Review

Gia Margaret: Mia Gargaret

2020 / Dalliance Recordings / Inpartment
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歌を取り戻したシンガーソングライターによる
内省と快方の軌跡を記したアンビエント・アルバム

07 July 2020 | By Yasuyuki Ono

本作はシカゴを拠点とするシンガーソングライター、ジア・マーガレットによる2年ぶりとなるセカンド・アルバムである。前作『There’s Always Glimmer』はフォーク・サウンドを軸とした、例えばBig Theifの近作をも思わせるような静謐と繊細な感覚に満ちた力作であった。しかし、本作『Mia Margaret』は一転、ボーカルは捨象され、全編を通じて煌くシンセサイザー、彼女自身やイギリスの作家アラン・ワッツによるスポークン・ワード、鐘の音・足音・鳥の鳴き声などのフィールド・レコーディングが絡み合う、エクスペリメンタルな趣と美しい旋律が並置された瞑想的、内省的でアンビエント・ライクな作品となった。

その変化の背景には、マーガレット自身の病が関係しているという。前作に紐づいたアルバム・ツアーの最中に彼女は突如自身の歌声を上手く出すことができなくなっていった。歌うことがままならなくなったことによりツアーは中途で取りやめとなり、彼女はシカゴの自宅で療養生活を送った。そこで彼女は、自室にあったシンセサイザーに手を伸ばし、少しづつであるが音を出して気晴らしを行うなかで、本作につながるヒントやアイデアを徐々に結集させていった。

そのような音/思考の断片群をつなぎ合わせ再構築し、作り上げられたのが本作である。ただし、上述したような彼女自身の背景を考慮してもなお、本作は悲哀と憐憫に満ちた作品などでは決してない。

例えば「Barely There」では、マーガレット自身の声がサンプリングされている。彼女はこう問いかける。「あなたは、自分の人生を生きていると今まで感じたことがありますか? それでも、かろうじてあなたはそこに存在しているんじゃないでしょうか?」 浮遊感のあるシンセサイザー・サウンドを背景として投げかけられるこのメッセージは、彼女が歌声を失い、自らの実存の縁に立っていたことを示しているようにも思える。だが彼女は、その縁から身を虚空へと投げ出すことなく踏みとどまった。自身の部屋という世界の中で徐々に湧き出る一音一音を捕まえ、形にすることで自身のサウンド・コンポージングの才能を掘り下げながら、本作を作り上げていったのである。



本作の最終曲「lesson」では、マーガレット自身の歌声がついに現れる。その1分37秒の歌声は、彼女の快方の象徴であるとともに、これからも自身の感情や思いを歌を通して表現するのだという彼女の意思が内包されたものであると読み取ることも可能だろう。沈黙し続けるという選択を捨てて生まれ出た本作には、一時は歌を失ったシンガーソングライターの内省と快方の軌跡が、眩い光の中に飛び込んだようなサウンドをまとって刻まれている。(尾野泰幸)

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