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「終わらせ方が大事と言われたけど、終わらせない」
ヴォーカリストからラッパーの凌平へ
キャリア10年で選んだ、覚悟のリスタート

09 November 2022 | By Daiki Takaku

ザ・リバティーンズとSEEDAの影響を交差させた、NAHAVANDというロック・バンドをご存知だろうか。クールなギター・リフに絡み合い、畳み掛ける自信たっぷりの不遜なラップ。ギターのTokisatoとヴォーカルのMiyauchiで構成された彼らの自主制作のファースト・アルバム『最強のふたり-Two Of Strongest-』(2014年)を聴いて感じた可能性の大きさを今でも鮮明に覚えている。

さらに、2018年に《CIRCUS Osaka》にてDJ FEARSATANと共にオールナイト・パーティ「Vandalism」を始動。同年にはASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Gotch)が主催するレーベル《only in dreams》に所属。翌2019年にはGotch & mabanua(Ovall)が全曲プロデュースを手掛け、トラップにも接近したセカンド・アルバム『Vandalism』をリリースするなど、NAHAVANDは着実にキャリアを積み重ね、注目を集めていく。

しかし、その稀有な組み合わせの影響元を見ても察しがつくように、ロックとヒップホップの狭間で思うように居場所を見出せなかったのも事実だろう、過去のインタヴューでは「辞める」という言葉もチラつく。そして、2021年にはギターのTokisatoが脱退しNAHAVANDはヴォーカルのMiyauchiによるソロ・プロジェクトへ。ポツポツと曲はリリースされていたが、どのような状態なのか、この頃はあまり見えていなかったように思う。そうこうしているうちに、ヴォーカルのMiyauchiが凌平というアーティスト名で曲を発表し始めていることを風の噂で知る。凌平とはラッパーとしての名義なのか? この変化はどのようにして訪れたものなのか? ファースト・アルバムのリリース時とは大きく変わったラップを取り巻く状況に彼は何を思うのか? 湧き上がった疑問をぶつけるべくコンタクトを取ると、凌平は地元、関西の喫茶店からZoomを繋いで取材に応じてくれた。

画面の中で上着を脱いだ彼のTシャツにはフランク・オーシャン『Blonde』のジャケットがプリントされている。「生涯のベストかもしれない。ぶっ飛んでるときに聴いて、このアルバムの全てが理解できたんです。何を理解できたか忘れちゃったんですけど」と彼は笑っていた。そんな愛すべきミュージック・ラヴァーであり、変わらずに自信家で、それでいて周囲を見渡す成熟した価値観を身につけた凌平の言葉を、たっぷりとお届けしよう。

(取材・文/高久大輝)

Interview with 凌平

──まずはソロ活動をスタートさせた現在に至る経緯を教えてください。

凌平(以下、R):NAHAVANDってバンドを10年くらい続けていたんですけど、ギターのTokisatoから急に「一人でやっていきたい」って言われたんです。残された僕とキムくん(DJ FEARSATAN)は放心状態という感じで。そのときはいろいろ揉めたというか、やりとりはあったんですけどその内容を一方的に話してしまうとフェアじゃないと思うので省きます。それでTokisatoが脱退して、もうめんどくさくなって、(活動自体を)辞めようかと思っていたんですけど、その時にGotchさん繋がりで、ELLEGARDENの細美さんに一度だけお会いしたときに言われたことを思い出したんです。《NANA-IRO ELECTRIC TOUR 2019》っていう、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)、ELLEGARDEN、STRAIGHTENERの3バンドでライヴするイベントがあってそれに遊びに行っていて、アジカンの楽屋でGotchさんに「俺もう辞めますわ」とか絡んでいたら、「俺にも聞かせろ」って感じで上半身裸で入ってきて。「あのよ、恋愛とバンドはよ、始めるのは簡単なんだよ。終わらせ方が重要じゃねえか?」って。そのとき細美さんは別に怒っていなかったんですけど図星のことを言われたから、僕がふてくされた感じで「ああ、はい」みたいに返していたら「お前聞いてんのかよ」って感じで怒られて。なんか俺、いろんな人に一生怒られているんですよ(笑)。

