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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

bar italia – 「punkt」

漠然とした不安を抱えては、ぐるぐるぐるぐると思考を回しいたずらに時間を遅延させてしまう。そんなどうしようもない夜についての歌だ。このロンドンの3人組は歌詞にリフレインを多用する。「暗い夜が頭の中に入ってくることがある、暗い夜が頭の中に入ってくることがある」。淡々と打ちつけられるリズム隊の上にギターの高音弦の響きが抜き差しされるが、総じて演奏は散り散りになってしまいそうに脆い。MVは、メンバーそれぞれがフェードインしてはヴォーカル・パートを歌い上げ、フェードアウトしていくだけ。各人の不安や言葉を切り出していくだけの演出から想起したのは、アッバス・キアロスタミによるインタヴュー映画、『ホームワーク』だ。(髙橋翔哉)

Clark – 「Dolgoch Tape」

「Dolgoch Tape」はクラークの目線から現在の様子を描いたようだ。脆弱性を帯びたシンセサイザーを束ね、“浅はかな言葉に興味ない/表面は同感だ”と囁くヴォーカル。最も古い機関車の1つからタイトルを取ったこの曲は、SNS上でよく目にする“Same(同感)”の言葉を織り交ぜながら屈折した動きのシンセサイザーが接続していく。「あのシンセサイザーは太陽のような存在になりたいんだ。」と話すことからも、これまでは二面性のある楽曲を主にビートや音色で表現してきたクラークにとって、より複雑なストーリーに感じられた。今月26日に発売のトム・ヨークをプロデューサーに迎えた新作『Sus Dog』が待ち遠しい。 (吉澤奈々)

Cristale x Teezandos – 「Plugged In w/ Fumez The Engineer」

ウエスト・ロンドンのFumez The Engineerによるストリートのフレッシュな声を取り上げ続けるフリースタイル企画「Plugged In」にサウス・ロンドンからCristale、イースト・ロンドンからTeezandosが登場。ちなみに彼女たちは以前同企画の「Female Special」に参加した8名の女性ラッパーのうちの2名でもある。ハードかつ禍々しいドリル・トラックにリズミカルに乗る歯切れの良いラップ、攻撃的なリリック、心地よいコントラストを描く掛け合い……「Female Special」から選ばれたかは不明だが、この2人が再び「Plugged In」に登場した理由は明白だろう。日々新たなラッパーが現れるUKドリル・シーンに爪痕を残す強力な1曲だ。(高久大輝)

Palehound – 「The Clutch」

近年はジェイ・ソムとの共同プロジェクト、バチェラーでも活動しているエル・ケンプナーを中心としたバンド、ペイルハウンドが7月に《Polyvinyl》よりリリースする4枚目となるフル・アルバムのリード・トラック。バンドの特徴であるギター・オリエンテッドなオルタナティブ・ロック・サウンドはそのままに新作のテーマとも繋がる“他者との関係性の中での自分自身”を歌いあげるリリックも印象的。なお、ビッグ・シーフの最新作が録音された《Flying Cloud Recordings》にて同作も録音されており、来る新作がどのようなバンド・ミュージックとして構成されているのか期待が高まる。(尾野泰幸)

Rob Moose feat. Brittany Howard- 「I Bend But Never Break」

ボン・イヴェール、アントニー、フィービー・ブリジャーズなど数多くのアーティストの作品やライヴでストリング・アレンジを担当してきた売れっ子弦楽器奏者の、おそらく初のソロ名義曲が素晴らしい。それもロブがアレンジを担当した縁のあるアラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワードがソングライティングとヴォーカルを担当。ブリタニーの切羽詰まったほどに情熱的な歌と、ロブによる荘厳なストリングスが融和された“室内楽的ゴスペル”が、コロナ禍が落ち着こうとしている現在、厳しく響く。彼が在籍するyMusicのニュー・アルバム『YMUSIC』もリリースされたばかりだが、ソロとしてもこの曲を含めたコラボ曲によるEP『Inflorescence』が8月11日に発売される予定。猛烈に楽しみ。(岡村詩野)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Brian Nasty – 「Loso Na Madesu (feat. Natanya)」

ロンドンを拠点とするラッパー/プロデューサーによるニューEPからのナンバー。メトロノミーに抜擢され『Posse EP Volume 1』(2021年)に参加するなど、インディー・シーンからも視線を集める彼が、これまでのエクスペリメンタルなプロダクションに見え隠れしていた持ち前のメランコリックなセンスをグッと前面に押し出して、自身の成長や家族との関係を描こうとしている。内面を見据えたゆえの屈託なさ、と言えばいいだろうか──リンガラ語で〈米と豆〉を意味するタイトルを冠したこの曲は、ハイライフ的リズムを用い、自身のルーツであるコンゴに敬意を表しながら、夏の日差しが待ちきれない今の季節にぴったりの心地よいアトモスフィアに満ちている。(駒井憲嗣)

