Review

Benjamin Booker: Witness

2017 / ATO / BEAT RECORDS
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アフター・ザ・"サザン・マン"

28 June 2017 | By Yasuyuki Ono

 《それでも何かを探し求める人は/恐怖におののきながらも/危険な旅を続けなければならない》と、アコースティック・ギターを持ち歌ったのは誰だったか。エレキ・ギターを手にし、南部の黒人の苦悩と救済をロックとして歌ったのは誰だったか。そう、『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のニール・ヤングである。
 ベンジャミン・ブッカーの二作目である本作は、2017年に黒人の若者の手で産み落とされた『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のようだ。ブッカーの鼻にかかった歌声も、前作から踏襲されるブルース、60年代のロックンロールのテイストも、大幅に導入されたオーセンティックなアコースティック・ギターやピアノも、そして、本作のリード・トラックたる「ウィットネス」での、メイヴィス・ステイプルズの参加と、不安を抱えながらも社会的圧力に抗おうという歌詞にみられるような(人種をめぐる)政治性も、どれもが、かのアルバムを思わせる。
 しかし、2017年に本作が鳴らすロックンロールが位置づくのは、ブッカー自身がフェイヴァリットとしても挙げる、TV・オン・ザ・レディオや、近年、アラバマ・シェイクスが提示してきたブラック・ミュージックとロックンロールが再度、邂逅する道の上である。それは、本作が前作を引き継ぐロックンロール・アルバムであり、かつ、「ウィットネス」が象徴するように、ソウル、ゴスペルに向かう意識のもとで、このアルバムが制作されたという事実が物語る。
 「ウィットネス」でブッカーは、“自らが目撃者となってしまうのか?”と歌う。それは、“サザン・マン”にニール・ヤングが問いかけたような状況を、不安と対峙しながらも反語的に拒否し続ける、シンガー・ソングライターたるブッカーの本作での宣言なのである。(尾野泰幸)

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