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話題騒然! これはコンポーズなのかパフォーマンスなのかそれとも……?

公演中の空間現代の新作《オルガン》をさらに紐解く

13 July 2017 | By Kota Takenaka

 東京から京都に拠点を移し、ライヴ・ハウス《外》をオープンして今年9月で1年を迎える空間現代。彼らが2016年に発表した公演『擦過』に続く、全編書き下ろしの新作公演『オルガン』が、彼らの本拠地であるその京都《外》において7月の6日間催されている。東京ではまもなく7月15日、《スーパーデラックス》にて一日限り開催されるこの公演についての最新インタビュー、《前編》に続く《後編》をお届けしよう。(取材/文:竹中コウタ 写真:Katayama Tatsuki)

Interview with Kukangendai

――《前編》の最後には作曲の話になっていましたが、さきほど、練習を見せてもらって感じたところ……あれは作曲なのでしょうか?

一同:(笑)

野口順哉(以下N):どういうふうにみえましたか?

――僕が覘かせてもらった時間は、ごく短いセッションをして、それを録音して、それを客観的に聴きなおして、それを修正していくっていうのを何度も何度も繰り返していて…。

古谷野慶輔(以下K):そうですね。基本的に、作り方としてはなにかしらのアイデアをそれぞれが出して、一つのフレーズを作ってきたりして、それを演奏してみてイキになったら、例えば、ドラムがイキになったら、じゃあベースどうする? みたいな。でまた作って、録音して聴いて…、僕らは譜面も書けないし、音楽理論もわからないから本当にひたすらトライ&エラー。それしかほぼやっていない。

――そこで、みていて興味深かったのが、そのときに、メンバー間で、これはいいね、これは無しだね、というやりとりをされていたのですが、あれが、何が良くて、何がダメなのかが、傍からみていてよくわからない(笑)。でも空間現代のあいだにはお互いに共通認識としての価値観があるように見えたんです。あの良し悪しというのはなんですかね?

山田英晶(以下Y):本当に感覚…、あと今回の場合はイメージの構成表みたいなものもあるし、流れみたいなものも今作っているところだから、ここでこういうことをやれたら良いんじゃないか? みたいなイメージにはまるかはまらないか。あとは単純にかっこいいか。

K:感覚っていうのは大きいかもしれない。絶対にダメっていうのと絶対に良いっていうところはたぶんメンバーで共有できている。そのあわいのものが出てきたときに、微妙なところがあるんだけど。

Y:あわいは結構出てくるんだよね。

――でもその共通認識でとれている、絶対にダメ、絶対にいいっていう部分も所謂普通のバンドとは感覚が根本的に違いますよね。個人的にみていて思ったのは、ここで言う良いというのは、抽象的な言い方になってしまいますが、色々なダメさが回避できている、っていう判断なのかな、と思ったんです。これはそういうのをすり抜けられている、みたいな。

N:それはある。他のミュージシャンも色々なタイプの人がいると思うけど、明らかに何かのマネをしている人っていうのを見るとなんとなくわかっちゃうじゃないですか、これはアレのマネがしたいんだな、みたいな。自分たちも何も考えずにやると、恥ずかしいっていうか、それが回避できていないことになっちゃう。

K:アレっぽいっていうのが上手くできているとダメなんですよ。

Y:そうだね。

――なるほど。さっき練習を見ていて、シスター・スレッジとかディスコっぽい音楽を一瞬流して、それ聴いて皆でやってたりしたじゃないですか? まあ結果全くそれにはなっていないんですけど(笑)

N:ああいうことは最近はあまりやらないんですけど。新作を、なんにもお題なくゼロから作るってなったときに入り口がないってさっき言いましたけど、昔は、ファースト・アルバムとかの頃は結構そういうことをやっていたんです。アレみたいなドラムにしてよ、とか。ちょっとアレ聴いてみて、みたいな。