俺はELLEGARDENを学生時代に聴いてきたわけではなかったので、後からELLEGARDENの歴史を調べて。そしたら自分の経験として話してくれたんだと思って。細美さんが話しているときアジカンの山田さんが笑顔で頷いてた画が今だに記憶にありますね。そのエピソードを思い出して、その当時はNAHAVANDでは次のアルバムに向けて曲を作っていたので、今完成しかけている曲だけでもケジメとしてリリースさせてくださいとレーベルの偉い人にお願いして。それで、skillkillsのスグルさん(GuruConnect. a.k.a スグルスキル)といっしょに作業を続けているうちに、一人でやるかという気持ちに切り替わったと言うか。いや、一人ではなくてみんないるなと思ったんですよ。プロデューサーのスグルさんもそうだし、Gotchさんもそうだし、映像を作ってくれているHiroくん(Kenichiro Hiro)もそうだし、DJやってくれているキムくんもそうだし、そういう人たちのことを考えてみんないるじゃんと。それからNAHAVANDの残りの曲とソロの曲を同時進行で作り出したという感じです。

──NAHAVAND名義では「World Trigger」が現状最後の曲で、Tokisatoさんがクレジットされていますよね?

R:ギターはあいつが弾いてたので。NAHAVAND名義で完成させた曲は他にもあったんですけどお蔵入りにして、ソロ活動を本格的にやろうと。

──これまでロック・バンドであるとこにこだわってきたと思うんですが、そこに関して心境の変化はあったんですか?

R:そうですね、NAHAVANDはギタリストがいたのでロック・バンドを名乗ってました。ロック・バンドなら俺もロック・ヴォーカリストのつもりだったんですが、今は一人なのでラッパーですかね。

──ちなみにさっきヴォーカリストとラッパーという二つの表現が出てきましたが、NAHAVANDはこれまでずっとその狭間で活動してきたと思うんです。NAHAVANDがデビューしてからこれまで国内のラップ・シーンも大きく変わって、まさに群雄割拠の時代になっています。その中で自分の名前を変えてラッパーとしてリスタートすることはかなりの覚悟が必要だったと思います。

R:もちろんそうで。今の若い子たちみんなラップ上手いし、その中で自分がどう言う風に輝けるか、というのは難しいことだけど、でも俺ももう10年間ラップを、音楽を続けていて、この人に敵わねえなっていうマインドには一度もなったことはないんです。Tokisatoのトラックでもスグルさんのトラックでも、自分が表現するものは10年間ブレていないので、ずっと。

──じゃあそこに葛藤はなかったんですね。

R:俺が歌えば俺の曲になるので。別にバンドでやろうが一人でラップしようがあまり変わらないと思ってますね。

──今はスグルさんと二人でコミュニケーションを取りながら詰めていくような制作スタイルですか?

R:スグルさんと詰めていく感じですけど、スグルさんは本当に厳しいし、プロフェッショナルなんで、「ここはこうやれ」って感じで、もう塾みたいになってます(笑)。

──つまりヴォーカルのディレクションまでがっつり絡んでいるということですか?

R:はい、今回の新曲「Vice」もGotchさんの《Cold Brain Studio》というスタジオでRECしたんですけど、そのときもラップまでディレクションしてもらいましたね。

──じゃあバンドではなくなったけど、一つのチームでやっているという意味ではあまり変わらないということですね。

R:本当にそうで、だから何も変わらないって感じですかね。

──スグルさんとはどのような経緯で出会ったんですか?

R:Gotchさんの紹介ですね。『Vandalism』はmabanuaさんといっしょにやらせてもらって、「次どうする?」となったタイミングで紹介してもらいました。skillkillsは同世代のKlan Aileenと対バンしていたり、THE NOVEMBERSのケンゴ(ケンゴマツモト)さんから話を聞いていたり、あと京都の《nano》っていう箱でライヴしたときに「この間、skillkillsのライヴやったときにビートをベースアンプから流す方法が良かったからやってあげるわ」と言われたりもして。名前はよく聞いてたんですが、まさかいっしょに仕事できるとは思っていなかったですね。めちゃめちゃ厳しいですけど。

──どういった厳しさがありますか?

