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「美しくも滑稽で、悲しいのにおかしい」
複雑な人間の本質をシンプルな歌に乗せて
Baba Stiltz & Okay Kaya『Blurb』インタヴュー

31 March 2025 | By Hiroyoshi Tomite

スウェーデン系アメリカ人のババ・スティルツ(Baba Stiltz)とノルウェー系アメリカ人のオケイ・カヤ(Okay Kaya)の共作で今年1月にリリースされた『Blurb』。役者としても活躍する一方で2020年以降アルバムをリリースするごとにその名を知らしめてきたオケイ・カヤ。DJとして名声を得ながらも次第にシンガー・ソングライターとしての頭角を現してきたババ・スティルツ。共鳴するところの多い2人が、ユニークな共同プロジェクトへと発展していった経緯について話を訊く機を得た。

2人がヨーロッパで5箇所ツアーを巡るその前日。ロンドンにいる2人の話からは、共通の文化的背景、そして本物の表現に対するこだわりが浮かび上がった。フォーク的な感性と実験的な音が融合する中で、ユーモア、メランコリー、寂しさ、人間関係の不調和、それでいて仄かな希望が感じられるバランスを保つ楽曲が生まれた理由が滲む、穏やかで親密な対話をお届けしよう。
(インタヴュー・文・翻訳/冨手公嘉 トップ写真/John Jones 記事内写真/John Jones, Natasha Steward)

Interview with Baba Stiltz and Okay Kaya

左からババ・スティルツ、オケイ・カヤ Photo by Natasha Steward

──このコラボレーションはどのように始まったのですか?

オケイ・カヤ(以下、カヤ):2年前にストックホルムで初めて出会ったんだよね。最初は共通の知人を介して、音楽について話しながらお互いを知る時間を過ごして。その数ヶ月後、ロンドンで再会し、一緒にスタジオに入ることになった。

ババ・スティルツ(以下、ババ):そうなんだ。最初は一緒に音楽を作るなんて本当に予測していなかった。でも、お互いに共通の友人がいて、ただ一緒に過ごすのが楽しかったんだ。このアルバムはそういう関係性の中から自然と生まれたんだ。

──あなたたちが惹かれ合った要素は何でしょう?

カヤ:私たちは地政学的な意味合いで似たようなルーツを持っている。私はノルウェー系アメリカ人で、ババはスウェーデン系アメリカ人。年齢も近くて、スカンジナビアで同じ時代に育っていて。

ババ:初めてカヤを見たとき、びっくりしたよ。彼女は僕の姉の一人にそっくりだったんだ。すぐに親しみを感じたよ。ほら、2人とも典型的なスカンジナビアっぽい顔をしてないからさ(笑)。俺は悪い癖があって、気が合いそうな人と出会ったら、すぐに自分のデモ・トラックを聞いてもらうんだ。この日も「I Believe in Love」のデモ・ヴァージョンとかを聴いてもらうことにしていたんだよ。

──なるほど。

ババ:その曲は5年前にロンドンで書いたんだけど、デモは5パターンくらいあって。なかなか自分に合うサウンドが見つからなくてね。カヤがメロディーに乗せて歌ってくれた時、本当にすんなりとイメージができた。ようやくこの曲に相応しい居場所を見つけたって感じたんだ。

カヤ:初めて聴いたときからすごく気に入って、ぜひ一緒にやりたいと思った。実際に歌ってみたら、本当にしっくりきた。

──『Blurb』のサウンドについてはどのような点にこだわりましたか?

ババ:プロデューサーのダニエル・フォーガストラム(Daniel Fagerström)と一緒に、完璧なディストーション・トーンを見つけるのにかなりの時間をかけたよ。僕はもともと歪んだ音が苦手だったんだけど、今回の曲にはそのニュアンスが必要だったんだ。特に、温かみがありつつも不完全さが美しく聞こえるようなトーンを作るために、僕たちはスタジオで2日間を費やしたんだ。いろいろなエフェクターを試しながら、どんなにラフに弾いても音楽として成り立つような歪みの質感を探した。最終的には、まるで人間の声のような質感を持つディストーションに仕上げることができたんだ。

カヤ:まるで声のように温かみのある音が欲しかったんだ。最小限の楽器編成が曲の中に溶け込むことで、より自然なサウンドになったと思う。時には、楽器の存在感をあえて控えめにすることで、音楽全体の空間が広がることもある。

