「俯瞰して人生をもっと深く愛そうと思う」
Chaos In The CBDが語る故郷への想いの詰まったデビュー作『A Deeper Life』
ニュージーランド出身で現在はロンドンを拠点に活動している兄のルイス(Louis)と弟のベン(Ben)による世界的ディープ・ハウスの兄弟デュオ、Chaos In The CBD。ニュージーランド出身の彼らは、10年以上の長い活動を経て、デビュー・アルバム『A Deeper Life』をリリースした。“故郷”をテーマに制作されたという本作は、ジャンルを横断しながらも、アルバム1枚を通して一つのストーリーを感じる作品に仕上がっている。
満を持して作り上げた本作にはどのようなメッセージが込められているのだろうか。《Rainbow Disco Club 2025》に出演するべく来日していたChaos In The CBDの2人に、生まれ育ったニュージーランドのこと、移り住んだロンドンについてなど、それぞれのルーツやこれまでの作品についても触れつつ、キャリアを振り返ってもらいながら、たっぷりと語ってもらった。
(インタヴュー・文/Rumi Miyamoto 通訳/青木絵美 写真/Ophelia Jones スタイリング/Georgia Alice Currie)

Interview with Ben and Louis Helliker-Hales(Chaos In The CBD)
──まずはルーツ的なところから教えてください。2人の音楽活動の原点や音楽に夢中になったきっかけは何でしたか?
Louis(以下、L):僕たちは幼い頃からいつも両親が聴く音楽に囲まれて育ってきたんだ。ジェフ・ブラッドリー(Jeff Bradley)やザ・プロディジー、ジョイ・ディヴィジョン……ゴシック・ロックも聴いていたし、いろんな音楽を聴いていたよ。 祖父はジャズがとても好きだったので、小さい頃からジャズもたくさん聴いて育って、それが音楽を聴き始めるきっかけになったんだ。
高校生の頃にベンがジャズ・バンドでドラムを叩き始めて、それから何人かの友達とインディー・バンドを結成して、2〜3年活動した後、2008年頃からエレクトロニック・ミュージックを聴き始めて、DJを始めたんだ。そこから音楽も作りたいなと思うようになったんだよね。
──元々バックグラウンドにジャズがあって、今のダンス・ミュージックにアプローチするスタイルになったんですね。
Ben(以下、B):そうだね、15歳〜16歳ぐらいの時にパソコンを使って音楽を作り始めたんだ。バンドをやってる頃も、リハーサルに自分だけパソコンを持って行って、バンドの音楽もパソコンで作って。音作りがすごく楽しかったんだよ。
今はまたドラムを叩いてみるのもちょっと良いなと思っていて。でも、体を鍛え直さなきゃいけないよね(笑)。ジャズと、ダンス・ミュージックを融合させたのは、意図的なものがあったわけじゃなくて、結構無意識なんだ。昔からジャズのバックグラウンドがあったので、その2つを合わせた時に自然としっくりきたんだよ。
L:僕も過去にギターをやっていて、最近久しぶりにギターを弾いてみたんだ。楽器にも興味が湧いてきてるから、もしかしたらいつか生楽器を使った音楽も作るかもしれないね。
──これからの作品も楽しみです。兄弟2人で音楽制作をしているという点で、お互いの得意分野や役割はありますか?
B:音楽は全て僕が作るけど、DJは一緒にするからルイスの方が目立つかもしれないな(笑)。
L:僕たちが活動を始めたばかりの頃は、たぶん僕のほうがダンス・ミュージックに詳しかったんじゃないかな。けど、ベンがロンドンの《YAM Records》というレコード屋でマネージメントとして働き始めてからは、お互いダンス・ミュージックに詳しくなって、DJとしても深く関わるようになっていったと思う。
ベンは16歳くらいから音楽を作っていたんだ。僕は彼に音楽を作り続けるよう励ましたり、アドバイスをしたりする役割かな。
B:そう、いつもサウンドを導いてくれる。リック・ルービンのようなプロデューサー的存在だよ(笑)。
──ちなみに《YAM Records》ではどんなレコードを取り扱っていたんですか?
B:僕は当時、新譜を担当していたけど中古のバイヤーもしていて、ジャズやソウル、ファンク、ダンス・ミュージックなどが多かったよ。
──ニュージーランド出身というルーツが、現在の音楽性にどのように影響していると感じますか?
