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「年齢と共に内容は変わるけど目指すものは昔と同じなんだ」
新作が好評のルー・バーロウ、元祖宅録ロッカーの誇り高き自然体

15 August 2021 | By Shino Okamura

緑豊かな郊外の一軒家で、家具や絨毯などの上に無造作に転がった多くの機材と戯れながら、すぐそばでは子供たちがはしゃぎ、そんな様子を妻が撮影している……。現役ミュージシャンでありつつも、故郷マサチューセッツの郊外でそうやって良きパパであり良き夫として生きている今のルー・バーロウは、そこだけ切り取ればちょっとだけ音楽おたくな50代の平均的なアメリカ人男性だろう。メガネとバランスのとれた厚い髭も渋みを増した55歳の現在の顔によく似合っている。

だが、そうやって時折公開されるルー・バーロウのインスタグラムや自宅からの配信ライヴは、また別の側面……そう、彼が活動開始した80年代前半も実際はこんな感じだったのではないか……という想像を掻き立たせてくれる。確かにルーの出発点はハードコア・パンク・バンドのディープ・ウーンドだ。そしてそこからダイナソーJr.へと発展していく中で、自身のバンドであるセバドーを始め、90年代には《Homestead》や《Sub Pop》から独自のメランコリックなメロディを生かした作品を多数発表した。だが、彼の本質のもう一つの顔は、4トラックのカセットレコーダーで自作曲やカヴァーをラフに録音し、多様なフォーマットで次々と発表してきた宅録アーティストだ。ここが原点の一つだからこそ、彼は長らくロウ・ファイ・アーティストと呼ばれてきたし、ハードコア・パンクとフォークやカントリーとの合流をハンドメイドなメソッドで実現させることができたのだと思う。

そうした立脚点……いや彼の音楽家としての美学に触れればなおさら、約6年ぶりとなるソロとしてのニュー・アルバム『Reason To Live』が、非常に自然に自分の生活の中に音楽制作を置いている現在の充実ぶりを反映させた作品であることに気づくだろう。コロナ禍以降にリモートで制作したという状況も、当然ながら彼にとっては逆境でもなんでもなく、言わば、とうの昔にやってきたこと。レーベル《Joyful Noise》と手を組んだ新しいプラットフォームでのリリース楽曲をまとめる形でリリース、というそのプロセスこそ新しい時代らしい取り組みだが、そんなトライも彼の音楽家としての目線を揺るがせるものではなかった。一つ一つの楽曲が全て彼の生活の中から生まれてきたものであるがゆえに素晴らしい新作『Reason To Live』。再結成以降は順調に制作やツアーに参加するダイナソーJr.の新作『Sweep It Into The Space』にも「Garden」「You Wonder」を提供しているが、現在のルーは心身ともにとてもいい状態のようだ。

ジョン・デイヴィスとのユニット、フォーク・インプロージョン(そう、ラリー・クラーク監督による映画『KIDS』(1995年)のサントラはオルタナ時代の至宝だ)の活動再開なんて嬉しいニュースも伝わってきたそんなルー・バーロウに話を訊いた。
(インタビュー・文/岡村詩野   協力/斉藤耕治)


Interview with Lou Barlow

──ちょっと前にLAを離れ、現在は奥様と3人のお子さんと一緒に故郷のマサチューセッツ州に住んでいるそうですね。

Lou Barlow(以下、L):そう、最初の妻と離婚した後、家族の近くに住むためにマサチューセッツ州に戻ったんだ。その方が子供たちのためにもなるし、前妻にとっても家族の近くにいた方がいいと思ったからね。LAでの生活では2つの世帯を支えることはできなかったし、新しいパートナーとの間に子供を授かりたいとも思っていたので……なので、2014年にLAを離れ、今はマサチューセッツのグリーンフィールドに住んでいるよ。

──では、今作はマサチューセッツに戻り、新しい家族との生活の中で制作した、ある意味原点回帰のようなアルバムなのですね。

L:そう、いくつかの曲では、最初の録音にカセットレコーダーを使い、その後、プラグインをいくつか入れた基本的なヴァージョンのプロトゥールズにすべてを転送して作ったんだ。ミキシングボードはシンプルで安価な3バンドのE.Q.を使い、マイクも安価なものを使ってる。もっと完璧なスタジオセットを持ちたいと思っているんだけど、とりあえず今あるものを最大限に活用して制作したんだ。

