Review

SG Lewis: Dawn

2019 / Virgin EMI
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歌えるUKダンス・ミュージックの系譜を継承する重要プロデューサーのEP3部作最終章

22 July 2019 | By Kei Sugiyama

3月に初来日を果たしたリバプール出身の若手DJ/プロデューサーであるSG Lewis。この全6曲のEP『Dawn』は、『Dusk』(2018年、全6曲)、『Dark』(2018年、全5曲)に続く、クラブにおける夕暮れから夜明けをコンセプトとしたEP3部作のラストを飾る一枚だ。EPをコンスタントにリリースして話題性を継続していきシーンに登場するこの手法は、今後増えていくだろうし、私はこの3部作を合わせて、彼の挨拶替わりの一枚と位置付けたい。彼のサウンドは、近年で言えばディスクロージャーやSBTRKTなど、言わば“歌えるUKダンス・ミュージック”の系譜として捉えることができるだろう。ゲストを呼んで楽曲を制作するという点ではディスクロージャーと共通する部分が多いと思うが、この2組は対照的だ。アートワークをはじめ自分たちの色を全面に押し出し、サム・スミスなどのゲストを彼らのフォーマットの上で対峙させ、そこから生まれる化学反応をパッケージングするのがディスクロージャーの手法。一方、SG Lewisは前作『Dark』収録の「Again(feat. Totally Enormous Extinct Dinosaurs)」や「Hurting(feat. AlunaGeorge)」が顕著なようにコラボ相手の特徴を中心に据えて、そこからボトムアップしているような楽曲になっている。

本作『DAWN』では、その彼の手法が、まず次世代の女性シンガー・ソングライターとして注目を集めるクライロをゲストに迎えた「Throwaway」という形で結実している。この曲はラジオ番組のバック・グラウンド・ミュージックに使われるなど、ここ日本でもじわじわと浸透中だ。クライロ自身の特徴は、代表曲「Flaming Hot Cheetos」(2017年)に見られるような、宅録色が強く一人で空想に浸っているようなドリーミーでローファイなサウンド。だが、この「Throwaway」では、繊細な彼女の世界観はそのままに、SG Lewisによってブラッシュアップされたトラックが、ジェネイ・アイコやSZAやH.E.R.などの近年のR&Bへと接近し、彼女のヴォーカリストとしての魅力を引き出している。また、クライロとは対照的に歌い上げるスタイルの女性シンガー、Kamilleを迎えた「Easy Loving You」は、SG Lewisとの男女の掛け合いがやはりR&Bのフォルムへの接近を伝える。サウンドの特徴から言えば、ジェネイ・アイコとビッグ・ショーンのアルバム『TWENTY88』(2016年)や、H.E.R.とダニエル・シーザーとの「Best Part」(2017年)などに対するSG Lewis的解釈とも捉えられる。情感たっぷりに歌の世界に移入するようなアプローチは、「Throwaway」と対になっており互いを惹き立てている。

上記の2曲の流れにあるインストゥルメンタル「Rest」。さらに、若手ヴォーカリスト、Ruelとの「Flames」は、マイケル・ジャクソンやウィークエンドを思わせるし、冒頭の「Blue」とHONNEとの「Overdose」、はウォッシュト・アウトを彷彿とさせるチルウェイヴ的な音像になっている。近年のR&Bがこういったサウンドを取り込んでいった経緯を踏まえると、本作は、SG Lewisによるオルタナティブ・R&B/ネオ・ソウルと言われるもの――つまりオーセンティックなR&Bに対する再解釈と言っていい。特に「Throwaway」は今年のアンセム一つになりえるだろうし、クライロをベッドルーム・ポップというイメージから大きく押し広げた意味でもSG Lewisのプロデューサーとしての手腕が発揮された一曲と言えるのではないだろうか。

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