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BREAKDOWN THE POP
 ~時代を作るプロデューサーは誰だ?

 あらたなスーパー・プロデューサー時代の到来―そう、いまやプロデューサーとは従来の裏方的なイメージではないのだ。特に北米の音楽シーンを中心に、一曲に複数人のプロデューサーのクレジットが並び、「~~のシングルは、△△がプロデュース!」といったニュースが毎日のように飛び交う現在のシーンで、「プロデューサー」という役割が力を増しているのは紛れもない事実。彼らのことを知らずして、この時代のポップ・ミュージックを語るのは不可能といってもいい。

 例えば、リアーナの2016年のヒット曲「Work feat. Drake」には4人のプロデューサー・クレジットが並ぶ(ソングライターに至っては7人だ)。あるいは、ディプロやMike Will Made-It、Metro Boominといった名前を、一度ならず見かけたり、耳にしたことがある人もいるだろう。他方では、ロックやシンガーソングライター系を中心に、自作自演タイプのアーティストをサポートする、才能に溢れたプロデューサー陣も現代のシーンでは見逃せない存在だ。

 いずれにせよ現代のプロデューサーは、画期的なほどに大きな重要性と存在感を、シーンとリスナーに対して帯びている。本連載では、そんなプロデューサー中でも、いま、特に注目したい1人にスポットを当て、TURNライター陣によって徹底的に語り尽くす。(鼎談 : 渡辺裕也 × 坂内優太 × 山本大地)

第1回:Mike Will Made-It 

渡辺裕也(以下W):まずはこの企画を提案してくれた山本くんに訊きたいんですけど、どうして第一回目はMike Will Made-It(以下MWMI)でいこうと思ったんですか?

山本大地(以下Y):やっぱり昨年、「年間ベスト・ソング」の筆頭株だったビヨンセの「Formation」や、6週連続全米1位を取ったRae Sremmurdの「Black Beatles」という、一年を代表する曲を手掛けたのが大きいですね。企画の冒頭でも書いた新たな「スーパー・プロデューサーの時代」を象徴する人というとこの人だな、と思いました。

W:今年でいうと、MWMIはケンドリック・ラマーの『ダム.』にも大々的に参加してますよね。たしかに今いちばん活躍しているプロデューサーのひとりだと思う。でも、彼がこんなに北米のシーンで目立つようになったのって、いつ頃からなんだろう。

Y:僕は2014年にRae SremmurdがブレイクしたあたりでMWMIを知りました。チャートをチェックする習慣があったので、レイ・シュリマーというデュオが売れ出したことは知っていて、それで彼らの曲を聴いていると、必ず最初に「マイク・ウィル・メイド・イット」っていう声が入るので。

W:いわゆる「タグ」ってやつだよね? 曲の冒頭で「このプロデューサーが作ったんだよ」ってことを示すためのサインみたいなものというか。

Y:そうそう。で、当時はまだそのタグっていうものにも慣れていなかったし、「これは何だ?」ってなって。そんなこともあって僕は、時期的にも同じくヒップホップ・シーンで売れっ子になっていて、同じくタグが印象的だったDJ・MustardやMetro Boominと一緒に知りました。

坂内優太(以下S):僕も同じ頃から名前を聞くようになった気がします。その頃、勢いのあったラッパーによくトラックを提供している人という感じで。後から振り返って、Futureのアルバムとかにも参加してたんだなと。

Y:そう、ファレルやPusha Tも参加した「Move That Dope」の辺りですよね! Futureにはデビュー作『Pluto』でも、全米2位を取るセカンド・アルバム『Honest』でもそれぞれ3曲手掛けてたんですよね。

S:「Move That Dope」は反復するファンキーなビートとベースの上で、ラップ・リレーする感じが最高にカッコよかった。

W:あと、プロフィールをざっと追ってみたんだけど、どうやらMWMIって音楽一家で育ってるらしくて。トラップのシーンを牽引しているプロデューサーっていうイメージだったけど、実際はもっといろんな側面がある人なのかな。

Y:もともとグッチ・メインの曲に彼のビートが使われるようになったのが彼が売れ出したきっかけですし、その後もFutureやRae Sremmurdとかアトランタのトラップ系のラッパーにトラックを提供していたので、10年代のトラップのラップ・シーンを裏で支えてきた存在、というのはその通りだと思います。特に、自分の作った「Ear Drummers」っていうプロダクション・チーム兼レーベルみたいのに、Rae Sremmurdをフックアップして彼らの作品を手掛けてヒットさせたっていうのも、彼のキャリアのターニング・ポイントの一つだと思いますし。

W:そもそもこの「Mike Will Made-It」っていうアーティスト・ネームも、グッチ・メインに由来してるんでしょ?