──ちょうど、昨年はコロナ禍で家に籠らないといけないタイミングでした。ですが、もともとが宅録を出発点とするあなたにとっては、そこまで苦にはならなかったのではないかな? とも思ったりもします。実際のところ、コロナは今作の制作にどのような影響を与えたと思いますか。

L:アメリカは長い間、政治的な危機にさらされていた。コロナはその問題に焦点を当てたよね。これらの影響は、今回のアルバムでは「All You People Suck」や「Love Intervene」といった曲に現れていると思う。実際のところは、ロックダウン中に完成させたんだけど、何か注意をそらすものとして、音楽やアートワークを作る時間があったのは良かったと思っているよ。もし、普段のようにツアーをしていたら、このような集中力は得られなかったと思うし。ただ、音楽の商業的な世界や、芸術の重要性を軽んじるようなアメリカ社会を信用していないのは事実だけど、そのような批判を意図したわけではないんだ。あくまでこのアルバムのタイトルは、私の家族の生活についてのもの。家族とのつながりが私の生きがいなんだ。

──今作はもともと近年のあなたの作品を出してきたレーベル《Joyful Noise》の「Artist Inabler」という新しいプラットフォームに即して作られています。このプラットフォームの会員(メンバー)になると毎月あなたの新曲やレアトラックが送られてきたり、フィジカルメンバーには四半期ごとにカセットやビニールが送られてくる、というような仕組みですが、どういういきさつでこの新しいプラットフォームにトライすることにしたのですか?

L:実は今回のサブスクリプション・シリーズは、長い間、フィジカルCDやレコードをリリースしてきた僕にとっては初めてのケースなんだ。あのプラットフォームは僕の音楽を好きでいてくれる人たちとのつながりをよりパーソナルなものにしてくれるし、ある意味で、これまでで最も少ないリスナーを対象としているってことになるんだけど、限定された特定の数のレコードがプレスされることで、お金を無駄にすることがないといういい点もある。そもそも僕自身はリスナーとしてはSpotifyが大好きでね。確かにサブスクは直接的なお金にはならないけど、僕はとにかく自分の音楽をたくさんの人に聴いてもらいたいんだ。だから Spotifyのようなストリーミングサービスをボイコットするつもりはないんだよ。

──あなたは初期からDIYを地でいくような活動をしてきました。そういうあなたがハンドメイドなレーベルである《Joyful Noise》と組んでそのような新しいことにチャレンジすることにはすごく意味がありますね。

L:インディペンデント・レーベルを設立することは、常に勇気とリスクを伴うアイデアだと思う。ほとんどのレーベルはリッチな人たちが資金を提供していて、レーベル運営に伴う必然的な損失を支えることができる。僕は、一緒に仕事をする人たちのことを、僕に大きな恩恵を与えてくれる音楽ファンの仲間だと思っててね。例えば、レーベルはアーティストに従属して、アーティストのあらゆるアイデアを受け入れるべきだと考えるミュージシャンと仕事をしたことがあるんだけど、僕はそれが良い方法だとは思わない。アーティストはレーベルと協力して、フィジカルのフォーマットで音楽をリリースすることはとてもお金がかかることを理解するべきだ。第一、数えきれないほどのバンドが世間の注目を集めようとしている中で、アーティストを知らしめることは難しく、レーベルはオーディエンスとのつながりを慎重に育てていかなければならないよね。今も昔も、レーベルと仕事をするときは、お互いに尊敬し合い、そして期待しないことが大切だと思う。

──では、『Reason to Live』の曲を書き始めたとき、この新しいプラットフォーム《Artist Enabler》のことは念頭にあったのでしょうか? それとも、《Artist Enabler》のプロジェクトに参加することを決める前から、新しいソロ・アルバムの方向性が決まっていたのですか?

