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自由な発想で編みこんでいくサウンド
過去と現在の間を跳躍する落日飛車 Sunset Rollercoaster

08 August 2020 | By Koki Kato

2010年代は、アジアの音楽への注目が、世界から向けられていることをこれまで以上に体感したディケイドだった。2010年代の終盤の2019年にはアジア諸国への期待感がさらに高まり、それは2020年以降へと繋がっていくという期待を感じていた人も多いはずだ。こと日本のリスナーがアジア諸国の音楽への興味を増していった背景には、インターネットを通しての情報取得が容易になったということもあれば、格安航空のサービス拡大によってアジア圏の往来が容易になったということもある。そこには各国を繋ぐレーベルやバンド同士の交流といったように国と国の橋渡しをしていた人たちの存在もあった。そして、何よりも未知の文化に触れ、出会いと発見を繰り返す過程でアジアの音楽への好奇心をどんどんと掻き立てられることが、世界のリスナー同様に日本のリスナーがアジア諸国の音楽に引き寄せられたことの理由に他ならない。未だ出会ったことのない音楽や文化が、近くアジアに存在することに気付き、そこへの探究心は尽きることがない。

中でも台湾の、とりわけインディー・シーンからは、強い引力のようなものを感じることがある。サブスクリプションや来日公演の機会を介して、台湾インディーの音楽を聞いていると、そこには素晴らしいミュージシャンたちがいることに気付くのだ。とりわけ異彩を放つのが、落日飛車 Sunset Rollercoaster(以下、落日飛車)というバンドだ。これまでにワールドツアーを成功させるなど、2010年代に台湾から世界に飛び出したバンドの筆頭とも言える彼らが、台湾の音楽の魅力を伝えるきっかけのバンドの1つになったことは間違いない。ここ日本でも今年の1月末に行った渋谷クラブクアトロでのワンマン公演を完売させるなど、多くのリスナーを魅了している。

落日飛車というバンドの音楽には、度々、AORやフュージョン、シティポップなどの影響を垣間見ることがある。そういった過去の、特に80年代のサウンドへの発見と参照を行いながら、彼らなりの方法で吸収し、新しい音楽の創造を追求している。ラップトップによる音楽制作が加速した2010年代以降において、DTM的な編集の感覚も持ち合わせながら、それを巧みな楽器演奏によって表現していく、そんなデジタルとアナログの技術が折衷しているバンドとも言えるかもしれない。自由な発想の編集感覚と、楽器の演奏技術とが巧みに同居するサウンドは、過去のAOR・フュージョン・シティポップのサウンドを取り入れつつ、2010年代以降にアップデートさせようとする姿勢にも思える。

そんな落日飛車が、8月8日にアナログ・レコードをリリースした。昨年リリースしたEP『Vanilla Villa』と同EPに収録された「Villa」のジェリー・ペーパーによるリミックス楽曲、そして彼らにとって初の中国語歌唱であり任賢齊 リッチー・レンによる台湾ニューミュージックの名曲「我是一隻魚 I’m a fish」をカバーした楽曲を収録した10インチレコードだ。レーベルであるBIG ROMANTIC RECORDSの情報を参照すると、このレコードに収録されている『Vanilla Villa』の曲表記は「1. Welcome to Vanilla Villa」となっていて、はじめは3曲としてリリースされた曲が1曲となって収録されている。ここにも彼らの自由な編集感覚が息づいていると思えるのだが、詳しくはインタビューでも話してもらったのでぜひ読み進めて頂きたい。また、同レコード収録の「Villa remix by Jerry Paper」でリミックスを担当したLA出身で、レーベル《Stones Throws Records》に所属するジェリー・ペーパーとの共鳴も必然のように思えるのは、例えば彼がライブで佐藤博の「Say Goobye」をカバーするなど、落日飛車と同様にシティポップやAORといった音楽への眼差しを持っているからだ。ベッドルーム・ポップのミュージシャンである彼は宅録によって制作を行うことも多く、その音楽はインディ・ソウルなんて呼ばていたりもする。まさに落日飛車と同じDIYな制作、編集感覚で過去のソウルやAOR、ひいてはシティポップまでも参照しながら、自らの手によって吸収とアップデートを繰り返し、楽曲を生み出しているというところが近い姿勢にも思えるのだ。

