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Moses Sumney: Doomed

2017 / Jagjaguwar / Hostess
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モーゼス・サムニー 邪念と清らかさの狭間で
Jagjaguwarと契約! 可視化される痛みの果て

30 June 2017 | By Shino Okamura

 これはもうゴスペル、黒人霊歌だ。一切のビートがなく、演奏らしい演奏が軸にあるわけでもない。あるのは、ただ、ただ、声。そして、目に見えぬぼんやりした空間を可視化したような漂う音のさざなみだ。その両者がまるで深海の底にプランクトンや藻屑が濾過され堆積して静かに重なっていくプロセスをそっと眺めているかのように、ここには邪念や混じり気がない。でも一方で、過ちに手を染め朽ち果ててしまったことへの悔恨の遠い過去の痛みはどこか、ある。ファルセット部分のヴァースで歌われているのは、こうだ。“Am I vital / If my heart is idle / Am I doomed?”。それが一定の尺度で繰り返される形式……。これをゴスペルと言わずしてなんと喩えよう! アントニー・ヘガティに最初に出会った時にも似た、自らの邪念と清らかさを同時に見つめてしまった時のような衝撃がこの曲にはある。
 90年カリフォルニア生まれの今年27歳。2014年に最初のEP「Mid-City Island」をリリースしてからというもの、ベック、ジェイムス・ブレイク、ソランジュ、ジャック・ホワイトら多くの先輩たちにラブ・コールを送られて共演してきた。中でも昨年8月に、スフィアン・スティーヴンスとライヴで共演しプリンスの「Kiss」を披露した際の映像を見ると、先輩であるスフィアンを凌ぐヴォーカル力、堂々としたパフォーマンスに目が釘付けになる。ボン・イヴェールが所属する米《Jagjaguwar》と契約したのも当然のなりゆき。削ぎ落とされ、削ぎ落とされ、でも、そう簡単には崩れない逞しさを宿してポップ・ミュージックはついにここまできた。

■Moses Sumney OFFICIAL SITE
https://www.mosessumney.com/

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