L:シリーズの曲はシリーズが進むにつれてすべて録音した。例えば、シリーズの第1弾(18曲)として新曲4曲をまず録音。その後、3ヶ月ごとに新曲を発表するために録音を開始したという流れだった。これは非常にチャレンジングなことだったけど、曲をできるだけ新鮮な状態で録音することができたよ。僕はこれまで、ソロ・アルバムをリリースする前の1年間に録音した曲を収録したことはなくてね。通常、数年分の素材からソロ・アルバム用の曲をまとめるという形をとってきたから。ただ毎回、テーマを決めて新曲を作っている。例えば、今回のアルバムだとダイナソーJr.のツアー中にホテルの部屋で録音した曲もある。「All You People Suck」や「Act Of Faith」などはその一例だよ。

──今回の作品ではジョン・モロニーが1曲ドラムを叩き、マーク・セードルフが1曲録音し、ジャスティン・ピッツォフェラートが共同でミックスを担当し、ピート・ライマンがマスタリングをしていますね。あなたの活動の中で自然と時間を共にしてきた仲間たちばかりで、なるほどツアー中にホテルで録音したりと日々の暮らしが直結していることがわかります。

L:そうだね、ジョン・モロニーは、Sunburned Hand Of The Manのリーダーとして知られている。また、ダイナソーJr.のツアー・マネージャーとしても活躍してくれているんだ。彼はサーストン・ムーアと共演したこともあり、才能豊かなアーティスト。もう7年ほど前からの付き合いになる。ジャスティン・ピッツォフェラートは2004年からJ(・マスキス)と一緒に仕事をしていて、2007年にダイナソーJr.再結成時代の最初のLP『Beyond』の制作を始めたときに彼と出会ったんだ。彼は現在、自分のスタジオ(Sonelab)を所有していて、パーケイ・コーツをはじめとする多くのバンドのレコーディングを担当しているよ。ピート・ライマンは今や売れっ子のマスタリング・エンジニア。ノー・エイジなどのインディー・バンドから、ジェイソン・イズベルのようなグラミー賞を獲得したアーティストまで多数の作品をマスタリングしている。彼とは、僕の初期のホーム・レコーディング作『Weed Forestin’』のリイシューLPをマスタリングしてもらった時に知り合ったんだ。

──その『Weed Forestin’』もそうですが、あなたは昔から、ユーモラスでちょっとアイロニカルなセンスを持ちながらも、同時に非常に叙情的なアングルで歌詞やメロディを綴る詩人でした。ダイナソーJr.やセバドーで一定の成果を上げ世界的な成功を収めた後も初期からの姿勢や美学を失っていないのは非常に驚くべきことです。

L:どうだろうなあ。なぜ美学を失わずにいられるか……それはもう自分自身に同じ質問をし続けなければならないかな。と同時に、対象となる音楽や人々への愛し方やコミュニケーションの取り方を何度も何度も学ぶ必要もあるだろうね。成長するためには、クリエイティヴでアートに熱中する新しい方法を見つけなければならないからね。ただ、今の僕は家族を養い、心身ともに健康でいなければならないわけだから、まあ、そんなことはどうでもよくなっているとも言えるよ(笑)。

──昔からあなたはダイナソーJr.、セバドー、ソロ、あるいはフォーク・インプロージョンなど様々なプロジェクトをうまく分けています。その作業の効率化はインターネット時代の今の方がストレスがないですか?

L:どのようにそれらのプロジェクトを分けてやれているか……対処しているかは自分でもわからないんだ。スケジュールや期日を把握して、最善を尽くしてるってだけで。最近、ツアー中は曲作りに時間を割くようにしていて、それが役に立っているのかな。あと、今回、コロナ禍ということで初めて誰かと一緒にリモートで仕事をしたわけだけど、それがうまくいったというのは大きな成果だとは思う。最初は不可能だと思っていたことが、うまくいくようになってきたってことなのかもしれない。これは僕にとって新しい試みだとは言えるよ。

──一足先にリリースされたダイナソーJr.のニュー・アルバム『Sweep It Into The Space』にもあなたの曲が収録されています。今回の『Reason To Live』に収められた曲との違いはどういうところに現れていると言えますか?