R:今までスグルさんにもGotchさんにもRECしているとき一切褒められたことないですね。だから全く認められていないんだろうなって。

──OKテイクがあるわけなので認められていると思うんですが、具体的にどんな指摘があったりしますか?

R:例えば新曲の「Vice」のヴァースの頭は「完璧 痺れさす」って始まるんですけど、ブースで録って出たら「お前、それ自分が完璧と思ってラップしたか?」って。「いや……」ってなるような。技術的な面はもちろん、精神的な面でも教えてもらうことばかりです。いつか褒められてみたいですね。

──今は自宅で最後まで完結するアーティストも多い中で別のアーティストがディレクションに絡んでいることは大きいですよね。

R:そうですね、やっぱり完成度が違う。ありがたい事に俺は若い頃にプロのスタジオでの制作現場を体感してしまったので、部屋で録って出す段階には戻れないというか。月に何曲もリリースできるんです、タイプビートを拾って部屋で録って出すようなクオリティであれば。でも生活水準ではないけど、一度上げてしまったものはなかなか下げられない。今回《Cold Brain Studio》でのRECでは100万円のマイクで録ってもらったりもして。

──そういった制作のスタイルはリリースのスピードの面で考えると厳しくもあると思います。毎週のように新曲がたくさんリリースされている状況に対して思うことはありますか?

R:NAHAVANDで制作していたころは、もちろん自分の中でですけど10曲作って1曲気にいるかどうかという感じだったんですよ。でもソロになってからの「Vice」を含む3曲はどれも気に入っているんです。1曲入魂スタイルというか。30歳になって、ここから人生を振り返ったときに気に入らない曲があるのはもったいないなと。タイミングやコンディションで曲の感じ方は変わったりもしますけど、そうではなく、ブレずに魂を入れて作れているかというところで。作っているときはリスナーのことも全く気にしていない。ときどき「「Hold On」聴いて感動しました」とか言われたりしますけど、もちろん嬉しいけどそこに寄せても仕方ないと思っているし。「Vice」でも歌っていますけど「俺を救う曲がお前を救う曲」というか。自分が気に入った曲はリスナーも気に入ってくれると信じてます。だからそうですね、数打ちゃ当たるとは全く思っていないです。

──今のシーンから見ると逆行していますよね。それはある種の抵抗でもありますか?

R:全然抵抗とかではないんですけどね。またレーベルがついてくれたら予算を気にせずガンガン制作するし(笑)。前よりもすごい気合いを入れて作っているので、ペース上げて出したい気持ちはあるんですけど、《only in dreams》も離れて、仕事をやりながらだと難しい部分はありますね。MVも毎回は作れないし。

──では現状リリースされている2曲と新曲の「Vice」についても伺っていきたいと思います。3曲とも持ち味の一つである攻撃的なフロウが全面に出ていますね。怒りがモチベーションとしては大きいのですか?

R:ファースト・シングルの「Time Crisis」は怒りというよりUKのグライムやドリルを聴いていて、「そういうのやりたいっす」と言って作ったもので。自分の中で、UKのそういったフロウを音楽的に意識した曲ですね。セカンド・シングルの「Reject」は怒りがテーマとしてありますね。政治に対して。

──たしかに「Reject」はこれまでなかったポリティカルな一曲ですよね。

R:ちょっと間違った人を吊るし上げて、みんなでSNSで攻撃して潰してしまうような世界というか風潮になっているじゃないですか、反論のタイミングすらないというか。炎上を収めるのなら、謝罪か沈黙かどっちかしかないような。俺らは銃を持たなくてもこうやってラップ、音楽っていう芸術が自分の手にあって。タイミングによっては現実的に血は流れたりしないけど銃弾より鋭い言葉を武器にしてる。銃で撃たれたら死んじゃうけど音楽だったら相手にも考える余地があると言うか、誰でもアンサーもできるじゃないですか。そういう考えも含めて俺は、俺のボスのGotchさんが炎上したときも俺は側で闘ってきているのを見てきているんで。俺は頭も悪いし、政治的表現は別にいいやって感じでのらりくらりしていたんですけど、ソロになってより深く広く自分の表現を試したくなった、政治に対して歌いたくなったんです。

──今もジャージー・ドリルが盛んになったりとドリル・ミュージックの勢いが衰えません。ドリルという音楽に対しての印象はいかがですか?