ババ:ともすれば、あまりにまっすぐなポップなサウンドになりかねないからね。細部のニュアンスこそがとても重要だった。「Tough Luck」ではずっと一つの音階が鳴ってるんだ。完全なルー・リード、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド大好き人間だから、わかりやすくそこは影響を受けていて。

カヤ:ドローンみたいに無意識のうちにその奇妙なフィーリングを感じ取ってくれている人がいると思う。

──たしかに。楽曲自体はシンプルだけれど、これがメインストリームのポップ・サウンドかと言われると、そんなことは決してない印象で。ひねくれた具合も感じることができる。なんていうか幸せなフィーリングだけじゃない、いろんな感情がないまぜになっているように感じました。

ババ:そう、そこが重要だった。面白さ(ファニーさ)も含めて。人間とは、美しさと恐ろしさ、可笑しさと哀しさが共存する存在だから。このプロジェクトはそこがうまく表現できるなと確信したんだ。

カヤ:ユーモアが感じられないものは絶対作りたくなかった。嬉しかったり、悲しかったり、どっちかだけじゃなくて同時に感じられるというのが本来の人間のありようだと思うから。

Photo by Natasha Steward

──作曲のインスピレーションになったものは何ですか?

カヤ:私は、平凡な言葉を魅力的な曲に巧みに取り入れられる作家に惹かれる。幼い頃、私はラウドン・ウェインライト三世(Loudon Wainwright Ⅲ)のアンチ・フォーク的な音楽を聴き育った。彼の歌詞は面白くも真摯で、そのバランスが心地良くて。あとコーディ・チェズナット(Cody ChesnuTT)の『The Headphone Masterpiece』(2002年)は、ポップさと遊び心の融合のバランスがすごく良いなと。そういうのを自分も意識しているのかもしれない。

ババ:そういえば、カヤのライヴをみたんだけど本当に衝撃的だったよ。LAでみたんだけど。単なるロック・ショーではなく、アート・パフォーマンスでもあり、どこかコメディのような要素もあった。まさに唯一無二のステージだったんだ。音楽業界にいると、よく「これがバックラインで、これがショーの構成で、こうやって進めるんだ」みたいな固定されたやり方を耳にすることが多い。でも、カヤがOllieと一緒にステージに立つのを見て、「そんなルールに縛られる必要なんて全くないんだ」と気づかされた。

観客の反応も印象的だった。まるで日本のライヴのように、観客が本当に音楽に入り込んでいて、礼儀正しく、それでいてすごく熱心に曲を知っていて、歌ってくれる。でも、それが不自然な感じではなく、本当に一体感があったんだ。それがまさにインタラクティヴなパフォーマンスで、僕自身も「こういう形で音楽を届けることができるんだ」と実感したし、アーティストとしての自信を持つきっかけにもなったよ。あれは本当に刺激的な瞬間だったね。

カヤ:私は音楽を作るのが大好きだけど、同じくらいに一貫性がないのも好き。遊び心を持つことが大事だと思うし、ある程度の枠組みは必要だけど、それ以上に大切なのは、観客とどう繋がれるかってこと。それをいつも試してる感じかな。

ババ:そう、それに、観客は本物の体験を求めていると思うんだ。“本物”って言葉はあまり好きじゃないけどね。最近のライヴってすごく計算され尽くしていて、構築されたものが多い。でも、時には「え?今のはわざとなの?それともミス?」って観客が思うような瞬間があった方が、よりライヴ感が出るし、観る人も自分なりに感じ取ることができる。音楽を観るときはそういう体験を求めているよ。

──『Blurb』という広告のコピーみたいなものをタイトルに据えています。ヴィジュアル・アイデンティティをどのように決めましたか?

ババ:リード・ダンカン(Reid Duncan)と《Public Possession》と緊密に協力し、オルタナティヴ・フォークやインディとは直ちに関連づけられないヴィジュアル言語を作ろうと考えた。チューインガムのヴィジュアルとかいくつものイメージ・リファレンスを持って、リードは本当にたくさんの作業をしてくれた。俺も大量の参考資料を送りながら「違う」「これは合ってる」ってやりとりを重ねた。だから、このタイトルは音楽だけじゃなくて、視覚的な世界観の一部としても機能しているんだ。

『Blurb』アルバム・アートワーク

カヤ:そういえば、タイトルを決めたときはストックホルムのショッピングモールにいたよね。確かエスカレーターに乗っててビールを飲みながら、「Blurbって名前にしよう」って(笑)。