アジアへの音楽に注目が集まる近年、ワールドツアーを成功させ、ジェリー・ペーパーとも共演、台湾から世界へと接続しながら精力的に活動する落日飛車のボーカル&ギターの国国(Kuo)に、2020年1月末の渋谷クラブクアトロでのワンマン公演で来日した際、話を聞かせてもらうことができた。(インタビュー・文・写真/加藤孔紀 通訳/白 天翔)

Interview with Kuo from Sunset Rollercoaster

――はじめに、落日飛車というバンドがどのように結成されたのか教えてください。

国国 Kuo(以下K):2009年から2010年の間に結成して、その時は2人組でした。最初はエレクトロミュージックをやりたいと思っていましたね。

――その後、2011年にファースト・アルバム『Bossa Nova』がリリースされた後、しばらく間が空いて2016年にEP『Jinji Kikko』がリリースされました。その間に起きたこと、サウンドが変化していった理由について教えてください。

K:2011年から2016年の間に休止していた期間があって、メンバーも変わったんです。メンバーが変わったことでやりたい音楽も変わって、フュージョンや80年代のAORのサウンドへと変化していきました。あとは、単純に自分たちが年齢を重ねて大人になったということがあるんだと思います。

――では大人になるということが、現在の落日飛車のサウンドに繋がる部分があるんでしょうか?

K:フュージョンやAORを取り入れるということを最初は、冗談みたいに始めたところがあったんです。僕らのお父さんが車に乗りながらカーステで聴いていたような、そんな時代の曲をやってみたら楽しいんじゃないかって。ただ、初めは冗談みたいに始めた音楽だったけど、(80年代の)当時だけじゃなく現代でも聴く人にとっては面白く、大人で、ロマンチックなサウンドに感じてもらえると僕ら自身が気づいたんです。

――たしかに、フュージョンやAORの影響を感じる『Jinji Kikko』収録の「My Jinji」では、アウトロのジャムセッションで楽器を存分に演奏していることから、その楽しさが伝わってきました。

K:「My Jinji」に関しては、初めはアウトロのジャムセッションのパートから曲を作っていたんです。それと、ジャムセッションとは別にもともと作っていた曲が他に1つあって、その曲をジャムセッションだけで構成された曲の前に入れて、2つの曲を繋げるようなかたちで作っていきました。2つの曲を1つの曲にまとめるために、アレンジを行って調整しながら完成させたんです。

――『Jinji Kikko』がとてもスムーズな作品だという印象を持ったことも、「My Jinji」の制作背景を聞いて納得た部分があります。また、最新EP『VANILLA VILA』では収録の3曲が一層スムーズで、まるでDJが曲を繋いでいくように構成された作品だと感じました。

K:『Vanilla Villa』に収録の「Welcome to」「Vanilla」「Villa」の3曲はもともと1曲だったんです。ただ、1曲にしては曲が長いということになって、イントロ、メロディ、アウトロというすみ分けで3つの曲に分けていったんです。ただ、聴く人には1曲を聴くように聴いてもらいたいと思ったので、曲間を調整していって、それが結果的にDJが曲を繋いでいくような聴こえ方になったんだと思います。

――その中の1曲「Villa」はジェリー・ペーパーがリミックスしてリリースしていますよね。どういった経緯で彼がリミックスすることになったんでしょう?

K:もともとジェリー・ペーパーのことは好きで、いつか一緒にセッションしてみたいと思ってたんです。ただ、彼が台湾に来るとき、僕らはたまたま台湾にいないことが多くて。そんなこともありながら『Vanilla Villa』をリリースするとなった時に、彼が気に入ってくれて、リミックスしたいと連絡をくれたから、ぜひと思ってお願いしました。

――ジェリー・ペーパーはライヴで佐藤博の「Say Goodbye」のカバーを披露するなど、彼自身シティポップのサウンドに注目しているようなところがあります。そういった点も、落日飛車との共通項なのかなと思っていて。シティポップのサウンドを聴いたり、サウンドに反映させることはありますか?

