Review

テンテンコ: Deep & Moistures: The Best of Private Tracks

2019 / φonon
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底知れぬ衝動や好奇心が尽きない理由

16 October 2019 | By Shinpei Horita

テンテンコによる『Deep & Moistures: The Best of Private Tracks』は《φonon》(EP-4佐藤薫のレーベル)の令和元年のトップを飾るリリースのひとつ。非常階段のT.美川とのユニットMikaTen、OPTRON奏者、伊東篤宏とのZVIZMOとしての音源リリースはあったものの、現時点では彼女のノイズ/エレクトロセットをまとまった音源として聴くことの出来る唯一のものだろう。これまでにもソロ・アーティストとしていくつかの音源を発表しているがカヴァー曲であったり、坂本慎太郎、BOREDOMSのEYE、neco眠るなどを始めとして楽曲提供やアレンジを外部に委ねる形のものが多かった。『工業製品』というタイトルの作品もあるがまさに自分自身を素材に作品を構築していくものであった。

それらと比較すると本作には音楽家テンテンコの衝動や好奇心がストレートに表現されている。彼女も影響を受けているであろうスロッビング・グリッスルやザ・レジデンツをも思い起こさせるジャンクで実験的ながらもどこか親しみやすさを感じるサウンド、〈L.I.E.S〉や〈The Trilogy Tapes〉といったインダストリアルテクノ、ロウハウスの作品をリリースする諸レーベルやクラブミュージックとの親和性。これらは彼女のリスナーとしての旺盛さを感じさせることもさることながら、カシオトーン、サンプラー、オシレーター、シンセなど様々な機材と無邪気に戯れる姿が目に浮かぶ様で思わず引き込まれる。

“Deep&Moistures”は本作のアルバム・タイトルであると同時に、テンテンコが自主制作でこれまでに19枚リリースしているCD-R作品のシリーズタイトルでもある。加えてノイズ/エレクトロセットのライヴ名義としても用いられることもあり、彼女にとって重要なキーワードとなっている。活動の幅があまりに広く一見掴みどころのないように感じてしまう彼女の活動だが、音や機材の可能性、そして自身の内面へと深く潜っていくような本作を聴けば少しはその核心に近付けたような気分になれる。しかし本作リリースを待たずしてすでに自主制作シリーズとしての『Deep&Moistures』最新作を発表していることからも、簡単に理解してもらおうとはさらさら思わず今後もテンテンコは自由自在に変化しながら活動を続けていくに違いない。(堀田慎平)

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