ババ:そうだっけ? ああ、思い出した。ちなみに、そのモールにあった「ゴッドファーザー2」っていうイタリアン・レストランももうなくなっちゃったんだけど、僕の母のお気に入りだったんだ。東京のイタリアン・レストランみたいな雰囲気だったよね。良い意味での奇妙さがある店で。

Photo by Natasha Steward

──最後に、このプロジェクトで目指していることがあれば教えてください。

ババ:期待を持たないことが一番の期待かな。お互いの存在を楽しみながら音楽を作る、それが一番大切なことだと思ってるよ。ここのところずっと重めの曲を書いてきたけど、こういう時代だし、シンプルにハッピーな曲を書いてみたいって気持ちが沸いてるんだ。デュア・リパの「Levitating」みたいな。

カヤ:あとはホット・チョコレートのあの曲。なんだっけ? 「I beleive in Miracles」ってやつ(「You Sexy Thing」を歌い出す)。わかる? 一緒に過ごす中で、毎日新しいインスピレーションを得てるし、今後も一緒に楽しく音楽を作り続けたい。

ババ:(頭を抱えながら、恥ずかしそうに)グループ・セラピーみたいなインタヴューだな(笑)。

<了>


Harmony of Simple Songs, Complex Modern Souls. – An Interview with Baba Stiltz & Okay Kaya on Blurb

In January of this year, Baba Stiltz, a Swedish-American artist, and Okay Kaya, a Norwegian-American singer-songwriter, released their collaborative album, Blurb. It’s a work born from the creative resonance of two artists whose individual paths had already been capturing attention. Since 2020, Okay Kaya has steadily made a name for herself with each album, her distinctive songwriting and ethereal voice carving out a unique space in contemporary music—all while continuing her work as an actress. Baba Stiltz, on the other hand, first gained recognition as a DJ, building a reputation in electronic music circles. Yet, in recent years, his talents as a singer-songwriter have come into sharper focus, revealing a more vulnerable and reflective side. The two artists, drawn together by their shared sensibilities, found themselves naturally gravitating toward a joint creative endeavor—one that would eventually take shape as Blurb.

The day before they were set to embark on a five-city European tour, we had the chance to speak with them in London. As they reflected on their collaboration, a vivid portrait of their artistic connection emerged. Their conversation revealed not only their shared cultural heritage but also a mutual commitment to raw, honest expression. It became clear that Blurb is more than just an album─it’s a tapestry of emotions, seamlessly weaving together folk-tinged melodies with experimental textures. The songs hover in that rare space where humor and melancholy coexist, where loneliness and the dissonance of human relationships are rendered with both fragility and warmth. Yet, even in its most miserable moments, there remains a glimmer of hope and love, ─subtle, but unmistakable.

What follows is an intimate conversation with two artists whose creative chemistry gave rise to one of the most hauntingly beautiful records of the year.

Interview with Baba Stiltz and Okay Kaya

Photo by John Jones

“It’s the human condition. Things are beautiful, horrible, funny and sad.”

──How did this collaboration come about?

Okay Kaya : We first met in Stockholm about two years ago. It was through mutual friends, and we spent time talking about music and getting to know each other. A few months later, we met again in London and ended up in the studio together.

Baba Stiltz : Yeah. Honestly, we didn’t plan on making music together at first. We were just hanging out, having fun. It all came about naturally from that.

──What drew you to each other creatively?

Okay Kaya : We share a similar background in a geopolitical sense. I’m Norwegian-American, and Baba is Swedish-American. We’re close in age and grew up in Scandinavia around the same time.

Baba Stiltz : When I first saw Kaya, I was shocked. She looked so much likeone of my sisters. I immediately felt a connection. You know, neither of us really has that “typical Scandinavian” look(laughs). I have this habit—whenever I meet someone I vibe with, I ask them to listen to my demo tracks. That day, I played her a demo version of “I Believe in Love”.

──I see.

Baba Stiltz : I actually wrote that song in London about five years ago. I had maybe five different demo versions, but none of them felt quite right. When Kaya sang over the melody, it just clicked. It was likethe song had finally found its home.

Okay Kaya : I loved it from the first listen. I immediately knew I wanted to work on it with Baba. When I actually sang it, it felt so natural.

Photo by Natasha Steward

──What was your main focus when crafting the sound of Blurb?

Baba Stiltz : We worked with producer Daniel Fagerström, and we spent a lot of time trying to find the perfect distortion tone. I was never really into distorted sounds before, but this album needed it. We spent two days in the studio experimenting with different effects, aiming for a warm but imperfect texture—something that still sounded beautiful despite the roughness. We wanted a distortion that had a human voice-like quality.

