流れるようなメロディに乗せたヴォーカルと詞が織りなす、感傷と高揚の自己表現
LA在住のビート・メイカー / 電子音楽家Bathsことウィル・ウィーゼンフェルドの楽曲の特徴は、変則的なビートにメロディアスな歌が絡み、高揚感とメランコリーが同時に共存していることだ。そうした特徴が存分に表現され、ファースト・アルバム『Cerulean』、大病を患って生死を彷徨った体験が大きく影響し、前作とは打って変わってダークな重い雰囲気が全体を覆い尽くしていたセカンド・アルバム『Obsidian』。曲の印象はガラッと変わったが、特異なビートとメロディアスな歌の融合、という点に関しては一貫している。
そして、4年半の時を経てサード・アルバム『Romaplasm』が完成した。これまでの作品に引き続き、ロウ・エンド・セオリーの創始者でフライング・ロータスらの作品のマスタリングでも知られるダディ・ケヴがマスタリングを担当していることもあり、サウンドに注目されがちだが、Bathsの楽曲はヴォーカル、歌詞にも重点が置かれていることも特徴的である。ゲイであることの葛藤や、社会への希望と絶望や、愛する人との旅路ーー歌詞のテーマは非常に内省的だ。「その馬鹿げた運命を祝福しよう あらゆる障害が並ぶ 愛しい男たちの彩り」、「僕は恥ずべきホモ(敢えて差別的な表現を用いているとのこと)なんだ 少しの価値もない」という強い言葉が、感情的で情緒が湧き出るようなヴォーカルで表現され、そこに変則的なビート、浮遊感のあるエレクトロニック・サウンドと、しなやかなメロディが相まった緻密なサウンド・プロダクションの融合は、聴いていると感傷的な気持ちと高揚感が同時に訪れる、なんとも不思議な感覚に陥る。
Bathsは今年、「Dream Daddy」というシングルファーザー同士の恋愛、というテーマ設定が非常に斬新なゲームのテーマソングを書き下ろしている。ゲーム音楽というと、エレクトロニックなサウンドを多用した曲なのかと思いきや、流れるようなメロディとヴォーカルが美しい、彼らしさが詰まった曲である。アルカやアノーニといった、ルックス的にもインパクトがあり、ヴィジュアル面から自身のアイデンティティを打ち出すゲイ・ミュージシャンとは違い、Bathsはあくまで美しいメロディラインに乗せた自身の声と詞だけで自己表現をしているように感じる。
「自分にとことん正直でいたかった」というウィル本人の言葉通り、ここには、自分自身の内面をとことん掘り下げた歌詞と緻密な音作りがある。もはや、ビート・メイカーであると同時に、シンガー・ソング・ライターでもあると言える彼の真価を味わえる作品である。(相澤宏子)
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