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テンプルズ〜自己の解体、新たな構築を経て辿り着いたありのままの姿

28 June 2017 | By Hiroko Aizawa

 2014年にデビュー・アルバム『サン・ストラクチャーズ』が発表されて以来、まるで60年代にタイムスリップしたかのような音と風貌から、当然のようにサイケデリック・ロック・バンド、ネオ・サイケなどと呼ばれ続けてきた、イギリスはミッドランズ出身の4人組バンド、テンプルズ。確かに彼らはザ・バーズやピンク・フロイドを筆頭とした60年代~70年代の音楽を夢中で追いかけてきた若者たちであり、そうした音楽を丁寧に咀嚼して、自分たちの音を作り上げているバンドではある。が、本当にただの懐古趣味バンドだと世間が認識しているとしたら、それは大きな間違いである。

 事実として『サン・ストラクチャーズ』では、自分たちが愛する過去の時代の音楽への賞賛の意が込められていたが、いつまでも過去を見つめているようなバンドではない。長いツアーを終えた後のソングライティングやレコーディング作業では、前作とは違ったものにしたいという強い意識が芽生え、『サン・ストラクチャーズ』を解体し、自分たちの曲に対する理解を深める作業に重点を置いた。12ヶ月の期間を経て完成した『ヴォルケーノ』は、前作と同様のこれぞテンプルズといった昔懐かしさを思わせるようなメロディは健在でありつつも、予想を裏切るような曲展開があったり、前作にはなかった力強さをも兼ね備えた作品になっており、何にも囚われない、自己表現がなされている。「Strange Or Be Fogotten」で最もシンプルに表現されているように、テンプルズは、過去の音楽を祝福することから、自分たちらしさを祝福するバンドへと変化を遂げた。今回行ったメール・インタヴューでは、ベースのトーマス・エジソン・ワームスレイが回答してくれた。(取材/文:相澤宏子)

Interview with Thomas Edison Warmsley

ーーニュー・アルバム『ヴォルケーノ』が発売されて2ヶ月ほどが経ちました。私はテンプルズが大好きでデビュー前からずっと応援しているのですが、今回のセカンドは、前作と比較すると、より洗練されていて、多様な曲が集まっていると感じました。これまで、サイケデリック・ロック・バンドという括りで表現されることに抵抗があったとも思います。今作は力強い音とファンタジックな雰囲気が融合した、新しい境地に至った作品だと思います。そもそも、サイケ云々と言われてきたことは本意だったのでしょうか? そして今作の制作を終え、リリースされた手応え、感想も教えてください。

トーマス・エジソン・ワームスレイ(以下T):前作とは3年の間が空いているんだけど、ミュージシャンにとっての3年というのは、一生涯みたいに感じられるもので、僕ら自身に多くの成長があったよ。『サン・ストラクチャーズ』にはある目的があって、それは特定の時代に対して本物であろうとしていたんだ。僕らは60年代後半から70年代前半にかけてのソングライティングや実験性において黄金期とも言えるような時代の作品の大ファンだから、そういった音楽を祝福するようなレコードを作りたかったんだ。でも『ヴォルケーノ』では本物であろうとする強い気持ちはそこまでではなくなったんだよね。それより、もっと進化しようとしていたんだ。それはつまり、サイケデリック・ロックから一歩離れることを意味していたと思う。最初は、『サン・ストラクチャーズ』とは正反対のものを作りたかったんだけど、少し演奏しながら少しずつ、作り上げたものを解体していくほうが有用だと分かってきたんだ。結果、より成熟した作品になったし、破壊的な作品でもあると思うんだ。

ーーアートワークも前作のクラシカルなものから随分と変わったように思います。『ヴォルケーノ』というタイトルや、鍵をモチーフとしたアートワークは、どんな意味を持っているのでしょうか? 活火山という意味からはエネルギーの爆発を連想しますが。