L:『Reason To Live』に収録されている2つの曲はダイナソーJr.の曲として考えたものでね。6弦ギターで作ったんだけど、それってダイナソーJr.の曲を書くのに必要な方法なんだ。ダイナソーの曲はすべて標準チューニングの6弦エレキ・ギターで作られているからね。でも、『Reason To Live』に収録されているほとんどの曲は、オルタード・チューニングの4弦ギターを改造して作ったもの。そのまま4弦ギターで演奏もしているんだ。そういう手法が違うことはあっても、プロジェクトごとに異なるテーマを追求することはないかな。ツアーに持っていけるギターの種類……飛行機で何本預けられるか、ツアー用の車に何本入るかなどだけど、そういう条件に合わせてライヴで演奏しやすい曲に仕上げることを意識しているくらいなんだよ。ただ、年を重ねるごとに曲作りに費やす時間は長くなっている。というのも、初期の曲は自分の中で最初に生まれたアイデアをそのまま形にしたからなんだよね。もちろん、今でも同じアイデアや似たようなメロディーが出てくることがあるけど、同じことを繰り返してしまわないように、それらを洗練させるのに時間がかかるってことなんだ。「Over You」や「In My Arms」などの曲では、僕の初期のメロディーや未完成の曲……そう、35年前のカセットテープに入っていたアイデアを使ったんだ。オリジナルのアイデアに第2、第3のパートを加える形でね。つまり、初期の試みとの最も明らかな違いは、僕の曲のパート数が増えたってことなんだ。

──では、キャリアを積むことで、曲作りのモチーフやインスピレーションが変わってきたという実感はありますか?

L:それは特にないかな。曲は自分自身との対話であり、自分の人生の変化を理解し、それを穏やかに受け入れようとするものなんだ。年を重ねるごとに具体的な内容は変わってくるけど目指すものは昔と同じってことだと思うよ。

──録音機器の進化により、今では誰でも簡単に曲を作れるようになりました。しかし一方で、真のソングライティング能力を求める声も増えています。あなたにとって理想的なソングライター像とはどういうものでしょうか?

L:僕はただ、記憶に残るようなメロディーを作りたいと思っているんだ。これは学習できるものではないよね。良いメロディーができたら、それを中心に曲を構成するのがヴィジョン。最近では、巧妙さや簡潔さよりも、リスナーに寛大であることを意識しているってことくらいかな。

──近年活躍するようになった、ホーム・レコーディングから頭角を現してきたマック・デマルコやクレイロのようなアーティストについてはどのように感じていますか?

L:その二人の曲は好きだよ。Spotifyでそうやって常に新しいアーティストをチェックしたり発見したりするんだ。とても便利だよね。新しい若いアーティストは様々なスタイルに寛容で、90年代のインディー・ロックに多く見られたパンク・ロック的なセオリーに縛られず、魅力的な作品を作っている。そこがいいんじゃないかな。他には、Haley HeynderickxやHey Cowboyなどが好きだよ。

──インスタグラムの投稿やYouTubeでの自宅ライヴ動画などを見ていると、普段の生活と音楽活動が自然と両されているように感じます。50代のあなたにとって、家族との生活がとても貴重なものであることは理解できます。しかしその一方で、何かに対して怒ったり、不安になったり、危機感を持ったりする姿勢も失われていません。日々新たな問題が発生している現代アメリカ社会についての率直なご意見を聞かせください。

L:ああ、すべてが悲しくて不安になるね。何年も前から、アメリカの政治状況について極度のパラノイアを抱えている。女性やマイノリティに対する人々の意識の変化が、いつの日か大きな政治に反映され、共感を得られるような生産的なシステムが実現することを願っているよ。

──そういえば、最近、フォーク・インプロージョンのジョン・デイヴィスとも再会したそうですね!

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L:そうなんだ! 今、彼とリモートで数曲作っていてね。ま、楽観的に考えているよ。なんたって20年も連絡を取っていなかったわけだから、それを思うと素晴らしい進展だよ(笑)。当面はダイナソーJr.のツアーなどでスケジュールが埋まってるんだけど、ジョンともなんとか曲を作り続けていきたいと思っているんだ。

<了>

 

Text By Shino Okamura

Photo By Adelle Barlow

Translation By Koji Saito


Lou Barlow

Reason To Live

LABEL : 7 e.p.
RELEASE DATE : 2021.05.28


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