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【Late Youth, Fast Life】
Vol.1
現在でも通用するビートでラッパーとしての実力を強くアピール

17 September 2022 | By abocado

【連載開始にあたって】
無料ダウンロードで発表されたミックステープの、サブスクリプション型ストリーミングサービス(以下、サブスク)での解禁が近年盛んに行われている。今年だけでもリル・ウェイン『Sorry 4 the Wait』、キッド・カディ『A Kid Named Cudi』、ウィズ・カリファ『Taylor Allderdice』……などなど、多くの作品が各種プラットフォームで聴けるようになった。ヒップホップ系メディアでは新譜のリリースと共に大きく報じられ、シーンを彩った名作が再びリスナーを楽しませている。また、ミックステープのサブスク解禁に限らず、広い意味での旧譜のリイシューはヒップホップやR&B(また、その他の周辺ジャンル)でも盛んに行われている。当連載で焦点を当てるのは、そんな再リリースされた作品たちだ。

特にヒップホップではしばしば過去と現在を対立させ、闇雲に過去を賞賛するか最新の音楽だけを聴くことを推奨するかの両極端になりやすい。「過去と現在では違いすぎるから比較にならない」という声を聞くことが多いのも事実だ。そこでこの連載では再リリースの動きを追い、過去と現在の繋がり、及び変化したものを検証していく。過去と現在のギャップを埋めることで、ヒップホップへのより深い理解が可能になるのではないだろうか。

【Vol.1】
さて、今から10年前、2012年は無料ダウンロード形式のミックステープの全盛期だった。ジョーイ・バッドアスが出世作『1999』を発表したのもこの年だ。先述したウィズ・カリファ『Taylor Allderdice』も10周年を記念してサブスク解禁された作品だった。そして、同じように10周年を記念して先日サブスクに登場したのが、ビッグ・ショーンのミックステープ『Detroit』だ。

『Detroit』はビッグ・ショーンの最高傑作の一つとも言われている。2020年にリリースされた現時点での最新作が「Detroit 2」と名付けられていることからも、その重要性が伺える。「Story」と題された短い語りのインタールードを挟みながら進んでいく構成も共通しており、参加アーティストも重なる人物が多い。ビッグ・ショーンにとっての原点は、2011年リリースのデビュー・アルバム『Finally Famous』ではなくこちらと言ってもいいだろう。

『Finally Famous』はノー・I.D.がメインプロデューサーを務めていたが、本作にはその名前はない。代わりに5曲を手掛けたのが旧知の仲のキー・ウェインで、得意とするピアノやストリングスの音を活かしたビートを中心に制作している。全体的にもこのキー・ウェインの作風を文字通りキーとしたような作りで、そこに当時注目を集めていたヤング・チョップ制作の緊張感漂うトラップなども取り入れたサウンドが楽しめる。トラップを中心にブーンバップも織り交ぜて、シンプルにラッパーとしての実力をアピールするような「良いビートに良いラップ」で作り上げた作品だ。この良い意味での力みの薄さは、所属レーベルの《GOOD Music》で作るアルバムとは違うミックステープならではのものと言えるかもしれない。また、現行デトロイトでは西海岸ヒップホップとの共通点を感じさせるスタイルが主流だが、デトロイトをタイトルに冠した本作にはそういった要素が見られないのは興味深いポイントだ。

「ラッパーとしての実力をアピールするような」姿勢が最も表れているのが、ドン・キャノン制作のシリアスなストリングスが効いた「100」だ。同曲にはデトロイトが誇る超実力派ラッパーのロイス・ダ・ファイブ・ナインに加え、当時その人気を急上昇させていたケンドリック・ラマーの二人をフィーチャー。このスキル頂上決戦のような座組みは多くのリアクションを呼んだ後の「Control」にも繋がるものだ。そのほかにもJ. コールを迎えたオールド・カニエ風の「24k of Gold」、ジェネイ・アイコとのメロディアスでハートウォーミングな「I’m Gonna Be」など客演のある曲はどれも充実している。セイイットエイントトーンとアーリー・マックという新進ラッパーの人選も素晴らしいヤング・チョップ制作のトラップ「Woke Up」は本作のハイライトの一つだ。純ソロ曲でもレックス・ルーガーの勇壮なトラップに乗り込む「FFOE」、サウスサイド制作のハードなトラップ「RWT」など聴きどころは多い。後者ではミーゴスが翌年のシングル「Versace」で広める三連フロウも取り入れており、現代のリスニング感覚でも自然と楽しめるだろう。また、『Detroit 2』でメインプロデューサーを務めたヒット・ボーイともダークな「Once Bitten, Twice Shy」で合体。その黄金タッグを聴かせている。

なお、本作のサブスク版にはタイガをフィーチャーしたバウンシーな「Do What I Gotta Do」は未収録で、オリジナルにはなかったトラップの「More Thoughts」が追加されている。「More Thoughts」は2019年に発表された楽曲だが、7年の開きがあるとは思えないほど本作にも自然と溶け込んでいる。このことからは、現行シーンの礎がこの時期に出来上がっていたことが感じられる。10年前の作品だが、決して現在とかけ離れたものではないのだ。(アボかど)

(サブスクに追加されたヴァージョン)

(2012年発表のオリジナル・ヴァージョン)


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Joey Bada$$『2000』
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Text By abocado

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