Review

The Drums: Abysmal Thoughts

2017 / ANTI- / Tugboat Records
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28 June 2017 | By Hiroko Aizawa

 常に別離を伴っているバンドである。作品を出すごとにメンバーやマネージャーが離れていき、今作の前には、最後の相方であったジェイコブ・グラハムが去り、私生活でも長年のパートナーと別れたそう。今作のタイトルにある”abysmal”という単語は、底知れない、救い難い、根深い、等の意味を持つ。何故こんなにも常に悲しみと苦しみに満ちているのかは分からないが、今やドラムスそのものとなってしまった中心人物=ジョニー・ピアースは、最早そういったものを昇華していくために音楽を続けているとしか思えない。サーフ・ポップを思わせる、爽やかではあるがマイナー・コード中心で物悲しさや儚さを感じさせるメロディは健在。前作ではサイケデリック色もみられたが、今作はよりタイトでシンプルだ。一方で、ジョイ・ディヴィジョンを彷彿とさせるようなドラミングやギターのリフがあったり、ザ・キュアのような幽玄な雰囲気を纏っていたりと、決して一辺倒ではない。ヴォーカルに関しては、良くも悪くも常にあまり抑揚がなく一定であり、それが感情を押し殺しているようにも聴こえる。 しかし、アルバム最後の表題曲「Abysmal Thoughts」では、悲しみの深淵を乗り越えた先の、ある種の光を感じさせるような珍しく歌い上げるヴォーカルと最後のゴスペルのようなフレーズの繰り返しが印象的だ。たとえ形がどうなっても、ザ・ドラムスの音楽はまたやってくる、と思わせる希望がそこにはあった。(相澤宏子)

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