R:声質が自分に合っているというか。自分のフロウを改めて考えてみたときにやっぱり攻撃的なフロウが合っているんですよね。俺の持論なんですけど、人それぞれに心臓のリズムがあって、俺は性格がすごくせっかちだからラップも前のめりになる。波形でみると、ラップを録ったときも全部前の小節に食って入っているみたいで。例えば5lackさんとかはたぶん心臓のリズムがすごくゆっくりなんだと思います、だからグルーヴのあるフロウがサマになるというか。自分は言葉を矢継ぎ早に繰り出していくようなフロウが合っているのかなと思います。あとはやっぱりSEEDAさんがリリースした「Nakamura」にくらって。あれを聴いたとき衝動的に「俺もこれやりてえ」って。

──SEEDAさんのようなヴェテランが新しいスタイルをものにしていくことはとても刺激的ですよね。SEEDAさんから影響を受けたことは過去のインタヴューなどでも話していましたが、改めて具体的に教えていただけますか?

R:俺は基本的には日本語で歌っているし、発音も崩さないフロウは意識していて。SEEDAさんの『HEAVEN』(2008年)っていうアルバムを聴いて、変な話「別にすごくないな」と思ったんです。しばらくして『HEAVEN』よりも前の『GREEN』(2005年)というアルバムを聴いて。それはたぶんいわゆるバイリンガル・ラップの走りなのかと思うんですけど、かなり英語混じりで、フロウも日本語をちゃんと発音していなくて「めちゃくちゃかっこいいアルバムだな」と思って真似したりしていたんですけど、BESさんが客演している曲(「Path」)で、SEEDAさんのバイリンガルなフロウの中にBESさんは逆に発音をしっかりしたフロウで入っていたのもめちゃくちゃかっこよかったんです。『GREEN』を経て、もう一回『HEAVEN』とか『花と雨』(2006年)を聴いたときに日本語として発音をしっかりしてラップするのはこんなにテクニックが必要なのかって実感して。俺はそこの挑戦をやっているという感じでもあります。

──音楽としてのラップ、という部分にこだわっているということですね。

R:はい、俺は音楽を追求しているというか、音楽をやっているんで。こんなラップなんだ、こんなビートなんだ、こんなビートにこんなラップ合わせてくるのかよって驚かせたい。俺はあからさまなビートにあからさまな言葉を乗せてもしょうもないと思っていて。感動しないような攻撃的な曲の中で、心に響くワンラインを言いたかったりして。YouTubeで観たんですけど、岡田斗司夫さんかな。ロードラマとハイドラマの違いの話をしていて、ロードラマは感動させるところで感動するようなことを言って人が泣いたり笑ったりする、ハイドラマはよくわからないけど心が動かされる、みたいな。本当の感動は言い表せない感情で、ただ心が揺さぶられる。あからさまじゃない感情の出し方というか。俺は歌詞でそれを表現したい。サグな生き方をしているヤツがサグなことを歌うのは表現として強いですよ、でも俺がやってるのは音楽なんで。ロック・バンドをやっていても音楽的にかっこよかったからラップを始めたので。言いたいことがあるからラップするんじゃなくて、音に乗るヴォーカルとしてかっこいいからラップを選択している。一番優先しているのは、自分がかっこいいと思える曲を作ることなんです。

──なるほど。

R:最近はあからさまなことを言わないってのがテーマですね。あからさまなビートであからさまなことをラップしないっていう。

──じゃあラップはフロウから先に決めていくことが多いですか?