Okay Kaya : Yeah, we wanted a warm, vocal-like sound. The minimal instrumentation created more space in the music, making it feel more organic. Sometimes, holding back the presence of instruments can make the whole soundscape feel more expansive.

Baba Stiltz : Otherwise, it might have ended up sounding too straightforwardly pop. The subtle nuances were so important. On “Tough Luck,” for example, there’s a single droning note throughout the song—a clear nod to my love for Lou Reed and The Velvet Underground.

Okay Kaya : It’s like a drone—you might not consciously notice it, but it gives the song this strange, haunting feeling.

──That’s true. The songs are simple in structure, but they don’t feel like mainstream pop. There’s a subtle twist—an undercurrent of bittersweetness.

Baba Stiltz : Exactly. That was the point. The funniness─the absurdity─is just as important as the sadness. Humans are both beautiful and terrifying, funny and tragic. This project captured that duality.

Okay Kaya : I didn’t want to make something devoid of humor. Joy and sorrow can exist at the same time—that’s the essence of being human.

Photo by Natasha Steward

──Were there any specific songwriters or influences that inspired you while writing?

Okay Kaya : I’m drawn to writers who can transform ordinary words into compelling songs. I grew up listening to Loudon Wainwright III’s anti-folk music. His lyrics are both funny and earnest, and I love that balance. Cody ChesnuTT’s The Headphone Masterpiece (2002) also influenced me─it blends pop with a playful, experimental spirit. I think I subconsciously aim for that kind of fusion.

Baba Stiltz : Speaking of influences, I saw Kaya live in LA, and it blew me away. It wasn’t just a rock show—it was like performance art with a touch of comedy. Totally unique. In the music industry, you often hear people say, “Here’s the setlist, here’s the stage setup, this is how we do the show.” But seeing Kaya with Ollie on stage made me realize you don’t have to follow those rules.

The crowd’s response was also incredible. It reminded me of live shows in Japan—everyone was deeply engaged, respectful, and yet still singing along passionately. It felt so genuine and interactive. That experience gave me more confidence as an artist—it was a moment that made me rethink what a live performance could be.

Okay Kaya : I love making music, but I also love being inconsistent with it. Playfulness is important. Sure, you need some structure, but what really matters is how you connect with the audience. I’m always trying to explore that.

Baba Stiltz : Exactly. Audiences want real experiences. I don’t even like the word “real,” but you know what I mean. So many live shows these days feel over-rehearsed, too polished. I think it’s better when the audience is left wondering, “Wait, was that intentional or a mistake?” Those moments feel more alive. That’s the kind of experience I want when I watch live music.

──The album title Blurb feels playful, like an advertisement tagline. How did you decide on the visual identity?

Baba Stiltz : We worked closely with Reid Duncan and Public Possession to create a visual language that didn’t immediately scream “alternative folk” or “indie.” We referenced chewing gum ads and various visual cues. Reid did an incredible amount of work, and I kept sending him loads of references, saying, “No, not this,” or “Yes, this is it.” The title isn’t just for the music─it also works as part of the visual world.

Okay Kaya : I remember we were at a shopping mall in Stockholm when we came up with the title. We were on an escalator, drinking beer, and I just said, “Let’s call it Blurb” (laughs).

Baba Stiltz : Oh yeah! I remember now. By the way, that mall had an Italian restaurant called The Godfather 2. It’s closed now, but it was my mom’s favorite place. It kind of had the vibe of an Italian restaurant in Tokyo─a charming, slightly bizarre spot.

──Finally, what are you hoping to achieve with this project?

Baba Stiltz : Honestly, no expectations are the best expectations. The most important thing is just making music and enjoying each other’s company. I’ve been writing heavier songs for a while, but lately, I’ve been craving something simpler and happier─something like Dua Lipa’s “Levitating.”Because the world is too crazy.

Okay Kaya : Oh! you know, the one that goes, “I believe in miracles” (starts singing Hot Chocolate’s “You Sexy Thing”)─Well,spending time together keeps giving us new inspiration. I just want to keep having fun making music with Baba.

Baba Stiltz : (laughs, holding his head) This interview feels like group therapy.

Photo by Natasha Steward

Text By Hiroyoshi Tomite

Photo By John Jones, Natasha Steward

Interpretation By Hiroyoshi Tomite

Translation By Hiroyoshi Tomite


Baba Stiltz, Okay Kaya

『Blurb』

RELEASE DATE : 2025.01.24

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