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「大きなスパンで変わっていくものを僕らはどう実感するのか」
Madegg改めKazumichi Komatsuの創造新領域

19 November 2020 | By Shinpei Horita

Madegg名義を含めると2015年に発表された『NEW』以来、そして本名であるKazumichi Komatsu名義としては初のフル・アルバムとなる『Emboss Star』が素晴らしい。マスタリングに現代のアンビエント/電子音楽を代表するレーベルである《Recital》を主宰するショーン・マッキャンを起用するとともに、Le MakeupとDove、Cristel Bereと彼の作品では初めてヴォーカルを迎え入れて楽曲も収録された今作。10曲30分という短い構成ではあるがメロディーや歌詞はもちろんのこと、加工された声や生成されては消えていくフレーズがそこかしこに散りばめられており何度聴いても飽きることは無い。自身の快楽や趣味に引きつけて制作されたという今作は聴き手の身体やそこに刻み込まれた記憶に直接作用するようなプリミティヴな魅力に満ちた一枚だ。

インタビュー中、小松の口からは再三「操作性」「オペレーション感」という言葉が繰り返されていた。フォークロアや文化の継承をキーワードにOPNからオーストラリアの先住民族(アボリジニ)に伝承されるソングラインにまで小松の思索が横断する今回のインタビューは『Emboss Star』を解き明かすきっかけになるとともに、このインタビュー自体が読んだものの視野や思考を操作するようなものになっていると思う。
(取材・文/堀田慎平 協力/岡村詩野)



Interview with Kazumichi Komatsu

――2015年のMadegg名義でのアルバム『NEW』を最後に、本名であるKazumichi Komatusu名義で作品をリリースされていますが、これには何かきっかけや意図があったのでしょうか。

Kazumichi Komatsu(以下、K):もともとM/D/GとかdagshenmaさんとやってたAcrylとか名義が他にも色々あって。ヴェイパーウェイヴのコンピやカセットに使っている全く知られていない名義もあるんですよ。ただ新しく名前を作って違うペルソナを立ち上げて音楽性を区別していくというよりかは、もともと僕は大学でグラフィックデザインを勉強していて途中からサウンドアートやインスタレーションの方にシフトしていったんですがそういった活動の一部としてDJや映像を使ったライブを位置付けるって感じで名前を変えるというか本名に戻したって感じですね。

――Kazumichi Komatsu名義になってからの作品を聴いていると、ビートがなくなりアンビエントや現代音楽の要素が大きくなっていることも特徴的だと思うのですが。

K:そうですね。2009年とか2010年頃、自分が高校生の時に作ってた音楽をYouTubeとかにアップしていたんですけど、それを聴き返すとビートじゃないんですよ。ノイズなんですよね(笑)。ロサンゼルスとか西海岸のノイズやエクスペリメンタルミュージックを聴いて一人で作れるんだって気づいて作り出したってのが最初にあったんで、ビートとかのアプローチは2011年以降っていうかその後にMadeggとして音楽を作っていく中で生まれたんです。ロサンゼルスのエクスペリメンタルミュージックの流れや 初期のOPNや《Leaving Records》の作品とかビートもあるけど轟音のノイズとか、アンビエントみたいなやつとかぐちゃぐちゃのシーンがあってそういうものに憧れていて。そこからLAビートとかにも興味をもっていく中でビートが出てきたって感じなんですよね。そういう経緯があって、なんか根本的な興味に戻ろうって考えないと二番煎じだし模造品というか僕が再解釈した音楽でしかないなと。もっと自分の快楽や趣味に引きつけて音楽やりたい。音楽というか音を考えてみたいって思っていたらビートが無くなっていったって感じですかね。

――本名で作品を発表していくということと自分の快楽や趣味に引きつけて作品をつくるというのは結びついている部分がある。

K:そうだと思います。ただもしかしたらまたビートのある音楽も作るかもしれない。

――今作は「過去4年の間に作業されたEP、インスタレーション作品、映像作品、ファッションショー、パーティー、レイヴ等の実験の中から将棋の棋譜を読み返すようにして見つけ出されたものを基礎としている」そうですが、見つけ出されたものとは具体的にはどのようなものだったのでしょうか。

