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またホンデで会おう〜韓国インディ音楽通信〜第7回
2023年、これからが楽しみな若手4組

12 April 2023 | By Daichi Yamamoto

TURNの読者の皆さま、大変ご無沙汰しております。この間、生活環境が変わったりする中で、なかなかこの連載は更新出来ていなかったですが、今も韓国ソウルに住んでおり、変わらずインディ/オルタナティブ・ミュージックを中心に出来るだけライヴやクラブなどの現場にも通い続けながら、楽しんでいます。今回は韓国インディ・シーンの「これからが楽しみな若手アーティスト」というテーマで、いまブレイク中のアーティスト、まだ韓国国内インディ・シーンでも名前がそこまで知られていないけれど個人的にプッシュしたいアーティストまで4組を紹介します。(山本大地)

HANRORO(ハンロロ)

昨年3月に発表したデビュー曲「입춘 Let me love my youth」がインディの新人としては異例のヒットを記録、多数のメディアからも今年注目のアーティストとして取り上げられている2000年生まれのシンガーソングライター、ハンロロ。BTSのRMがInstagramで彼女を紹介したり、最近では韓国大衆音楽賞の新人部門ノミネートされたりと、その実力は既にシーンの中で認められつつある。まず、そのソングライティング能力。一つの曇りもない爽快でキャッチーなメロディをよく書けるし、パワフルなロック・サウンドの生かし方も巧みで、ここまで発表したシングルは、どれもいつチャートで1位を取ってもおかしくないくらいのポップ・ソングとしての完成度だ。また韓国ロックのアイコンの一人、ジャウリムのキム・ユナとも比較される時にパワフルで叙情的な歌唱も、確かにパンチがある。でも、ハンロロがこれだけ支持を得ている本当の理由は、「Z世代代表ミュージシャン」とも形容される所以である、「青春」というテーマの表現の仕方だと思う。韓国メディア《Newsis》のインタヴューで「若いからといって明るく生きていけるわけじゃなくて、むしろ青春はより痛みがある」と話していたハンロロの歌からは、ときめきや溌剌とした姿に混ざった、現時代ならではの痛みや不安感が、文学的な表現を用いた言葉たちによって正直に伝わってくる。今年前半にEPを発表すると予告しているが、春から秋にかけてのフェスティバル・シーズンには、至る所でハンロロの名前を目にするはずだ。

Dajung(ダジョン)

ハンロロが2000年生まれなら、こちらはまだ昨年高校を卒業したばかり。ただ昨年筆者がダジョンのライブを見て驚いたのは、声の出し方や表情、身振りなんかまで、成熟したベテラン・ミュージシャンかのような多彩な表現力だった。繊細に歌ったかと思えば、声を張り上げたり、ムキになったような強い表情を出したり、涙を浮かべそうになりながら張り裂けそうな感情を晒したり、むしろこの人はミュージシャンというより俳優なのではないかと思うほどで、独特のオーラもあった。ダジョンは中国に住んでいた中学生の時からj.knifeという名前で《Bandcamp》に自作曲を多数アップロード、その当時の楽曲を集めて一部を再録したアルバム『Jayknife』を2021年に《Electric Muse》から発表している。『Jayknife』の楽曲の多くは、ループをベースにしたローファイなスタイルだが、歌はそれに反してとても力強い。10代ならではの微かな希望や不安感を痛切に歌う姿は、フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーを思わせる「DIYなエモ・フォーク」っぽくもある。昨年から遂に本格的にライブ活動も始めたが、現在はチユネ(ex. Parasol)、JNKYRDら先輩ミュージシャンとも交流しながら、共に楽器の構成、作曲スタイルなど新たな方向を模索しているという。中でもパーカッシヴな新曲「Last nail」などを聴いていると、ジョニ・ミッチェルやテイラー・スイフトからレディオヘッドまでフェイヴァリットに挙げる彼女の無限のポップの可能性が見えてくる。次にどんなことをしてくれるのか!? という意味ではいま韓国の若いミュージシャンで一番楽しみな人だ。制作中だというセカンド・アルバムにも期待したい。