Chinatown Slalom – 「Betty, Where Did You Go?」

Chinatown Slalomほど“食えない”バンドも珍しい。過剰なコラージュとフィルターが印象的なデビュー作『Who Wants to Be a Millionaire?』のある評では、ザ・ビートルズとジェイ・ポールとザ・ベータ・バンドの名前が横並びになっている。彼らは“アシッド”というワードで、それらをパチリと結合してしまう。2年ぶりの新曲「Betty, Where Did You Go?」もまた、シックに下剤入りのケミカル色したエナジードリンクを盛ったような、ケレン味溢れるディスコ・チューンだ。コンプを過剰にかけたベースの弾みすぎるラインは、堅牢でありながらバンドの体現する不健康な魔力を物語っている。(風間一慶)

Cornershop x Pinky Ann Rihal – 「Disco’s Main Squeeze」

クルアンビンがあんなにウケたんだったら、コーナーショップも再評価されてもいいはず。この80年代に活動していたパンジャブ系移民によるニュー・ウェイヴ・プロジェクト、ピンキー・アン・リーハルのヴォーカル・トラックをサンプリングしたコラボレーション・EPを耳にしたら、そう思えてくるはずだ。いなたさ全開のスペース・サウンドと、電子タムのチープなビートがたまらないミディアム・グルーヴで、デイタイマーでかかっていたと言われても信じてしまいそうなヴィンテージ感。なお、ヴォーカル・サンプリング元の楽曲もEPに収められており、こちらはギター・ポップ好きにぜひ聴いてもらいたいインディー・ポップなテイストになっている。(油納将志)

Loopsel – 「Skammen」

パートナーであるJjuliusとともにMonokulturとして、またレーベル《Mammas Mysteriska Jukebox》の運営も行うスウェーデンのアーティスト、Elin Engströmによるプロジェクト。5月末リリース予定のアルバム(US盤はあのDFAがサポート)から先行公開された楽曲が素晴らしい。『North Marine Drive』(トレイシー・ソーン)あるいはJoanne Robertsonあたりにも通じる曇り空のようなギターに、ヴォーカルはスウェーデン語であろうか、土着的なメロディがある種の幽玄さすら醸し出すメランコリック・フォーク。前作を軽く超えてきそうな予感でアルバムが非常に楽しみです。(小倉健一)

Teezo Touchdown – 「Familiarity」

タイラー・ザ・クリエイターなどから注目を集めるTeezo Touchdownの最新作。ここでは、彼のオノマトペの魅力について言及する。彼が「Strong Friends」(2020年)で魅せた電話コールの再現には、自分でやるの!? という驚きとそのクオリティの高さに思わず笑った。自分のやりたいことをやる大切さを歌った本楽曲は、彼のオノマトペ歌唱の最新版。今回はラストの大団円部分で、“にょんにょん”(実際はgoing)とお道化けてみせる。私は前に進むという宣言と共に、“にょんにょん”が楽曲のフックになっている。そして、ギターのカッティングなど肩の力が抜けたこの曲の温度感を表現した歌詞になっている。(杉山慧)

Romy -「Enjoy Your Life」

制作のきっかけは「My mother says to me ‘enjoy your life’」というビバリー・グレン=コープランド「La Vita」のフレーズに共鳴したこと。The xxのロミーは「Lifetime」で人生の短さを見つめて今を祝福し、「Strong」で過去の悲しみに向き合って弱さは強さだと歌い、今作で心に刻み込むように“Enjoy Your Life”とくり返す。でもやっぱり、素直な歌詞、ロミーの生活や亡き母親を映すMVにもあるように人生には脆さも葛藤も孤独もあって、このユーフォリックなダンス・ポップは大切な瞬間と同じようにそれらも抱きしめる。パーティーはそれでも楽しんで生きていくという覚悟だから。(佐藤遥)

皇后皮箱 Queen Suitcase – 「塵土」

15年のキャリアを誇る3ピース・ロック・バンド、皇后皮箱。2年ぶりのシングル「塵土」は絶賛制作進行中だという3枚目の新アルバムからの先行リリース。全編に甘やかな雰囲気を加えるキーボード、ギター・阿怪の男声ヴォーカルに切なく重なる卡菈の女声コーラス、都会的な乾いた響きのクリーンなギター……微かな陰鬱さを漂わせる洒落たAOR風のこの1曲は何となくネッド・ドヒニーを思わせる。落日飛車などを手掛けたことでも知られる王昱辰(老王)がこの「塵土」、そしてアルバム自体のプロデュースにも参加しているとのことで、自ずと新アルバムへの期待も高まる。(Yo Kurokawa)

屋敷 – 「花屋」

ayU tokiO主宰の《COMPLEX》レーベルからリリースされたシンガー・ソングライター、屋敷のEP『仮眠』からの一曲。一聴すると、愛しい恋人を見つめる微笑ましい瞬間をスケッチした、オーソドックスなフォークソングである。しかしヒスノイズの向こうから聴こえてくる夢幻的なギターと密室的残響を伴うドラム、そしてどこか虚ろでおぼろげな歌声が、その第一印象に強い揺らぎを与えてくる。微かなサイケ感に身を委ねて、繰り返し聴いていると浮かび上がってくる別の物語が、果たしてどういうものなのかは、ぜひ名作映画のワンシーンのようなアートワークが印象的なカセットテープを手に入れて確認してほしい。(ドリーミー刑事)


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