K:この4~5年で自分の活動の範囲も変わってきていて。そもそもあんまりライヴとかしなくなったし、野外やファッションショーなどベースが鳴らない環境であったりビートが必要とされていない環境でのパフォーマンスもあって。例えばファッション・レーベルである《PUGMENT》に最初に関わったファッションショーでは、ビル一棟をスピーカーとして考えみる。ビル一棟全部鳴っているみたいな。スピーカーも自分で作ったりして。要はいろんな音を目的に応じて作っていくんですけどその間に思考のプロセスがあるんです。こんなのがいいかなとかこんなのやってないなとか作っていく中でいらないものがたくさん出てくるんです。使い損ねた素材だったり。そういうスカムなものがゴミ箱に溜まっていくので時間をおいて聴き直すと意外とよかったなというのが結構あって。全部聴き直していくのが楽しくて、変なアプリ通して変えてみたりレコーディングし直すとかっていうのをしていったらいい感じになってきたなみたいなものが今回は結びついているって感じですね。

――ここ4年くらいの間の活動の断片を集めたと。

K:そうですね。

――じゃあ作った時期も曲によってバラバラですか?

K:全然違いますね。4年位前からある曲から今年の9月以降に出来た曲もあるって感じで。

――ちなみに一番古い時期に出来た曲というと?

K:一番古いのが「Weight of Smoke」とか「Ace One」とかじゃないですかね。(ミラノのレーベル《REST NOW!》から2018年にリリースされたEP『The Ambassador』収録「A2」は「Ace One」の続編)あと「Orca」も古いですね。だから僕のライブを何回も観ている人からすると分かるというかライブでやってましたよねみたいのがある。単純な話使い古しなんですけど。

――《Recital》を主宰するショーン・マッキャンがマスタリングに参加していることも今作の大きな特徴ですね。

K:そうですね。《Recital》は本当に好きなレーベルだし、好きな作品のマスタリングがショーンだったということも結構あって。それで連絡をとりました。

――ショーンには音の面で具体的な注文をしましたか?

K:依頼して一週間ぐらいで返ってきたんですけど、音が全部暖かくなっていて、めっちゃショーン・マッキャンやんみたいな。それ自体は凄く良かったんです。ただ、「海がきこえる」だけマイクの方で割れてるくらいヴォーカルが前に出てくるミックスにしてたんですがそれも全部丸くなっていて。それは直してもらいました。割れててもいいから前のめりな感じを残して欲しいって。けどそれも1日で帰ってきて。それくらいですね。

――まさに今作にはヴォーカリストが参加した曲が2曲収録されています。歌ものというのは小松さんのアルバムでは初めてではないですか?

K:そうですね。初めてだと思います。

――まずLe MakeupとDoveのお2人が参加されている「海がきこえる」、これはいつ頃作られた曲なのでしょうか。

K:これが一番最近じゃないすかね。7月くらいにトラックが完成して2人に送って。

――2人に歌ってもらうことを前提でトラックを作り始めたんですか。

K:そうです。最初はMio Fou(ミオ・フー)という、鈴木博文さん(ムーンライダーズ)と美尾洋乃さんとのユニットの「海の沈黙」(84年リリースの『Mio Fou』収録)のカヴァーを作りたいんだけどって言って2人を誘って。最初はアルバムに入れるかどうかは考えずにとりあえず作ろうかなみたいな感じで作っていたんですがトラック作り出したら全然「海の沈黙」になっていなくて。この状態で何か歌えるのかなと思いながら、2人に一回仮歌を入れてもらったらそれがすごい良かったんでちゃんと録ろうってなって僕が二人の家行って。

――元々Mio Fouは好きだったのですか?

K:いやたまたま最近CD買ったんです。でもアルバムの曲が全部良くって。僕が作ったトラックの時点で原曲と違ったものにはなっていたんですけど、Le MakeupとDoveの2人が美尾洋乃さんのメロディで歌ってたりいろんな調整をしましたね。あの2人はやっぱり瞬発力が凄かったです。