T:解釈に委ねている部分が大きいね。僕らは、アルバムのアートワークやタイトルはあまり関連性のないもの、抽象的なものにしたかったんだ。ヴィジュアル面で、鍵のイラストはジョナサン・ザワダ(http://www.zawada.com.au/)がデザインしてくれたものなんだけれど、アルバムの半分ぐらいを聴いてもらったときに、描いてくれたんだ。僕らが曲で伝えようとしていたことに完璧にフィットしていると思ったよ。人間の存在の矛盾、自己発見、アイデンティティの実現。心という火山を通して現れる意味–想像、過程、破壊とか…解釈は無限にあるね! とにかく、それのいずれもが真実なんだ。

ーーなるほど。多様な解釈の余地を残してるんですね。前作のツアー期間が長かったと思いますが、ツアー中はツアーに専念し、その後スタジオに入って1年かけて制作したそうですが、制作にスムーズに取りかかることはできましたか? また、ツアーを長くやったことが、制作にどのようにフィードバックされたと思いますか?

T:そうだね、18ヶ月に渡って最初の作品のツアーを行った後、スタジオに戻ってクリエイティブな思考をスタートさせるのはとても奇妙な移行ではあったよ。知っての通り、ライブで何度も演奏するうちに曲は劇的に変化していったから、次に何をレコーディングしたいのか、どこから始めればいいのか知るためのテスト期間だったとも言えるね。僕らは再びソングライティングを行うことに、ただ、ただ集中したんだ。特に、レコーディングとプロデュースでは、自分たち自身の音楽をより詳細に理解することに時間をかけたよ。『ヴォルケーノ』は曲を書いてレコーディングするのに12ヶ月以上かかったからね。でも、ライブで沢山演奏して来たことは、今回の作品の音にも大きな影響を与えていると思う。サウンドプロダクションに対してのアプローチが過剰すぎるぐらい強調されている部分とかはね。

"それぞれの曲すべてが個々に異なっていて、そういった意味では曲自身にそれぞれ個々の存在があるとも言えるんだ"

ーー確かに展開が複雑な曲が多いと感じました。曲作りのプロセスやメソッドを変えたり、チャレンジした部分もあったのでしょうか?

T:今回の作品では、僕らの多くが曲を書いているんだ。だから自然とより多角的にソングライティングにアプローチできるようになったね。それぞれの曲すべてが個々に異なっていて、そういった意味では曲自身にそれぞれ個々の存在があるとも言えるんだ。「Oh! The Saviour」や「In My Pocket」のような曲は、断続的にキーを転換しているんだ。それから、意識的に短い曲が書きたかったというのもあるね。今作には、5分以上の曲は1曲もないんだ。

ーーアレンジや音作りの面でも、前作より多彩だと思いました。機材を今回もヴィンテージなものを使用しているそうですが、具体的にヴィンテージ機材の魅力はどういうところにあると感じていますか?

T:僕らはいつも古い技術と新しい技術の両方を取り入れている。特定の方法でレコーディングしたり、とある時代の音楽に沿ったやり方でレコーディングすることに対して、忠実になりすぎないように意識しているんだ。アナログとデジタルの両方を包括的に使うことが重要なんだよ。『ヴォルケーノ』では、アコースティックなサウンドや、レコード全体に漂う雰囲気を強調しすぎないようにしている。『サン・ストラクチャーズ』はそこを強調していたんだけどね。テープに録音したり、古いミキサーを使ったりはするけど、その後デジタル的にそれを乱していくのが楽しいんだよ。

ーー今作の1曲目「Certainty」のイントロは、クラブ・ミュージック的なヘヴィーなドラミングから始まったと思えば、昔懐かしさを思わせるようなテンプルズならではのメロディーが続きます。現代的な音楽と、古さを感じさせる音楽の融合というのは、バンドが目指しているものなのでしょうか? その点において、明確なモデルとなっているバンド等はあるのでしょうか? 壮大かつタイトで、浮遊するような音というと、例えばテーム・インパラなどが思いつきますが。

