Review

Cobalt Boy: SANSO

2021 / ROSE RECORDS
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エモーショナルな初期衝動を吹き込んだ“シティポップ”

28 September 2021 | By Dreamy Deka

福岡を拠点に活動する四人組のバンド、Cobalt Boyが曽我部恵一が主宰する《ROSE》からのリリースしたデビュー・アルバム『SANSO』。 プレイボタンを押すと聴こえてくるのは、日本で一番有名なシティポップ・ナンバーである大瀧詠一の「君は天然色」を彷彿とさせる深い残響を伴うドラムのカウント。そしてその直後に流れ込んでくる、かの《Creation Records》の総帥アラン・マッギーが所属したビフ・バン・パウ!や初期ティーンエイジ・ファンクラブに通じる甘い揺らぎと青い輝きに彩られたメロディとラフなギター・サウンド。「90年代ギター・ポップとジャパニーズ・シティポップのミッシングリンクを繋ぐ福岡の大型新人」というレーベル資料に書かれたキャッチコピーをわずか数十秒で体現したデビュー作の一曲目。この清々しさに、私はアルバムを聴き終わるやいなやレコードを予約してしまった。このアルバムにふさわしいロマンチックな言い方をすれば、あらがえない力に引き寄せられて一瞬で恋に落ちたのである。

しかし冷静に考えれば、2021年において完全に飽和状態の「ジャパニーズ・シティポップ」なる看板を掲げて近づいてくる音楽には、もっと警戒してしかるべきである。そもそも、一癖も二癖もある音楽を厳選してリリースしている《ROSE》においても、このストレートなポップ・センスはかなり異色の存在だ。なぜCobalt Boyはこうも易々と私の心の扉を開いてしまったのか。その理由をずっと考えているのだけれども、いつもその答えは一曲目の冒頭に立ち戻ってしまう。つまり、策を弄さず奇を衒わず、シティポップの正面玄関で自分の心象風景を思いっきり鳴らしてやろうという初期衝動の尊さである。実際、この『SANSO』に収められた楽曲は、80年代の豊かな都会を感じさせるメロディー、夢みがちな心象風景を描いた歌詞というシティポップの定石を抑えつつも、もう一つの特徴である、プロフェッショナルなスタジオ・ミュージシャンが生み出す流麗なグルーヴは存在しない。その代わりにあるものは、エモーショナルにかき鳴らされるギターとそれに負けじと存在感をアピールするシンセサイザー、そして生々しい体温を感じさせるヴォーカルだ。まるで文化祭ライブ前日の音楽室のような、ちょっと気恥ずかしくなるほど透き通った真剣さが、シティポップというクリシェに新たな命を吹き込んだのであろう。

ちなみに中心メンバーの毛利幸隆は、かつてライスボウルというバンドで2010年に《ROSE》からアルバムをリリースしている。このように決して短くないキャリアを持つミュージシャンが、シティポップの名の下に、新たな季節へ向かっていく風景には既視感がある。他でもない、Cobalt Boyの名付け親である曽我部恵一率いるサニーデイ・サービスの傑作『DANCE TO YOU』(2016年)だ。もしあの作品に感じるものがあるリスナーならば、この10年ぶりのデビュー・アルバムに耳を傾ける価値は十分にあるはずだ。(ドリーミー刑事)

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