これは自分自身への信仰心を見出す道程なのかもしれない
アコギやピアノを基調とした甘美なサウンドと奇妙なアイデアが渾然一体となった、風変わりな宅録シンガー・ソングライター。そんなアレックス・ジアンナスコーリの印象は大きくは変わらないが、本作ではその謎めいた人物像の輪郭が少しはっきりしたような気がしている。それがスタジオのミュージシャンやエンジニア、「神」のモチーフといった他者によってもたらされたことが、本作の大きなポイントだろう。
「神」のモチーフは「具体的な宗教上の存在としてではなく、普遍的な信仰心を象徴するもの」とのことで、暮らしの中で自らを支えるさまざまな事柄が「神」や「信仰」のモチーフを通して散りばめられている本作。リード・トラックの「Runner」で「僕はいくつかの過ちを犯した」とラフな歌唱で独白する様は、諦念ともまた違う前向きな自己受容を感じさせる。本作に登場する二人称・三人称の人々は「神」や敬愛する特定の誰か、あるいは自分自身を奮い立たせる信念や哲学などのようにも感じられ解釈の余地は多いが、対比的に描かれる「僕」の心情がなんともヴィヴィッドに響いている。パーソナルとフィクショナルが渾然一体となり独特の作風に昇華されている本作は、これまで以上に不思議な陶酔を覚える聴き心地だ。
あるいは無情なメロディに憂いを宿す「After All」の、女性の声色で歌う「でも神は傍にいてくれた」に溢れる安らぎ。ピッチシフトやオートチューンを駆使したヴォーカルの変質は本作でも頻繁に登場する彼のお家芸だが、「こうしたテーマを取り上げることによって、自分自身が神や信仰というものに対して、どんな風に感じるか実験してみたかったのかもしれない」と語るような、自身を客体化・相対化しながら見つめ直そうとする本作の試みと、奇しくもマッチしたものといえるだろう。不穏なムードの「S.D.O.S」や、スウィートで切ない響きの「Immunity」、The 1975など現行のモードとの接続を想起させる「No Bitterness」など、ヴォーカルひとつとってもさまざまなアプローチが見られる一方で、ほとんどエフェクトをかけない「Runner」や「Miracles」のラフな歌唱が際立ち、本作に多様な色合いを与えているようだ。
そして本作の重要なファクターであるコラボレーション。特に「After All」のジェシカ・リー・メイフィールドのゲスト参加は、女性の声色も自身で再現してきた彼にとって珍しく、自己内省だけでは描けないパーソナルな情感を浮き彫りにしている。また、初めてのスタジオ録音となる本作ではさまざまなエンジニアやライブバンドのメンバーたちも参加。ストレンジな感触の中にオルタナ/インディー風味をほんのり感じさせる「Blessing」や、ニール・ヤングなどを彷彿とさせる牧歌的な「Forgive」など、バンドを全面にフィーチャーした楽曲でも、サウンドが媒介となって彼の思索に広がりを与えていることが感じられる。
本作は彼のこれまでの歩みの中でも最も率直で晴れやかに感じられる。DIYで歩んできた彼が、周りの人々と手を取り合うことで、より自身に近づいていく道程。周り道のようで近道だったと後になって気づくようなプロセスは、僕らの生活の中でもよく思い当たることだ。本作のインタビューで彼が語っていた「ミラクル……僕が僕であることがすでにミラクルなんじゃないかと思うけどな」という言葉を僕自身も素直に実感できるような、前向きで清々しい心地。そのかたちは人によって千差万別だろうが、誰の傍にも神はいてくれる。それは他力本願なものとも違う自分自身への信仰心ともいえるのかもしれない。(阿部仁知)
関連記事
【INTERVIEW】
「ちゃんとしようと頑張るんだけど元々弱い…みたいな人を描きたかった
フランク・オーシャンやOPNも魅了された、(サンディー)・アレックス・Gの弱者が強くあろうとする虚勢の美学」
http://turntokyo.com/features/interview-sandy-alex-g/
【REVIEW】
(Sandy) Alex G
『Rocket』
http://turntokyo.com/reviews/rocket/