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なぜ今無骨なバンド・アンサンブルなのか? 音響をロックンロールでダイナミックに構築するサーストン・ムーア・グループ来日ツアーに期待するもの

15 September 2017 | By Tetsuya Sakamoto

サーストン・ムーアの音楽のとらえ方が少し変わったと思ったのが、彼がエレクトリック・ギターからアコースティック・ギターに持ち変えた『デモリッシュド・ソウツ』(2011年)だった。その奥行きと浮遊感のあるサウンドは、今まで彼がエレクトリック・ギターを主体とするソングライティングや、そのインプロヴィゼーションによって拡張させてきたサウンドの響きを、アコースティック・ギターやヴァイオリン、ハープなどの生楽器を用い、それらのアンサンブルによってどう脱構築するかということを彼が意識したように思えたからだ。すなわち、アンサンブルを大切にしたということでもある。

だが、確かに『デモリッシュド・ソウツ』のように、今まで彼はある種の反動によって音楽を作ってきたようにも思えるが、今の彼はどうもそうには思えない。それは、前作の『ザ・ベスト・デイ』(2014年)に続く新作の『ロックンロール・コンシャスネス』が、徹底してバンド・アンサンブルの構築性に拘っているからだ。それは例えば、『デイドリーム・ネーション』の頃のソニック・ユース、もしくは復活後のスワンズや『マーキー・ムーン』のころのテレヴィジョンのように、本来ポップなものを実験的でヘヴィな音の中に落とし込む姿勢にも似ている。プローデュースがアデルやフローレンス・アンド・ザ・マシーンを手がけたポール・エプワースで、ミックスがSunn O)))やボリスを手がけたランドール・ダンというのも象徴的だ。

ロンドンに拠点を移し、そこでで親交を深めたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのデビー・グッギ、クローム・フーフやノウトといったバンドで活動を続けてきたジェイムス・エドワーズ、そしてソニック・ユース時代からの仲間でもあるドラマー、スティーヴ・シェリーによる、自由に呼吸するように柔軟性のあるロックンロール・アンサンブル。その構造性を探求することこそが、『デモリッシュド・ソウツ』のころから通底している意識であり、今の彼の命題なのではないだろうか。だからこそ『ロックンロール・コンシャスネス』のサウンドは、無骨に、ポジティヴに響く。それを象徴しているのが冒頭の壮大で自由連想のような展開をみせる12分近い長尺の「Exalted」だ。今の彼はもうノイズとエフェクトによるその増幅だけにとらわれていのではないのである。そして、そんな強固なアンサンブルが可能であるのが前述のメンバーなのであり、きっとサーストンは彼らがいなければ、このバンドを結成しようとは思わなかったはずだ。

そんな彼が信頼の置けるメンバーと共に、サーストン・ムーア・グループとしてやってくる。新作はプログレッシヴで予期せぬ展開が続く長尺曲が中心だが、ライヴではどのように表現されるのであろうか。もしかすると前作で白眉だった、新作にも通ずる「Speak to the Wind」もアレンジを変えて演奏するかもしれない。もちろんライヴゆえに彼の得意とするインプロヴィゼーションによる轟音の暴力的なギター・ノイズも響くことになると思うが、それは今の彼の中心にあるものではない。あくまでも無骨なバンド・アンサンブルが核で、だからこそ演奏の自由度が高まるのである。そして、ライヴはそれが最も発揮される場所なのだ。このツアーではきっと、探究心と実験精神とともにロックンローラーとしてのピークを更新した、今のサーストン・ムーアを目撃することができるに違いない。(坂本哲哉)

Text By Tetsuya Sakamoto


Thurston Moore

Rock N Roll Consciousness

LABEL : Ecstatic Peace library / Hostess
CAT.No : HSU-10122
RELEASE DATE : 2017.04.28
PRICE : ¥2,490 + TAX

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Hostess Club Presents… Thurston Moore Group

日程・会場:
2017/9/19(火)大阪・梅田Club Quattro
2017/9/20(水)愛知・名古屋Club Quattro
2017/9/21(木)東京・恵比寿Liquidroom

Open 18:00 / Start 19:00

チケット:
¥7,500(税込・1 Drink別途)

■来日公演詳細はこちら
http://hostess.co.jp/news/2017/06/014274.html

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