Review

KANDYTOWN: ADVISORY

2019 / Warner Music Japan
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仲間と共に過ごす夜が纏う刹那

10 November 2019 | By Daiki Takaku

ラッパー、ビートメイカー、DJ、フィルムディレクターなど総勢(亡くなったYUSHIも含めて)16名からなる東京都世田谷区喜多見を中心に活動するヒップホップ・クルー、KANDYTOWN。セルフタイトルの1作目から約3年ぶりとなるこのセカンド・フルアルバム『ADVISORY』はそれぞれのソロ・ワークスでの経験と成長が還元されグループとしてアップデートされた作品となった。特に、昨年からクラブで聴く機会の多かったGottzのリズミカルなフロウをはじめ、Holly Qのいなたいラップ、BSCのトレブリーな声質などがさらに際立った多彩なマイクリレーだけをとっても最後まで十分楽しむことができるだろう。

これまでと同様に彼らの持つ独自の雰囲気も壊すことなく成立している。まるで都会の夜に仲間とグラスを傾けくつろぐような落ち着いたトーンと、まるで映画のワンシーンをみているかのようなロマンティックなムードである。それは情景描写的なリリックが多いことの他に、レイドバックするような上物を中心としたループとタイトで現代的な鳴りのビート・セクションをバランスよく聴かせる、今作のトラックを手がけたNeetz、およびRyohuの手腕によるところも大きいだろう。そしてそんなムードの中で聴こえるGottzの“ひとりで見る成功なんてただのFame / この先の景色を仲間と知る”(「Imperial」)というラインにわかりやすい、仲間とともに上を目指していくことを重要視する彼らのリリックには、どこか切なげなフィーリングがまとわりついている。YUSHIの死によって別れを経験している彼らだからこそ、ともに過ごす時間が当たり前でないことを理解しているのであろう。彼らの音楽が外側ではなく、内側へ、とりわけフッドへと目がけて放たれていることは過去のインタビュー等で知ることができるが、本作のそれはお互いの意志を確かめ合うようでさえある。

ポッセやクルーと呼ばれるものは”ホモソーシャル的”な側面も大きいのかもしれないが、我々の人生がそれぞれ変化していくなかで、事実としてこういったコミュニティが存続していくこと自体、ある種奇跡ともいえるだろう。Ryohuはリリースに際してSNSにこうポストした。「また全員でアルバムを作れたことを誇りに思います」。本作で彼らが再び集ったことは、仲間と共に音楽を作ることそのものを、そしてそれが続いていくことを祝福しているかのようだ。(高久大輝)

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