R:歌詞を先に書く事が多いです。でも歌詞もフロウも俺どうやって思いついたか忘れます。作ってる時は没頭しているから口で説明できないですね。身体は覚えているというか。

──新曲の「Vice」はフロウにおいてどのような点を意識しましたか?

R:客演をほとんど入れずに今までやってきて。だいたい3分くらい、ずっと自分一人でラップするじゃないですか。それだとやっぱり聴いていてしんどくなる人もいるみたいで。だから「Vice」は声色を変えていたりもしています。静と動というか、フロウ的には静かなフロウから急にドリルっぽい激しいフロウになったり。そういう部分で飽きさせないことを意識して作りましたね。気がついたら聴き終わっている曲にしたかったんです。聴いていて「まだ終わんねえのかよ」って思う曲もあるじゃないですか、自分の作った曲でもあるし。

──今回の曲はMVもリリースされるということですね。

R:今まで何度も撮影してもらっているHiroくんに今回もお願いしました。街撮りして、スタジオ撮りして、最後に「海入ってもらっていいですか?凌平さん釣り好きですし」って言われたんですけど「釣るのが好きなだけで入るのは別に好きじゃないよ」って(笑)。結局、曲の雰囲気に合わせてスタジオの映像が中心になりましたね。これまでの2曲はヴィジュアライザーだけだったんですけど、今回はHiroくんのアイデアで後ろにヴィジュアライザーを映して、実写とヴィジュアライザーの融合という感じになっていて、気に入ってます。

──paypayの音も印象的です。あれはサンプリングですか?

R:あの部分は最初は自力で歌っていたんです。でもGotchさんがスタジオでサンプリングして貼って「こっちの方がいいじゃん」と言ってくれて、権利的な問題もあるので声を重ねてます。もともと会計のときに音が鳴ってダサいと思っていたんでpaypayを使うのが嫌だったんですけど、でも地元の友達と遊びすぎて、paypayは割り勘するのがめっちゃ楽なんで、みんなで導入したんです。そしたら「paypayやばいね」みたいになって(笑)。それであの音を入れたんで全然浅い理由なんです。

──便利ですよね(笑)。タイトルもイメージと合っている気がしました。

R:MVを撮っているときにHiroくんからも「Vice」って“悪徳”とか“悪人”っていうイメージですごい合ってます、タイトルいつもかっこいいですねとか言われたんですけど、実際は曲の歌詞を書いているときに足元に「Grand Theft Auto」の「Vice City」が転がっていて、そこから取っただけなんです。

──《Cold Brain Studio》でRECしたとのことで、Gotchさんは「Vice」にエンジニアとしてクレジットされていますね。

R:そうなんです。こないだアジカンのライヴに遊びにいったときにGotchさんが「また手伝ってあげようか?」と言ってくれて、今回はお願いしました。話の流れでご飯に誘ったら「いやちょっとマッサージしなきゃだから山ちゃん(山田貴洋)に連れて行ってもらいなよ」とか言われて、「いやいや、俺しゃべったことないですよ」みたいな感じでテンパっちゃって。Gotchさん以外の方は「うわ、アジカンのメンバーだ」と思って緊張しちゃうんです。Gotchさんは今日もGotchさんだな、というか。でもGotchさんは30年生きてきていろんな人と出会ってきましたけど、一番尊敬している人ですね。

──すでにお二人は長い付き合いになるかと思うのですが、今まで言い争いになったことなどはないですか?

R:いや、俺は教えてもらうことばっかりですね。「(活動を)辞める辞める」って騒いでいたときも「まあまあ、そう言わずにまたいっしょに作ろうよ。でももし辞めても友達だよ」とか言ってくれるんです。俺は与えてもらってばっかりで、何かを返したいなと思うんですけど、難しいですね。でもGotchさんとか、Gotchさんを通じてもらった言葉とか経験のようなものを後輩に伝えていくのはいいかなと思っていて。GotchさんにもらったものをそのままGotchさんに返したらそこで完結しちゃうけど、それを違う誰かに渡したら、バトンのようになるし、もしかしたらGotchさんももともと誰かにしてもらったことを俺に返してくれているのかなって。最近職場で二十歳くらいの後輩ができて、音楽じゃないけど服を作っている子で。その子と話していたらキラキラしてるしずっと目も輝いていて、そのときに気づきましたね。ああ、自分もこういう感じだったのかなって。昔は誰も彼も俺の才能がものすごいから優しくしてくれるんだって勘違いしていたんですよ。夢を語ってまっすぐやっているヤツが可愛かったんだなって今になってやっとわかりました。