B:僕らの音楽は、海や自然が曲作りや音楽性に大きな影響を与えていると思う。
L:そうだね、僕たちの音楽はとてもグローバルだと思う。海や自然に囲まれて、自然を感じて生活しているからこそとても穏やかなサウンドが生まれるんだと思うよ。

──ニュージーランドで特にお気に入りのスポットや音楽に影響した場所はありますか?
B:(『A Deeper Life』のアルバム・ジャケットを指差して)このアートワークは全て友達が作ったものなんだけど、ここは家から車で5分くらいのところにあるビーチなんだ。火山も2つあって、子供の頃は裸足でよく駆け回っていたよ。
L:そこに描いてある木も、僕らが子供の頃に登った木なんだ。今では友達の子供たちが同じことをして遊んでいるんだよね(笑)。
B:そうそう(笑)。僕たちはデボンポート出身なんだけど、今でも帰ると家族で集まって、一緒に海辺に座ってニュージーランドお決まりのフィッシュ&チップスを食べて過ごしたりしているんだ。とても美しい場所なんだよ。
『A Deeper Life』アルバム・ジャケット
──素敵ですね。あなた方は2012年頃からロンドンに拠点を移したと思いますが、その理由はどこにありましたか?
L:僕はDJになることが夢だったんだ。昔からYouTubeでフランスやヨーロッパのDJをみて「僕もやりたい」と思うようになって。ニュージーランドやオークランドにはヨーロッパにあるようなシーンがなかったから、いつも頭の片隅でヨーロッパに行きたいと思っていたんだよ。
B:2010年頃にヨーロッパでツアーがあって、初めてヨーロッパの音楽シーンに触れた時、それまでは大きな夢だと考えていたものが、僕たちにも実現可能だと思えたんだ。
L:ニュージーランドは小さい国で、世界から少し孤立しているように感じていて。その環境でダンス・ミュージックでできることには限界があると感じてもいたし、やっぱりヨーロッパで活躍したいと思ったんだ。
──ロンドンに移動してから影響を受けた人やヴェニュー、音楽などはありますか?
B:ロンドンのベッカムに引っ越してきた時にはすでにシーンが盛り上がっていて。僕らがよく通っていたプール・ホール(Pool Hall、ビリヤード場)で《Rhythm Section》というイヴェントがあって、すぐにそのコミュニティの一員になった。他のヴェニューだと《Corsica Studios》、《XOYO》、《fabric》、《Dance Tunnel》とかかな。
L:引っ越したばかりの頃は、お菓子屋さんに行った子供のようでとても最高でワクワクしたよ!
B:ロンドンってすごく刺激的で、毎晩のようによく遊びに行ってた(笑)。
L:ニュージーランドにはないものがたくさんあったからね(笑)。
──そういったキャリアの中で特に自分たちの成長や変化を実感したタイミングなどはありましたか?
L:《Rhythm Section International》の最初のレコード『Midnight In Peckham』(2015年)をリリースしたときかな。すごく反応が大きかったんだ。
B:たくさんの人に聴いてもらえた。そのおかげで、僕たちはそれまでの他の仕事を辞めて、音楽にフルタイムで集中できるという気づきがあったのも大きかったね。
好きな作品で言うと、日本のレーベル《Mule Musiq》からリリースした作品は、今になって聴いてみると結構洗練されたサウンドで、あまり有名にはならなかったけどとても良いと思っているよ。
L:あと自分たちのレーベル《In Dust We Trust》を立ち上げたのも大きいよね。それによってやりたいことが制限なしに本当に自由にできるようになったから。
──これまでもたくさんのアーティストとコラボレーションしてきたと思います。特に印象深いコラボレーションについて教えてください。
B:Isaac Aesili(ニュージーランド出身)と一緒に仕事をしたことはとても印象に残ってる。彼は僕たちの音楽やそのプロダクションの面ですごく大きな影響を与えてくれたんだ。
L:Nathan Haines(ニュージーランド出身)もすごく好きだし、Josh Milanが今回のアルバムに参加してくれたのは驚きだった。そもそも僕たちのこと知っていたという驚きと、あんな偉大な人が僕たちとやってくれるなんて!という驚きがあって。彼と一緒に取り組んだ新曲は、僕らの音楽ととてもマッチしていると思うよ。
B:同郷のニュージーランドのアーティストと一緒に仕事をするのは、僕らにとって重要なことの一つなんだよ。
──最新アルバムでもたくさんのアーティストとコラボしていますよね。コラボ相手はどのように決めているんですか?