Y:そうみたいですね。彼がビートを手掛けたグッチ・メインの「Star Status」っていう曲で、グッチが“Mike Will made it, Gucci Mane slayed it”とラップして、そのフレーズを気に入ったのがきっかけみたいです。

S:でも、その後のキャリアを辿ると、トラップを足がかりに色んなジャンルにリーチする音楽をやってる印象があるよね。トラックの構成とかにポップス的なひねりを感じる曲も多いし、むしろビート以外の部分に作家としての特徴があるような気さえする。

Y:例えばシアラの「Body Party」なんていう、甘いR&B曲も彼の代表曲にありますし、 “MWMI=トラップのビート”という風に枠に収めることは出来ないな、と思ってしまいますね。

W:シアラのこの曲とか、さっきの「Move That Dope」なんかを聴いてみると、どっちもシンセサイザーが効果的に使われてますね。この辺にソングライターとしての特徴が表れているような気もする。ハットがリズムをこまかく刻んで、重低音がズンズン鳴るっていうビートの組み方は、確かに典型的なトラップなんだけどさ。MWMIがR&Bのシンガー達からも引っ張りだこなのは、鍵盤で印象的なフレーズを書けるところがウケているからなのかも。

S:そもそもトラップのビートって、リズムの解釈に柔軟性があって、バラードとかにもハマりやすいんですよね。

W:ああ、たしかに。そう言われてみると納得。

S:彼の曲だと、ケリー・ローランドの「Kisses Down Low」とかも、基本のBPMは140とかですけど、一曲の中で色んなノリ方が出来るようになってる。そこに、ピッチを落としたヴォイス・サンプルとかを差し込んで、いま聴いても新鮮なR&Bバラードになってますよね。

Y:例えばドレイクとかBryson Tillerとか、トラップのビートの上で歌う人っていますけど、MWMIが曲を提供しているR&B曲の場合、何も「トラップの上で歌わせている」印象が全然なくて、むしろサウンド自体はしっかりとR&Bのムードに寄せられていますよね。あとはやっぱり冒頭でも渡辺さんが『ダム.』を挙げてましたけど、ケンドリック・ラマーの「HUMBLE.」はデカいですよ!これはもう今年を代表する一曲になるはず! というか、今年もまた一年を象徴するような曲やってるのかよ! っていう。

W:「HUMBLE.」も鍵盤のリフがすごく印象的な曲ですよね。ちょっとGファンクっぽいというか。うん、こうやってひとつひとつ聴いていくと、MWMIの手がけている曲調の幅広さがよくわかるね。

Y:ベースやハットの音が図太くて迫力があるところはMWMIのどの曲にも共通している気がします。それにしても、この「HUMBLE.」のリフなんて一度聴くと絶対耳から離れないじゃないですか。もう、完全にリフで持っていこうとしてる感じがするし、凄くロックっぽくも感じます。

S:R&B、Gファンク、ロック…この人も既存の音楽ジャンルの壁が融解していっている、今のアメリカのシーンを象徴する人なのかもね。

Y:それこそマイリー・サイラスの「We Can’t Stop」なんていう超メインストリームどころの大ヒット曲にも参加してましたしね。実際、僕はこのときMWMIの存在は知らなかったんですけど。

S:そういう意味では「Black Beatles」とかも、色んなジャンルの反響が聴こえる曲だよね。冷たいシンセの感じとかミニマルな展開とかは、ちょっとニュー・ウェーブっぽい…というかニュー・オーダーっぽい(笑)。しかも全米1位!

W:どうなの? これ、そろそろグラミーの「プロデューサー・オブ・ザー・イヤー」とか獲っちゃうんじゃない? 

Y:そうですね。アルバム、『Ransom2』も出しましたし、ここまで大事な曲に関わっていればさすがにグラミーの筆頭候補のはずですよね! あ、でもどうせグラミーは白人ばっかりだからなぁ…。

S:山本くんはひねくれてるねえ。

W:あはは。でも、この活躍ぶりだからね。ノミネートはまず間違いないでしょ!

Text By Yuya WatanabeDaichi YamamotoYuta Sakauchi

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