K:もともとシティポップというジャンルがあることを知らなくて。『Jinji Kikko』を作った後に、初めてシティポップというジャンルがあることを知ったんです。ただ、知った後に思い返してみたら、以前から80年代のシティポップと呼ばれるアーティストの曲を聴いていたんだということに気づきました。

――ではシャムキャッツとのスプリットシングル「Travel Agency」のカバーではどうですか?あの曲の後半では、ベースのスラップが聴こえてきてダンサブルなアレンジになるところがあります。どこかシティポップを思わせるところがあったなと。

K:あのカバーでは、シティポップを取り入れた部分もあるけど、あえてシティポップのアプローチを目指したということではなかったんです。もともと自分たちはファンクやそういったグルーヴのある音楽が好きだったことがあって、だからベースのスラップやパーカッションを取り入れたアレンジになっていったんだと思っています。

――なるほど。では、そういったグルーヴのあるサウンドといったアレンジを踏まえて、楽曲制作や録音はどのように進めているのでしょうか?

K:レコーディングをする時は、いつもジャムセッションをするところから始めているんです。セッションしながら曲を作って、歌詞も付けていきます。レコーディングするときは、リラックスしている状態でいることを意識しながら進めていることが多いですね。

――レコーディングの際は、Kuoさんのギターから曲を作り始めることが多いですか?それともビートから組み立てていくことが多いですか?

K:色々なパターンがありますね。というのも、メンバー同士で弾く楽器を交換して制作を進めていくということもあるんです。ただ、自分は先立って進めていくことが好きなので、自分がギターを弾いてセッションを始めたり、ベースを弾いてセッションを始めたりということも多いですね。

――そうやって制作してきた楽曲を近年は、ワールドツアーで披露することも多かったと思います。アジアを飛び出してライヴをしてみて感じたことはありますか?

K:ツアーでアメリカに行った時なんですが、アメリカの人から音楽を愛しているという気持ちを感じることは多かったですね。音楽が生活の一部になっているからなんだと思います。全力で遊んで、全力で働く。その一部に音楽が入り込んでいる。アジアのライヴでは、アートを観ているというような視線を感じる一方で、アメリカではバンドと一緒になってライブを楽しむという意識を強く感じました。

――そんなアメリカのライヴでは、どういった世代の観客が多かったのでしょうか?先ほど話してくれたようにAORと呼ばれる音楽は元々、Kuoさんの両親や上の世代の人たちが聴いていた音楽ですよね。

K:聴きに来てくれている人は若い人が多くて、同世代かそれより下という感じでした。たしかに落日飛車はAORの要素もあるけど、それ意外のサウンドもミックスしているということもあって、新しい音楽として受け入れてくれる若い人たちが多かったんだと思います。

――アメリカの観客同様に、今、日本に住む20代後半の私にとっても落日飛車の音楽は、懐かしさがありながら、けれど新しい音楽と感じることが多いです。

K:ありがとう!


――Kouさんは、幼少期に教会に通っていたことがあると聞いたんですが、そういった体験が音楽制作に繋がっていると感じる事はありますか?

K:その時の体験をあえて取り入れようと考えることはないけど、そういう体験は潜在意識にあるものだと思っています。自然と音楽制作に表れてくるものかなって。だから、そういったことが今後、制作する音楽に影響として出てくるかもしれないとも感じています。

――落日飛車のメンバーは全員の楽器演奏が卓越していますよね。どのように音楽を学んできたのでしょうか?台北の中でお互いに楽器演奏を学び合ったりする場所やコミュニティがあるんでしょうか?

K:日本のように音楽を学ぶ専門学校みたいな場所は無くて、台北には民間のようなかたちで教えてくれる先生がいて、その人たちから習っていました。1人の先生から習って、より専門的なことを学びたいと思ったら、また別な先生を探して教わるということを繰り返しながら、音楽や楽器の演奏を学んできました。あと、今はインターネットでたくさんの音楽を聴くことが容易になったし、楽器の習得もネットを通してできるようになったこともあって、オンラインを通して情報にアクセスできるようになったことも大きかったと感じています。

Text By Koki Kato


落日飛車 Sunset Rollercoaster

Vanilla Villa (10inch)

LABEL : BIG ROMANTIC RECORDS
RELEASE DATE : 2020.08.08

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