──受け継げることはたくさんありそうです。

R:その出会いも、職場で着替えていたら、その後輩がロッカーが隣なんですけど、ある日ヘッドフォンをつけていたから「音楽聴くんすか? 何聴いてるんですか?」って聞いたら「いや言ってもたぶんわかんないと思います」って、たまたま言われたアーティストは知ってたんで盛り上がって。そのまま外の喫煙所で話しているとき「おじさんもバンドやってんだよ。Spotifyもあるよ」って感じで教えたら、次の日近寄ってきて「曲めっちゃヤバかったっす」とか言ってくれてそこから仲良くなったんです。話したら「俺も服作って、夢追いかけて今この仕事してるんです。デニム作りたいんです、自分のブランド作りたいんです」って。「じゃあ俺にデニム3万で作ってよ、俺が最初の客になるから」とか言って、それで最近仲良くしてるんです。

──すごく良い話です。ただ、そういった音楽以外で得る充実感は音楽をやる妨げにはなりませんか?

R:「Vice」のRECのときに俺が「マジで思い出の1ページっすわ、今」とか冗談で言っていたらスグルさんとGotchさんの二人に「野心持ってやらないと手伝わないよ」って言われて。これだけいろんな人が関わってくれて、それこそ第一線でやっている人が関わってくれていて、聴いてくれる人が10人20人だとしょうもないじゃないですか。だから俺が出す曲はいろんな人に届いて欲しいと思うし、「野心持てよ」って言われたようにそういう下心もしっかりありますよ。フジロックにも出たい。

──志は高いままなんですね。

R:ずっと信じてくれているんで。結果はわからないですけど、挑み続ける。別に自分の友達だけに聴かせて終わりでもいいけど、それを自分が良いと思って自分の思想を全世界に公開しているんだから、やっぱりそこは挑戦していかなきゃいけないと思っていますね。だらだら続けるんだったら誰でもできるから、関わってくれた人たちを裏切らないように、次の作品ではもっと良いものを聴かせてやろうって。MVを作ってくれているHiroくんも後輩で、彼はめちゃくちゃ不器用だけど、作品に対してすごくまっすぐで、熱くて好きなんです。だから、俺の曲が広くたくさん聴かれていたらHiroくんの才能をもっといろんな人に届けられるのになとも思います。GotchさんもスグルさんもHiroくんもキムくんも、みんな、俺が良い作品を作って、俺はこんなすごい人たちといっしょにやってんだぜって広めたいですね。それがモチベーションかもしれないです。

──それは初期衝動とはまた違った感覚ですよね。10年続けてきたからこそ、というか。

R:それこそ昔は他人の意見を全く聞かなかった。Gotchさんの話ばっかりで恥ずかしくなってきちゃったんですけど、Gotchさんのファースト・ソロに10秒くらい参加したんですよ。その完成したLPを貰ったとき付いていたメモに「俺はいろんな人が関わっている作品がクールだと思う」って書いてあって。俺はそのときはそうは思わなくて、俺が全面に出てるもの、俺の純度が高い方がかっこいいに決まっていると思っていたので。でも今考えると全然違う。今やっていることはやっぱりGotchさんを通した俺、スグルさんを通した俺、Hiroくんの映像を通した俺、誰かを経由して新しい自分が生まれているというか、掛け算なのかな。その意味がわかってからは他人に任せたい部分を任せて作品を作るのが面白いと思うようになってきましたね。

