Review

Amorf: Blending Light

2017 / Understand
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青写真はファーベンとテリー・ライリー?

21 July 2017 | By Tetsuya Sakamoto

ルーマニアン・ミニマル・ハウスというと先日リカルド・ヴィラロボスの新作をリリースした《a:rpia:r》ばかりを想像してしまいがちだ。確かに主宰するラドゥー、ペトレ・インスピレスク、ラレッシュによるRPR SoundsystemのDJは、軽やかで疾走感のあるミニマル・ハウスや重心の低いディープ・ハウスからを中心にしながら、ときにはリズムに拘ったテクノまでを継ぎ目なくミックスし、その音の鳴りとしなやかなグルーヴでまるで魔法がかかったようなダンスフロアを創造する。実際過去2回行われた《リキッドルーム》での来日公演時でのパフォーマンスは、オープンから音が止まるまでフロアは満員だった。そこにいた誰もが彼らの紡ぐ有機的なグルーヴと音に耳を傾け、身体を揺らし続けていた。その魔法のような光景は今でも筆者の脳裏に鮮烈に焼き付いている。

閑話休題。そんな《a:ripa:r》は確かにルーマニアン・ミニマルの象徴といえるが、その系列のレーベルとしてひっそりとフロア・コンシャスのミニマル・ハウスや単調ではないリズムと隙間を意識したプロダクションを持ったテクノのレコードをリリースし続けるのが、Lazar Cezarが主宰するレーベル《Understand》だ。その新作となるのがAmorfの『Blending Light』である。AmorfはCristi Cons、Mischa Blanos、Vlad Caiaによるライブを中心にするエクスペリメンタル・テクノ・プロジェクトで、この『Blending Light』は《Understand》のLive Seriesの第1弾のリリースだ。形態としてはCristi ConsとVlad Caiaが組んでいる、軽快なテック・ハウスを志向するユニットのSIT (Sideways Invisibility Theory)に、ピアノ・プレイヤーのMischa Blanosが加わる格好になっている。そして、この彼の参加が、このAmorfがダンスフロアに直結するリズムや旋律よりも音のテクスチャーを焦点にしているという意志の表れであるように思える。リズム・プロダクションは確かにグリッチの要素を忍ばせた抽象的であまり展開のないマイクロ・ハウスという趣があるが、そこに不規則にローズ・ピアノを思わせる音色のシンセ・ドローンや不穏なピアノ・フレーズを交錯させることで、展開が予測不可能になり、それがアルバム全体に穏やかな緊迫感を加えている。まるでファーベンの『Textstar』とテリー・ライリーの『A Rainbow In Curved Air』が止揚してできた作品のようだ。このアルバムにはミニマル・ハウスという側面だけでは切り取ることのできない多様な音楽性がは詰まっている。アンダーグラウンドなテクノのシーンで、ルーマニアン・ミニマルが注目される理由もそこにあるのではないだろうか。(坂本哲哉)

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