――一方、「Followers」にはCristel Bereが参加しています。

K:この曲は《PUGMENT》と一緒に作ってたって感じでアルバムのために作ったわけではないんです。《PUGMENT》が東京都現代美術館のグループ展で展示した作品の中で流れてた曲なんですけどをアルバムにいれるにあたってブラッシュアップしました。だから歌詞は展示のコンセンプトに基づいていて。アメカジみたいなものが日本に定着するっていう流れにGHQの占領や基地やオリンピックの問題が避けがたく結びついていて。GHQ占領下当時の東京にワシントンハイツと呼ばれる団地があり、それらが東京オリンピックの選手村に転用されて、その後代々木公園などになったらしいんですけど、そこにはファミリータイプの家が並んでいて、みんな季節関係なくジーンズにTシャツというようなイメージはそのような歴史を起源としている。そこからそういうファッションのイメージが広がっていったという説があって。今アメカジ風Tシャツって日本全国の古着屋に山のように積まれているじゃないですか。そういうものをある種の歴史の複層として《PUGMENT》が大量に手に入れてきててそれをコラージュして展示に使っていたんですけど。そこにプリントされた文字を全部脱きだしてそれを使って歌詞にしています。

PUGMENT Spring 2020 Purple Plant


――「Orca」を先行公開していた《Backseat Mafia》というサイトに寄稿された小松さん自身のコメントに、異なる地域に伝わるシャチにまつわる物語や神話について考えていたというような話があって。今のアメカジ・ファッションの話もそうですが民話や伝承というキーワードがアルバムのコンセプトとしてあるのかなと思ったのですが。

K:いわゆる折口信夫とか柳田國男がいう民話、フォークロアっていう意味もあるんですが、ウェブの世界で民俗学的なトピックとか動向みたいなものをどう考えるかって結構重要だなと思っていて。それはずっと考えてることで作品でもそういうことをやりたいなって思って作ってるんです。今は全部が残っていくデジタルストックの時代じゃないですか。ただ何かを残すってことは、失うとか劣化するっていうことを抱えてるはずなんですよ。民話なんかまさにそういうメディアで欠損とかノイズみたいなものを抱えたまま伝わっていくと思っていて。そもそも文化ってそういうものだと思うですけど。

例えば昔のアナログ・メディアがデジタル変換されることで劣化性みたいなものもそれ自体シュミレートされて、画面上にフラットに並ぶ。それは本当に保存されたってことなのか僕らはあまり分かっていないと思うんですよ。ウェブが本格化したのが90年代以降としてまだ30年くらいしか経っていないんで。残っていくってことはどういうことなのかっていうことをデジタル時代に考えないといけないと思っています。とはいいつつ今回も普通にデジタルの音源でリリースするからデータとして残ってはいくわけなんですけど。データとしては僕の作品も残るには残るんだけど、未来で僕自身が立ち返ったり、他の人が発見したりする時に何を再生させるのかみたいなことを考えているというか。そういう意味でのフォークロアや民話がみたいなもの、デジタル時代の在り方というのを考えているって感じですね。

――そういうアイデアや思考というのは作品全体に活かされている?

K:それはやっぱり「Orca」以外の曲にも通底しているアイデアで。なんていうかオペレーションというか操作性みたいなのを消さないようにしたい。僕の作り手としての裏側のオペレーションとかソフトウェア感みたいなものが消えないようにするっていうことは意識しました。

――音楽でいうオペレーションや操作性というと楽器を弾くであったり機材を操作するということになるかと思うんですがそういうものではない?

K:演奏性っていうよりは、例えばさっきの《Backseat Mafia》のレビューでは「没頭が邪魔される」みたいなことを書かれていたと思うんですけど、それは一種操作として機能しているというか聞いてる時に直接的に操作が起こっていると言える。今は感情みたいなものをコモディティとしたエコノミーというか経済がめちゃくちゃ大きくなってる。でもそれを続けるとはっきり言って何も残らないと思う。感情の物語とか感情の経済に全部の曲が伴奏のように付けられちゃうと危ないし僕自身も作っている意味がないと思う。そういうことを意識してごちゃごちゃになるっていうか常にその場で操作されるようなことをやっているというか。なかなか言葉にするのは難しいんですけど。

――なるほど。

K:だからアメカジの話とかシャチの話もリンクしていなかったら歌とか作ってないとは思います。「Followers」のコンセプトは SF的な、地下で大量にTシャツを生産している工場、そこに置かれているラジオからずっと流れている無線音楽みたいな感じなんですけど。それは別に歌じゃなくてもいいわけで。アンビエントでもよかった。でもそれは歌じゃないといけないなっていうふうに感じて僕がアイデアを出したんです。歌ってめちゃくちゃ古いわけじゃないですか、媒体としては。その力は計り知れない。誰でも歌えるっていうことは凄いことだと思うし、軍歌や国家やプロテストソングのようにイデオロギーに奉仕することもあるわけで凄く危険なものでもある。データにしなくても残ることがあるとかそういうことを考えていて。

