Review

Hama: Houmeissa

2019 / Sahel Sounds
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ニジェール発エスノ・アンビエント・ポップの緩い破壊力

21 March 2019 | By Shino Okamura

 プリンスの『Purple Rain』のオマージュ・アルバムが話題になったMdou Moctar以来の衝撃! と思ったら、そのMdou Moctarと同じ《Sahel Sounds》からのリリースだった。アフリカの中南部の音楽をすくい上げる《Sahel Sounds》、やっぱりこのレーベルから少しでも目を話したらダメだ。ニジェールの首都、ニアメを拠点とするマルチ・インストゥルメンタリスト/音楽家=Hamaのセカンド・アルバム。世界的にポップ・ミュージックのフラット拡充化が見られる中、これまた今年屈指の1枚、というか、西アフリカ内陸部からこんなに洗練された「アフリカン・シンセ・ポップ」「サハラン・シンセウェイヴ」とも言える作品が届いたことにただただ心が踊る。

 本名をMahamadou MoussaというこのHamaは2015年に最初のまとまった作品集『Torodi』を発表。その頃から欧米のメディアでも注目されるようになっていたが、この2作目はニューエイジ、アンビエント、ヒップホップ、デトロイト・テクノ、あるいは初期ビデオ・ゲームの音楽などをさりげなくクロスさせたダンス・グルーヴながら、その一方で、アフリカのデザート(砂漠)・ブルース系トゥアレグ・フォーク・ロック、遊牧民や古代キャラバンの音楽などの要素もチラホラ垣間見えたりと、音の断面は前作以上にとても錯綜的だ。だが、それをどこまでも飄々と、時折ユーモラスなリフさえ交えて聴かせるセンスはなかなかにモダンで垢抜けている。録音そのものは決してリッチではない。が、全曲Hamaのオリジナルという曲の洒落た構成、Harouna Habibによるシームレスなアレンジが一聴するとチルアウト、でも実際は躍動的な音空間を創出していく。室内的な造りなのに、ストリート感もある、実に不思議な作品だ。

 経済のグローバル化から置いてきぼりを食っている(とされる)エリアのことは第四世界と呼ばれるが、このHamaの奏でる緩いシンセ・ポップはそんな取り残された(とされる)環境ゆえに、最先端とやらにも古典の重圧にも縛られず、生き生きと誕生したような豊かな「Fourth-world ethnoambient music」といったところ。本作ジャケットでヴィンテージな(?)シンセを手にするこのサヘルの鬼才は、こうしている隙にも刻一刻と世界中で“発見”されつつある。(岡村詩野)

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