T:そう、古さと新しさの融合は狙ったポイントだよ。特に明確なモデルはいないんだけれども、大人のシンセ・ロックの世界への進出は言ってみれば、セカンド・アルバムのジンクスを解消するためのベストな治療法みたいなものだね。この曲は独りよがりと浅薄についての曲だから、シンセっぽいアプローチが必須だったんだよね。

ーーシンセと言えば、坂本龍一や矢野顕子、YMO、真鍋ちえみといった日本のエレクトロ、ポップ・ミュージックをよく聴いていたそうですね。日本に来て、出会った、みつけた、知った日本人音楽家がいたらおしえてください。また、それら日本のアーティストに感じる特有の個性、グルーヴなどをどういうところに感じますか?

T:ビル・ネルソンを聴いている中で見つけた音楽なんだ。日本のエレクトロニカの音には、すごく機械的で人口装置みたいな何かがあるんだけど、それらはポップ・ミュージックになっていく過程で薄められていってる感じがするね。僕らは常に、違う世界へ連れていってくれるような音楽の大ファンなんだけれども、クリエイティブな事をしている時期は、さらにその気持ちが上回っていくんだ。日本の音楽のメロディーは別世界的であり古典的で、それがエレクトロニック・ミュージックにすごく合っていると思うよ。

ーービル・ネルソンの歌詞はウィットに富んでいる、とおっしゃっているのを読みました。歌詞の面で、彼の作品の影響を受けている部分はありますか?

T:あるね。彼の英国的で皮肉なライティングへのアプローチは、僕らのソングライティングにも活かしていきたいものだったんだ。「Living In My Limousine」、「Surreal Estate」and 「Mr. Magnetism Himself’」といった曲は、喜劇的かつ音楽的に天才と言える作品だよ。

ーーただ、一方でテンプルズのライヴは、想像以上に躍動感があり、曲も音源で聴くよりもフィジカルに聴こえるような気がします。

T:ライブでパフォーマンスをすると、曲の感じ方が大きく変わっていくと思ってるんだ。曲が新しい形を纏って、ライヴ・セッティングで自然と全く違ったものになっていくからね。バンド・パフォーマンスを観ることは奇妙な美しさがあるよ。単にレコードのリサイタルを聴いているのとは違うんだ。それだけだと、常に満足できるとは限らないよね。今年の《フジロック》でお客さんみんなの『ヴォルケーノ』に僕らだけの『ヴォルケーノ』を持って日本に戻るのがすごく楽しみだよ!

ーーところで、回顧的な姿勢ではないにせよ、あなたがたはレコード・ストア・デイで7インチ・シングルを出すなど、レコード盤への愛着を見せていますよね。テンプルズにとって、レコードで音楽を聴くことは重要な意味を持ちますか? 昨今はアナログ・レコードをリリースする若手も増えていますが、一方で《Spotify》などのサブスクリプション・サービスが圧倒的な影響力を持ち始めています。そのバランス、使い分けをあなたはどのように考えていますか?

T:ものすごく重要な事だね。僕らは常に、自分たちの曲を両サイドの面でどのように再生させるかについて考えているんだ。バンドの音楽のハードコピーになることは、大事なことで、これからもそうであり続けて欲しいよ。いつの時代にも必要とされるものだと思ってるよ。《Spotify》はリファレンスのツールとして使うことが多いね。もしくは、パーティーで誰もかける曲がない時とかに使うかな。誰も本当の意味で“レコード・コレクション”としては使ってないんだよ。それって、悩ましいことだよね。

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Text By Hiroko Aizawa


Temples

Volcano

LABEL : Hostess Entertainment
CAT.No : HSE-4012
RELEASE DATE : 2017.03.03

■Hostess Entertainment HP内 作品情報
http://hostess.co.jp/releases/2017/03/HSE-4012.html

■Hostess Entertainment HP内 アーティスト情報
http://hostess.co.jp/artists/temples/

FUJI ROCK FESTIVAL ’17

7.29(Sat) RED MARQUEE出演
http://www.fujirockfestival.com/

■テンプルズ OFFICAL SITE
http://www.templestheband.com/

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