼応する。このロンドンの要注目アクト3者が揃った《NTS》の番組ではトリッキーとLoose Endsに並んでオンエアされ、なるほど、トリップホップとクラシックR&Bの間のどこかに漂うようだ。ネナ・チェリーとプロデューサーのキャメロン・マクヴィーの娘であり、ミュージシャンに囲まれて育ったTYSONが、共同設立した、音楽業界で働く女性、トランスジェンダー、ノンバイナリーのためのレーベル《Ladies Music Pub》からのリリース。(駒井憲嗣)

Vagabon – 「Carpenter」

カメルーンで生まれ、13歳の時にNYへと移住してきた29歳のSSW、レティシア・タムコによるプロジェクト、Vagabonの最新曲。本作を聞くとソランジュとブラッド・オレンジがコラボした「Losing You」(2012年)やヴァンパイア・ウィークエンド、トーキング・ヘッズなどを彷彿とさせるアフロビートを取り込んだポップスで心地よい。自身のルーツと言えば聞こえがいいが、人種や出身地で判を押したように語られがちな音楽業界において、初期はソニック・ユースが引き合いに出されるなど彼女の音楽性の変化は、音楽がそのミュージシャンの個人史であることを教えてくれるという意味でも示唆に富んでいる。(杉山慧)


【BEST TRACKS OF THE MONTH】


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Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiNana YoshizawaIkkei KazamaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono

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