K:ジュークとか、もっと前だど、CDのスキップ音とか。こういう感じでやってみよう、みたいな。

Y:でも、結果それがイキになるときって、それができてない、はずれちゃってるけど、なにこのはずれ方? みたいな。そのわけわかんない部分が面白く出てるときなのかな。

K:パクれてないぞ…? みたいな。

Y:そこまでいけばイキになるみたいなことは経験値として、積みあがってるから、そういうところで良し悪しの判断というのが、できてくるっていうことだと思う。

――以前、空間現代のセカンド・アルバムの頃あたりのインタヴューの際にマーク・フェルに影響をうけて、とかトラックスマンに影響を…、と読んだんですけど。音を聴くと実際にはどの部分が…? となりますしね。

N:あとはそのパクり問題で言うと、自分たち以外の音楽のときは、そういうパクれてなくて面白いっていう現象があってOKになるんだけど、だんだんその参照項がなくて、自分たちが参照項になってきちゃっているっていう苦悩が出てきて。ちょっと前にやった自分たちの曲ってすぐパクれるんですよ、当たり前なんだけど(笑)。あの論理をここで応用してみようってやったら、あたりまえだけどすぐできてしまう。

K:手癖みたいな。

N:ある意味手癖なんですよ、手癖から逃れようとして作った曲のある型をもう一回応用してやろう、ってやるとそれはもうほぼ手癖と一緒に感じてしまう。それを聴いていてもそんなに新鮮な感じもしないだろうし、それは絶対伝わってしまうと思うから…。

K:『オルガン』を最初作り始めたとき、どうしよう、みたいな感じで、そういえば昔の曲ではこういうことやってたよね? みたいな、懐古主義的な感じに一時期なっちゃってたんだよね。ここはこういうイメージでやればいいんじゃないか? っていう参照項として自分たちの昔の曲を参照してやっていたんだけど、でもそれをやっていたらなぜかうまくいかなかったんだよね。

Y:全然うまくいかなかった。

K:それで煮詰まって、これは違うんじゃないか、って。だから昔のそういうのは持ち出さないで今は作っている感じがあるかな。

Y:そういうのを持ち出したのは、最近、特に《外》ができたくらいからは、一つのフレーズとか強度のあるものを作って、そこを機軸にばっと作っちゃうっていうやり方が結構あったんだけど、今回『オルガン』っていう作品を作るとなったときに、しかも『擦過』で一回一つのリズムをしゃぶりつくすみたいなことはやったから、もっと、いろんな要素が出たり入ったりっていうことをやっていいんじゃないか? ってなったときに、確かファースト・アルバムの頃ってそういうことやってたよなって、思い出がよみがえって、それで、ああいう部分も必要なんじゃないか、って感じになって、そういうことをやり始めたんだけど、それはあんまり上手くいかない、っていう。

N:やっぱり正解があるから、それにどうやって近づけるってなったときに、つまらなくなっちゃう。

K:だったら前に作った曲やればいいじゃんって。

Y:でももはや模倣の仕方もよくわかんないけどね…。

K:当時なに考えてたんだかいまいちよくわからない…。

――で、行き詰ってどうしたんですか?

N:作り方としては、初期のときにちょっと近い作り方には戻っていて、例えば、まずギターのリフがあって…。

K:そう、けっこうフレーズで作っている。

N:『オルガン』以前はここのところずっと、数式とリズムで作っていたけど、それがメロディーも込みのリフ、フレーズをどうやって三人で面白くするかっていうやり方。

K:で、今までに自分たちが弾いたことがないようなフレーズでやっている。いままでの持ち味を使おうっていうよりかは、こんなことやっていいんだ、みたいな新鮮なフレーズがぽっと出たときに、それに対して、どうする…? みたいな。

N:それはあるね、普段曲を作るときって、空間現代が上位にあって、空間現代だからこういう曲じゃないとダメでしょみたいな感じで作ってたんだけど、つまりNGが多いっていうか、回避の結果だから。でも『オルガン』になると、これもいける気がするみたいな、ちょっと視野が広くなった。作品優位になっているから。そういう意味では意義がすごいあると思う。

K:『オルガン』を聴いてもらったら空間現代はこういうのもアリなんだって思うかもしれません。

――さきほど冒頭部分を聴いただけで、既に今までと結構違っていて、とても楽しみです。コミカルでした。ユーモラスというか。それって今までの空間現代にはあまりない部分なのかなって。

