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KLAUDIO: UNKNOWN ARTIST – ⍜ pt.1

2025 / self-released
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エディット、テクスチャー、2020年代

21 June 2025 | By Rishi

ハイパーポップやレイジ、デコンストラクテッド・クラブやY2Kリバイバルといったいかにも2020年代的なトピックをハードダンス由来の極端に加速されたテンションでまとめてみせた。こう言ってしまえば確かに簡単だ。プレイボーイ・カーティからオーケールー(Oklou)に至るまで、今作に陰に陽にまぶされた固有名詞はこの種の「同時代的な」語りを誘惑する。しかしこの3時間超のオリジナル曲とリミックスとマッシュアップの巨大な混合体を前にして、賢しらな記号化の類が何の役に立つというのだろうか。

今作に込められた文脈はそれほどまでに膨大かつ多岐にわたるものだ。近年の音楽シーンを飾った数々の固有名詞のみならず、マックス・リヒターやモービーといったリファレンスの選択にアーティストの趣向が見えて興味深く、スナーキー・パピーのビッグ・ビート的解釈とも取れるリミックスはどこか初期のBOOM BOOM SATELLITESを想起させるところが面白い。彼のこの優れた折衷性がよく現れているのが「DAFT PUNK X KLAUDIO X AVICII X DOSS X SOPHIE X CHARLI XCX X REZZ X SEVEN LIONS」と題されたマッシュアップの大曲だ。ハードダンスの性急なビートでもってエレクトロ〜EDM〜ハイパーポップを総観して見せる手腕が凄まじい一曲だが、全体のハイテンションを断ち切るように曲の後半で突如挿入される変調したソロ・ボーカルがもたらす困惑と抒情にKLAUDIOの音楽作家としての底知れなさが垣間見える。

そして何よりも特筆すべきなのは、今作全体に通底する冷たい艶やかさを帯びた独特のサイバーパンク的質感である。レイジとEDMとシューゲイザーのいいとこ取りをしたようなシンセの音色を始めとして、現代のポップ・ミュージックの洗礼を受けてすっかりチャラついてしまったブリアル、とも言うべきサウンドメイキングは必聴ものだ。

加えてこのような質感がまずリミックスという編集行為を通じて具現化されていることは重要だ。それぞれ固有のテクスチャーを持った対象を裁断し新たにつなぎ合わせる行為をエディットと言うなら、『UNKNOWN ARTIST – ⍜ pt.1』にあるのはエディットとテクスチャーの一体化に他ならない。原型を留めないほどにきめ細やかに裁断された断片が再構築され、新たな質感を獲得すること。この断片化/再構築という発想は、最小単位としてのビットによって構築されるデジタル世界のあり方と相性がよく、今作のサイバーパンク的世界観を根底で下支えしている。

さて、音楽に限らず、現代の創作行為一般が歴史の中で偉人たちが積み上げてきた既存の方法論や美学の組み替えに終始しているというのはよく言われることではある。シューゲイザーにせよニューメタルにせよ、とりわけリバイバル現象がポップカルチャーの主要な推進力となった2020年代の音楽シーンにおいては尚更だ。そのような世界において、アーティスティックな美点というのはもっぱら過去の要素を首尾良く組み合わせてみせる編集的な要領の良さにあるといっても、決して間違いとは言い切れないのかもしれない。

しかし、既存の対象を再構築する編集という行為が、さらにまた別のオリジナルな何かを生むのだとしたら、現代において何かを創るという行為が退屈な遺品整理以上のものであるのだとしたら。この意味で『UNKNOWN ARTIST – ⍜ pt.1』に散りばめられた様々な2020年代的な固有名詞の束をもってして、単に同時代的な記号がインスタントに消費されているに過ぎないと断ずるのは誤りだ。むしろここにあるのは既存の要素から新しいテクスチャーを生み出そうとする試行錯誤のサイクルが、今日において最高速度で駆動していることの何よりの証なのだから。(李氏)

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