それでいうと「海の沈黙」をカヴァーしようと思ったのも、日本の歌謡曲の歴史みたいなものを考えたときにどう今を位置づけるかみたいなことには興味があって。誰かがカバーして歌を歌いに直すとか作り変えるみたいなそのその瞬間に初めて間違ってるか正しいかではなくさっきのオぺレーションっていうか操作が機能したと言えるって感覚がある。それを僕が引き受けて2人に歌ってもらって作り直すと初めて順序が作られるわけですよ。Mio Fouがあって「海がきこえる」があってという風に。そういうものはすでに無数にあるんですけど、歌にはそういう機能もあるってことだと思うんです。

――今作にヴォーカルが参加しているっていうのは印象的なことだとは思うんですけど、変わったことをしたというよりは必然的とも言えるような感覚を受けました。

K:そうですね。この2曲が無かったらフリーで適当にアップするみたいなことありえたと思います。それにLe Makeupの『微熱』は2020年を代表する作品の一つだと思うし、(Le MakeupとDoveによる)《Pure Voyage》から出したCristel Bereの作品もすごく好きでした。同時期にリリース出来たのは全くの偶然ですけど客観的に流れが見えて面白いですよね。

――そもそもバラッドという言葉があるように歌と伝承や物語というの深く結びついていますよね。歌ものが収録されているということはもちろんですが、それだけでなくメロディーにたどり着かないようなフレーズでも残って伝承されていくんだということを今作から感じました。

K:そう思います。ブルース・チャトウィンの『ソングライン』っていう本があるんですけど。そこに書かれていたのはオーストラリア先住民族にとっては歌が生命を左右するルート・マップになっているということ。僕らが想像できないくらい歌が生き死にに関わっている。先祖が経てきたルートを歌い直して継承する。長い年月をかけてずっと子孫に伝承されていくようなもので。そういう大きなスパンで変わっていくものを僕らはどう実感するのか。デジタルになったからもうそんなものはないんだみたいに言ってしまうのは逆に甘いというか舐めてる感じがする。

確かに系譜的なものを抑圧だと感じる瞬間はたくさんあるけれど、今しかないから今を生きるんでしょみたいな、そういう風にはなり得ない部分とどう付き合えばいいのか。ある意味で、「今」とか「感情」のようなものに想像力を集中させようとすること自体がデジタルなマーケティングのトレンドだと思う。僕自身も例えばフォーテットやエリシア・クランプトン、OPN、それこそショーン・マッキャンとか《Root Strata》、日本だとレイハラカミとか、学部の先生だった藤本由紀夫とかそういったものから受け取ったアイデアが一つ一つ自分にとってのツールになっている。それをまた次の人が使っていくっていう気がしているので。

――今作がとても深い部分での思考があって作られているということが分かりました。一方で曲自体はこれまでの作品と比べてある種の大衆性すら纏うようになってきているというのはとても興味深く感じました。

K:そうですね。聴きやすいはずです。苦労しないと思います。ただ僕も今言ってきたようなこと全部このアルバムで完成さしたわけじゃない。考えを言ってるだけみたいな感じなので、本当によく分かんないことになってるんですけど。結構勢いでやるみたいな。だから一個一個の作業時間も長くない。多分1時間ぐらいでパパパってできたやつがいっぱいありますね。こういうアルバムが作れたこと、こういう方向に進んだことについては、環境の変化も関係してるとは思います。交流のある音楽家が何人か京都に引っ越してきたり。あとはやっぱり《外》(空間現代が運営する京都のライヴ・ハウス)の存在は本当に大きいですね。実は今も何か出来ないかなって空間現代のメンバーと話したりしているんです。あそこでライヴをやるようになったり、いろんな人と会ったりするようになったことも表現の幅を広げてくれたと思っているので。

<了>



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Kazumichi Komatsu

Emboss Star

LABEL : FLAU
RELEASE DATE : 2020.11.11 (デジタル・リリース)


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