Y:それこそ5分くらいの曲を一曲作るってなったら、もうそれで、そんなにユーモラスなことをやっちゃったら、さすがにもう、なにやってんすか? みたいになる。でも一時間っていう尺でみれるから、一時間あるうちのこの部分のこの位だったら、こんなユーモラスでもいけちゃうんじゃん、みたいな、そういう視野の違いはあるよね。

N:それはでかいね。

K:こんなトロピカルでいいんだ、みたいな。

――そうそうトロピカルでしたよ。

Y:それは大丈夫というか、別に一時間トロピカルなわけじゃないし。その後の何十分かも観てくれるならば。お客さんが途中で怒ってかえらない限り(笑)

K:最後まで地獄に付き合ってもらえる、というところでトロピカルもみせれる。

――最終的に地獄になるんですか?

K:いや、わかんない、地獄もあるかもしれないし、何かあるのかもしれない。

――見学させていただいた部分も“南国の地獄”という感じでした…。

N:空間現代のアルバムってなると一曲一曲個性が違ったとしてもこの曲はこの曲で独立していいみたいに作っていたのが、一時間弱で一つのライヴパフォーマンスなんですよってなったときに出てくるフレーズっていうのはやっぱり全然違う。そういう意味で新鮮なフレーズにトライできる。

K:そういったフレーズが全体を通してみると、後からジャブのようにじわじわ効いてくるみたいな。

N:そういう考えができるのがいいよね。

――練習でもキーワードとして「サマーチューン」とか「バカンス」といった普段の空間現代の音楽からは想像できないような言葉が多用されていましたが、あれはなんですか?

N:とにかく新鮮な風を欲しているから名前も普段つけないような名前をつけたかったんだと思います。

――これはリフとかフレーズの名前として?

N:フレーズの名前というか、普通のライヴで言うところの曲の名前として使ってます。

K:「バカンス」って、終わりがあるじゃないですか、例えば一週間とか。「バカンス」は天国じゃないんですよ、だから一瞬「バカンス」に行ってもいいじゃんっていう。逃避です。

Y:そういうある種抽象的なイメージとかも考えていかないと、一時間の曲なんて本当にできないから、抽象的なことでもいいから、なにを欲してるんだ、と。

――そういうワードは三人で?

K:最初に三人ですごく話し合って。

Y:ホワイトボードに訳のわからない抽象的なイメージみたいなことを話して書いて、ということを延々とやっていて、たまにちょろっと進むみたいなことを繰り返していて、なんとなくぼやぼやっと見えてきたときに野口さんがそのイメージをまとめた全体の構成表をぱっと作ってきて。

N:名前をつけるっていうのはいい入り口になるんだなーとは思った。

――なるほど。そもそも全体のタイトルの『オルガン』とは…、なぜオルガンなんでしょう?

K:それは野口さんが最初に、なんとかオルガンっていう…、変化する器官みたいなことを…。

N:オルガン(organ)は内臓、臓物っていう意味で、なんかいけそうだなって思ったんだよね。見た目は身体だけど、身体の中には臓物が入っていますっていったときの臓物。外側からは見えなくて、仕組みもよくわからないけど、蠢いてるもの。それを音楽とかうちらのライヴでいい例えにならないかな、と。

K:それで面白いと思ったのはオルガンっていう楽器もあるじゃないですか、その楽器も、空気を送り出して音を出すっていう、その器官っていうことが、そのまま楽器の名前になっちゃったっていう。そのものが名指されているオルガンと自分たちがやってることはそんなに違わないんじゃないかっていう。たまたま今のオルガンがオルガンっていう名前がつけられちゃっただけだけど、バンドだって、オルガンっていうふうにいわれてもしょうがない。

――空間現代という器官という…。

K:だからやってること自体はそんなに違わないんじゃないかなって。空気出すだけっていうのも悲しいし、面白くていいなって。たまたまオルガンって言われちゃった悲しさ、みたいな。器官って名前になっちゃったっていう。