B:自分がファンで、大好きな人たちと一緒に仕事をすること。これが1番大事なことだと思う。
L:そうだね。あとは僕たちの音楽をより良いものに高めてくれる人たちが大事かな。自分のできること(能力)って限られてるから。僕たちの周りには一緒にコラボレーションしたいと言ってくれる素晴らしい人たちがいるんだ。

──最新アルバムは、“故郷”にインスピレーションを受けて制作されたそうですが、どんな作品に仕上がったと感じてますか?
B:最近ニュージーランドに帰った時、オークランドからこのアルバムで描いている様々な場所に車で行って改めて聴いたんだけど、すごくフィーリングにフィットしたんだ。良い作品になったと思うよ。
L:ニュージーランドのレイドバックした空気、落ち着いたチルなエッセンスをうまく捉えていると思う。
B:それに僕たちがニュージーランドで子供の頃に聴いた音楽とも似ていて、そこも良いと思うポイントだね。今回のアルバムは、完全なクラブ向けに作ろうとはしてなくて、もっと内省的な、1人でも静かに聴けるような音楽にもしたかったし、クラブでも聴けるようなものにするつもりだったんだ。
──アルバム・タイトル『A Deeper Life』にはどのような意味が込められているのでしょうか?
B:実は僕が育ったニュージーランドの近くに教会があって、その教会の名前が「ディーパー・ライフ・チャーチ」、コンセプトもニュージーランドで昔持っていた「より深い人生」っていう考え方だったんだよね。このアルバムで使っているフォントもほぼ教会と同じなんだけど、子供の頃からあれを見て、なんかいいなと思っていたんだ。
L:アルバム・タイトルを考えた時に、それが当てはまると思ったんだよね。僕たちは実際に「ディープ・ライフ」を実践していて。今この瞬間を大切に生きて、小さなことを楽しんでいる。本当に大切なメッセージなんだ。年を重ねるにつれて、時間ってあっという間に過ぎていくことを実感する。些細なことに悩んだりもするけど、俯瞰して人生をもっと深く愛そうと思う。それが「ディープ・ライフ」。タイトルにもそう言う意味をこめているよ。
──アルバムの制作や構想はいつ頃から始めましたか?
B:たぶんコロナが始まる直前の2020年頃。当時はツアーができなくなって、どこにも行けない時期だったんだけど、久しぶりにツアーをしない生活になってから時間ができて、ずっと自分が作りたかった新しい音楽を純粋に追求することができたんだ。アルバム制作はその頃から始めたんだけど、コロナが明けてからまたツアーが再開して、全部完成させるのに少なくとも4年はかかったよ。
L:でもその時間があったからこそ、このアルバムは多様性があって、ジャンルもいろいろなものに出来上がったと思う。
──ジャンルもクロスオーヴァーしていますよね。それは“故郷”というテーマに沿って、ご自身たちの過去を思い返して制作していた影響もあるのでしょうか?
B:いや、1人でいる時間があったからだと思うんだ。毎日8時間から10時間くらい、1人でスタジオにこもっていたよ。
コロナ禍で自分の将来がどうなるかわからない中、子供時代のことを考え始めたんだ。プロジェクトの大部分を終えるまでは、僕たちの子供時代やニュージーランドの出身地など、たくさんのテーマがごく自然に組み合わさっていたんだよ。
──音作りの面で特にこだわったポイントはありますか?
B:全体的なコンセプトは、最初から最後まで通しで聴きやすい作品にしたいということだった。僕らはそういう音楽を作りたかったんだと思う。
L:旅のような感覚のリスニング体験ができるものを作りたかったんだ。最近は音楽の聴き方もストリーミングが大半で、物理的に音楽を買うことをしないで、音楽にかける時間が短くなってきている傾向があると思う。だからこそ、僕たちはアルバムで、みんなが最後まで聴き続けられるような音楽を作りたかった。それが僕らの願いでもあるかな。
B:それから、僕たちがDJをする時は、6〜8時間のロングセットのプレイをよくするけど、そのストーリー性があるスタイルと似たような流れを表現した作品になったと思う。
L:とにかくたくさんのダンス・ミュージックを詰め込んだアルバムを作ることもできたと思うけど、そうするとまとまりがなくなってしまう。今回のような作品の方が、より自然な流れのようなまとまりがあって、素敵だなって。とても満足してるよ。
──それらはアルバム全体を通して伝えたいメッセージと言ってもいいでしょうか?
B:そうだね。スローダウンすること、もう少しゆっくり時間をかけていこうよって伝えたい。
L:僕たちはこの音楽をすごく長い時間をかけて作ったから、聴いてくれる人にもゆっくりじっくり時間をかけて聴いてもらいたいな。今の人たちは皆忙しいしせかせかしてるけど、もうちょっとゆっくりゆっくりいこうよ、みたいなことを伝えたいと思ってるよ。

──制作においてここ数年で変化したことは何かありますか?
