Review

BLACKPINK: Kill This Love

2019 / Universal
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コーチェラ出演を目前に、世界への強烈なイントロダクション

08 April 2019 | By Daichi Yamamoto

「危険」に姿を変え得る愛に警笛を鳴らすタイトル曲の「Kill This Love」。冒頭から、ただただ圧倒される。ひたすら聴く者をボーストするようなホーンのリフに、リズミカルかつハードなジェニとリサのラップは、彼女たちの「強さ」を象徴する。特にラップに関しては、リサのフロウはカーディBのそれに似ていてスリルさが増しているし、ジェニとリサが互いにスピットする2度目のヴァースは鳥肌ものだ。それだけではない。ロゼとジスを中心にしたヴォーカルも声の伸び、力強さなどにおいて一層磨きがかかっていて、4人のパフォーマンスの成長がはっきりと感じられる。出来ればゴージャスなMVを見ながら聴いてほしい。

この《インタースコープ / ユニバーサル》からの正式なインターナショナル・デビュー作となるこのEPは彼女たちのハードな側面のみを体現した作品ではない。BLACKPINKの全ての楽曲を書いてきたTeddyと共に、カミラ・カベロの「Havana」やフィフス・ハーモニーの「Work From Home」で知られるブライアン・リーがソングライティングに加わった「Don’t Know What To Do」は「誰かの元に戻りたい」という気持ちを歌ったメランコリーなムードを纏った一曲で、ゼッドとマレン・モリスの「Middle」、マシュメロとバスティルの「Happy Now」といった最近のEDMヒットともシンクロする。続く「Kick It」は「一人でも大丈夫 / もうあなたのことを忘れるから」と強さや脱依存を歌い、ラストのロック・バラード「Hope Not」では「私よりましな人に会って幸せになって」と再び優しく切なく歌う。新曲4曲を通して、サヴェージでデンジャラスという究極の強さ=BLACKの側面と、繊細さや優しさといったソフトな面要=(彼女たちにとっての)PINKの側面を交互に表現した。本作はBLACKPINKをインターナショナルに自己紹介する上では申し分ない内容だ。

そのリリックにはBLACKPINKが挑もうとしているフィールドで同じくグローバルなファンダムを抱えるポップスター=アリアナ・グランデやビリー・アイリッシュのように、歌を通して悩みや苦しみを抱えるティーンに語りかけたり、BTSのように「自分自身のストーリーを歌う」とことで聴き手の隣に寄り添うような種のパワーがあるわけではない。それでも私たちはBLACKPINKに圧倒され、夢中になっている。そこには歌、ラップ、ダンス、そしてヴィジュアルのパフォーマンスのパラメーターで5つ星を叩き出すことによってしか出せない、ユニークで、唯一無二な魅力がある。言わば異端者かもしれない。「サウンド、パフォーマンスはかっこいいけど」戸惑うリスナーもいるかもしれない。だが、本作のクオリティを持ってすれば、それが一つのスタイルとしてアメリカでさえも定着するのは時間の問題だとわかる。

最後に注目したいのは、「Kill This Love」のホーンの音色やリズムなどマーチング風なサウンドや、ブリッジから登場する女性の隊列というMVでの演出。明らかに「Run The World」~「Formation」、「Beychella(ビーチェラ)」といったフェミニズムを体現する時のビヨンセを意識したものであり、この後BLACKPINKが向かおうとしている場所の一つとして示唆的といえる。そのビヨンセが昨年立った舞台の目前に歩むこととなる今週末のコーチェラ・フェスティバルでのパフォーマンス(初出演ながらポスターではヘッドライナーの次の段にスロットされている!)は、この作品の魅力を倍増させるという意味でも歴史的な瞬間になるはずだ。(山本大地)

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