──大きな変化ですね。

R:結局俺は“ノー”が多かったんです。「それはダサいからやりたくないです」みたいな。いろんな人を困らせていたと思う。

──今はマインドが切り替わったと。

R:今は“凌平”っていうプロジェクトをやっている感覚ですね。俺も“凌平”やるし、みんなも参加してくれよっていうか。俺がいて、周りがいるんじゃなくて、みんなで作っているという感じなんで。韓国のDPR LIVEっていうラッパーが好きなんですけど、DPRというチームで曲を作っていて、DPR LIVEはラップ担当のような感じなんです。それを知ったとき俺もそういう感覚かもなって。“凌平”のラップ担当だな、俺ってと思って。だからバンドの感覚にも似ているかもしれないですね。「みんなでやろうよ」みたいな。自分のことなんで都合いいかもしれないですけど。

──バンドをやめたことでバンドに近くなったというのは面白いですね。今後の活動はどのようにイメージしていますか?

R:リリースのペースは遅いかもしれないですけど、もう音楽を辞めはしないです。辞めるとか辞めないとか無くなったんです。音楽は自分にとって生きる意味というか、ときどき思い出したように曲を聴いてほしいし、ライヴにもタイミングが合えば足を運んでほしい。ずっとかっこいい曲を出し続ける自信はあるんで、それをやり続けることが目標というか。

──辞めるとか辞めないとかなくなったタイミングというか、そう音楽を捉えるようになったのはいつのことですか?

R:いつもあとから気づくんです。いつかGotchさんが「ずっと続けられる音楽をやった方がいいよ」って言ってくれたことがあって、そのとき俺は一瞬で燃え尽きるようなかっこいい曲を作った方がいいだろっていうマインドで。でも今となっては、もう辞められないんで。俺、釣り好きなんです、サウナも最近好きです、どっちも好きだけど、やっぱり釣りしてても、サウナ行ってても、それより音楽で良い曲が書けた瞬間が一番痺れるし、その感覚を俺は知っているんで。細美さんには「終わり方が大事」と言われたけど、終わらせない。好きなので、音楽。

──もう活動自体が自分の一部になっているということですね。

R:そうですね、音楽やっていなかったら面白いこともそんなにないし、人と関われることもそんなにないし。10年続けられたんだから、向いてるってことだと思います。誰かに言われたんです、「King Gnuみたいになれないの?」って。でもKing Gnuの人も俺の曲を聴いたらたぶん「ヤバい」って言ってくれると思うんですよ。別の誰かになろうとはしていないんです。

──さきほどご自身でもおっしゃっていましたが、これまで客演はほとんど入れてこなかったですよね。バンドではなくなった今、別のアーティストの曲への参加や誰かをゲストに招いたりすることも考えていますか?

R:そうですね、ドリル、グライムをいち早くやっていたRalphさんといっしょにやってみたいですね。もう一人は小袋成彬さん、めちゃめちゃかっこいい。まず「Gaia」にぶっ飛ばされて、『Piercing』(2019年)はずっと聴いているし、新しい『Strides』(2021年)もかっこいい。スグルさんとはベクトルの全く違った玄人感というか。シンガーとしてもすごい。そういえばこの間、Gotchさんに「1曲くださいよ」って言ったんですけど、「お前にあげるくらいなら自分でやるよ」とか言われて。だから認められてないんですよ(笑)。これから出す曲で見返していきたいですね。

──今まではGotchさんと距離の近いロック寄りのシーンにいたイメージですが、むしろGotchさんと距離の遠いシーンへのアプローチは考えていますか?

R:ラッパーとして例えば《Red Bull》の「RASEN」とか、もしオファーがあったら速攻で出たいし。本当にロック・シーンの中でずっと活動していて、そこだけでずっと泳いでいたのでどうやって他のラッパーと曲をやるのかっていうのをあんまりよくわかっていないし、ライヴしようとおもうとライブハウスが思い浮かんじゃって。クラブでメインのゲストの前に5~10分ライヴやるとかってあるじゃないですか、ああいう発想が全然無かった。だからドサ回りじゃないけど、現場でもっとラップしていきたいと思っていますね。

<了>


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Text By Daiki Takaku

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