B:DJを始めるまでは自分のスタジオを持つのが夢で。前はすごくチープな機材やDELLの普通のパソコンを使って、音楽制作していたんだけど、新しい自分のスタジオを持てることになってから、新しい機材をたくさん買ったり、いろんな投資をしたんだ。
古いレコードを聴いていると何か特別なものを感じるから、昔のレコードみたいな音にしたいって思っていて、より良いサウンドにするために自分の技術を高めなければならなかった。それはきっと使用されている機材の多くが高品質だったからだと思う。
L:音楽的に新しいことといえば、ヴォーカルと一緒に仕事をすることが増えたことくらいかな。
B:そうだね、ヴォーカルのミキシングだって、今までやったことがなかったから今回が初めてなんだ。だから友人にちょっと助けてもらったよ。
L:とにかくより良い音を求めていたんだ。でもたぶん、ベンはもっと細かいところまでこだわって、本当に頭がおかしくなるまでやり続けたりするって言ってたけどね(笑)。
B:気が狂いそうになるほどにね(笑)。
──そうして追い求めている理想のサウンドをあえて言葉にするならどのようなものでしょうか?
L:90年代のディープ・ハウス・ミュージック。僕らに感動を与えてくれたアーティストたちだよ。
B:Kerri Chandler、Ron Trent、Joe Claussell、Larry Heard、David Morales……そういったレジェンドたちだね。
L:プロデュースだけでなく、音楽性も魅力だよね。 彼らのシグネチャー・サウンドを聴けば、それが彼らによって作られたものだとわかるところもすごい。もし、僕たちもシグネチャー・サウンドと呼べるような自分たちらしいサウンドを手に入れることができたら、目指していたことが達成できたことになるし、徐々にそれができるようになってきていると感じているよ。
──ちなみに最近インスピレーションを受けた音楽やアーティストはいますか?
L:さっき挙げたハウスのレジェンドはもちろんだけど、それ以外だとDJ Sprinkles (a.k.a. Terre Thaemlitz)かな。
B:あとは、子供の頃にプレイステーションのゲームをやっていたんだけど(古い車のゲーム)、ロード中とかに流れるゲーム・ミュージックが寺田創一さんが作ったジャズで、日本的というかそういうのが好きだよ。
──ゲームにも良い音楽はたくさん使われていますよね。
L:僕は『ドンキーコング』のオリジナル・サウンド・トラックが大好きなんだ。
B:車のゲームも好きだったよ。あ、一番好きなのは『グランド・セフト・オート』かな。
L:実はニュージーランドと日本では車のカルチャーもすごく似ていると思うんだ。ニュージーランドは車をたくさん日本から輸入しているからね。それに穏やかな自然があったり、日本とニュージーランドには共通点たくさんあって、ニュージーランドと近しいから僕たちは日本が大好きなんだと思う。
B:そうだね、とても居心地がいいし、特に東京から少し離れると自然や風景がとてもよく似ているよ。
L:初めて《Rainbow Disco Club》で伊豆に行った時にここってもうニュージーランドのウェリントンそっくりじゃないかとすごくびっくりしたんだ(笑)。
──そうだったんですね。では最後にこの後アルバムを引っ提げたツアーがあるとしたら、どのような内容になりそうか教えてください。
L:僕たちはいつもツアーをしていて、残念ながらこの後ツアーの予定はないんだけど、今年は特別なショーがいくつかあるんだ。ニューヨークのノックダウン・センターでは、6時間ぶっ通しの昼間のセットをやる予定。マンチェスターでも同じことをやるし、その後、ニュージーランドやオーストラリアにも行くんだ。
B:DJをする時、必ずしも決まった音楽をやるとは限らないんだ。僕たちはパーティーが好きだから、ナイトクラブで聴きたいような音楽をやることが多いけど、会場に到着して、パワーをもらって、ヴァイブをキャッチして、そこからやっていく。
L:そうだね。だからこそお客さんがびっくりするようなプレイをすることもあるかもしれない。
<了>
Text By Rumi Miyamoto
Photo By Ophelia Jones
Interpretation By Emi Aoki

Chaos In The CBD
『A Deeper Life』
LABEL : In Dust We Trust
RELEASE DATE : 2025.05.09
ご購入、配信リンクは以下から
https://chaosinthecbd.lnk.to/ADeeperLife