Wonho(ウォノ)

シンガーソングライター兼ギタリスト、ウォノは、60年代から70年代中頃までのポップ・ミュージックへの底知れない愛情を持っているアーティストだ。ヴィンテージな楽器を選んで使うことは勿論、テープマシンを使って録音したり、各作品のアートワーク、それから3月に発表されたファースト・フル・アルバムのタイトル『The Flower Time Machine』からはヒッピー・カルチャーへの憧れも伺える。でもその愛情が一番説得力を持っているのはやはり、作詞と作曲はもちろん編曲まで一人でやり遂げた楽曲自身であり、先述のアルバムだ。驚かされたのはそのスケールの大きさ。基盤にあるフォークやサイケデリック・ロックはもちろん、モータウンやサザン・ソウルのグルーヴで踊らされたかと思えば、ジョン・レノンやジョージ・ハリスンばりの美しい旋律にうっとりしたり、後半にデヴィッド・ギルモアばりのギター・ソロが聴こえてくる、12分超えの大曲「봄비 Spring Rain」の壮大さに圧倒されたり。さもジャンルを横断しながら当時の名盤の数々を聴いているかのような感覚を覚えるほどだ。とはいえ、ウォノの楽曲は過去と現在だけに留まりはしない。例えばメランコリックなバラード「그리움이 내 마음의 문을 두드리면 When The Longing Knocks On The Door Of My Heart」を聴いて思うのは、コード進行やプロダクション、楽器一つ一つの音色まで、過去のものを研究することで、自らも50年後にも聴かれるような耐久性のあるポップ・ミュージックを作ろうとしているのでは、ということ。タイムマシンは未来にも向いている。“ウォノとタイムマシン”という名義でのバンド活動からも目が離せない。

concorde(コンコルド)

デビュー・アルバム『超音速旅客機』が先日、韓国大衆音楽賞の最優秀ロック・アルバム部門を受賞した、89年生まれ、ジャズ・バンド、oZo Trioのギタリスト、オ・ジホによるプロジェクト、コンコルド(韓国語読みは“コンコドゥ”)。1969年に初飛行をした今はなき超音速旅客機からバンド名を借りた通り、彼もまた、遠い過去の時代への憧憬が詰まった音楽を鳴らしている。ただこちらは、韓国ロック音楽の父、シン・ジュンヒョンのギターと、韓国ロック史で最も偉大なバンド、サヌリムのボーカル、キム・チャンワンとのミックスとよく形容される、韓国の中年以上なら誰でも懐かしいと感じる感性だ。一曲目の「무지개꽃 피어있네 Rainbow flowers are blooming」から聴いてみよう。わざと20万ウォン(約2万円)の安価なギターやマイクを使ったというだけあって、現代のレコードとは思えないこもったような音の質感、独特の抑制の効いた演奏が聞こえてくる。洗練さや派手さの代わりに感じられるのは、ギターの音を歪ませること、指の動きやアームを使って揺らぎを作ること、そういうギターの音や演奏そのものの繊細さだ。そしてハーモニーを丁寧に追いかけるか細い美声からは、過ぎ去った過去や離れていった何かへの悲哀が滲み出ている。あるインタヴューで「温故知新」という言葉が好きだと語っていたオ・ジホ。過去を再現してみることを通してこそ、学べることがあるということを独特のやり方で表現している。


連載アーカイブ

【第6回】
「同時代の最もかっこいいバンドたちと一緒に肩を並べたい」
韓国から最狂のポストパンク・バンド、ソウムパルグァン登場

【第5回】
2021年韓国インディー・ベスト10
【第4回】
海辺の田舎町から聴こえてくる懐かしいフォーク!?〜韓国インディ・シーンに登場した新鋭、サゴン
【第3回】
Best Korean Indie Albums for The Second Half of 2020
【第2回】
朝鮮伝統音楽からジャズ、ファンク、レゲエまで…韓国インディ・シーンのルーツ音楽を更新するバンドたち
【第1回】
Best Korean Indie Albums for The First Half of 2020

Text By Daichi Yamamoto

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