N:もうタイトルをつけなきゃいけないっていう時期に、内容が全然決まっていないから、どうすんだ? みたいな勢いもあってつけたんですけど。でも入り口としてオルガンっていう名前をつけたことで動き出せたところはあって。それはさっきの構成表に書かれているようなパートごとのタイトルとも一緒なんだけど、そのタイトルたちはたぶん表には出さないけど、作り手側の自分たちとしては、今から作るフレーズはこれですっていうふうに名前が決まっていて、これはこういう役割でこういうイメージでやりましょうっていうと、とりあえず音は出し始められる。それくらいしないと僕らは、じゃあやりたい曲をセッションしようぜっていっても、そもそもやりたいことが無いっていうことからスタートしているから、音が出せないっていう悲しい事態になっている。でも入り口さえあれば、やっているうちに閃いた! みたいなことはあるので、だからとにかく第一歩がないとダメなんだっていう。

K:で、今回は第一歩は箱だったっていう。《外》って箱があるっていう。《外》がある、なにかやらないといけない、じゃあライヴやる。でも、既存の曲だけでやってたら退屈するから新作やろう、じゃあなにをやる? っていう…。でもそこから生まれるっていうのが面白いのかなって。

――まだ完成はこれから?

N:みえてきました…。

K:構成は見えたので。あともうひとがんばりしないと、かな。

Y:構成の構想ができたときに、その細かい部分、じゃあここからここへはどう行くんだみたいな部分とか。あとはもうどんどん決めていかないと今までの部分を忘れちゃうから…。

――忘れちゃうというのはいいですよね。空間現代特有の…、譜面じゃないから。

K:一瞬で忘れちゃう。自分で弾いたやつとかも録音したのを聴くとなにやってるかわかんなかったりするんだよね(笑)

Y:だからもう記憶を定着させることも含めてここから、あと二週間(※インタビュー時)、《外》に引き篭もらないといけない。

――直前の追い込み制作中なんですね…。

Y:また『擦過』の話になってしまうけど、『擦過』と対比させると、『擦過』は本当にストイックな作品だったから、別に今回がストイックじゃないわけじゃないんだけど、なにか常におやおや!? っと感じられるような作品になっていると思います。

N:『擦過』は数式だったからドラマは描いていないと思うんですよ、物語みたいなのは。まあそもそもうちらみたいな音楽は物語は描けないんですけど、でも、物語にはもちろんなってはいないんだけど、かといって数式と記号だけの世界でもなくて、その間みたいな、どっちでもない何かみたいなものはふわっと出てくるかもしれません。描きたい世界観とか物語もないし、だからいままでみたいにコラージュみたいな感じで偶発的に出てきちゃった響きを良しとしていたんだけど、今回は新たなチャレンジということで、そのなかで、何を描けるかみたいな、普段のライヴとはモードが違うし、『擦過』の超ストイックな数式のリズムだけの勝負でもない何かが出てくると思います。そしてそれは音楽じゃないとできない表現にしたいと思っています。

K:逆に楽しい作品になると思いますね。気軽に《外》に遊びに来てください。

Y:まだ《外》でも公演あるし、東京でも一回やるし、もちろん初日にあわせてガンガン制作しているので、結果やってみて思うことは絶対にある。だから、それで変えたいところは変えてっていう形で、何回か観るとさらに楽しめるかも知れないですね。

Text By Kota Takenaka

Photo By Katayama Tatsuki


空間現代

地面

Self Release
RELEASE DATE : 2016.09.17

■購入できるウェブサイト
https://kukangendai.stores.jp/items/57e0d853a458c0da660018e8
https://kukangendai.bandcamp.com/album/jimen

空間現代

Live at Waseda 2010

Self Release
RELEASE DATE : 2017.02.08

■購入できるウェブサイト
https://kukangendai.bandcamp.com/album/live-at-waseda-2010

空間現代《オルガン》

7月8日(土)@京都・外
7月9日(日)@京都・外
7月15日(土)@東京・スーパーデラックス
7月22日(土)@京都・外
7月23日(日)@京都・外
7月25日(火)@京都・外
7月26日(水)@京都・外

http://kukangendai.com/schedule/1707/

空間現代《擦過》

9月23日(土)@名村造船所跡地/クリエイティブセンター大阪
9月24日(日)@名村造船所跡地/クリエイティブセンター大阪

http://kukangendai.com/schedule/1709/

■空間現代 OFFICIAL SITE
http://kukangendai.com/

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