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BEST 8 TRACKS OF THE MONTH – July, 2020

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Angel Olsen – 「Whole New Mess」

昨年のアルバム『All Mirrors』ではオーケストラをバックに荘厳なサウンドでリスナーを圧倒したエンジェル・オルセン。熱烈なファン層の存在を知りながらあえて突き放すかのようだったその『All Mirrors』と比べ、先日発表されたこの曲は生々しいギター1本の弾き語りの1曲となっている。片手で数えられる程のコードで構成されたシンプルな楽曲だが、聴き心地の悪い和音をもザクザクと恐れなく鳴らし、媚びはせずとも自然体な歌声をじっくりと聴かせる……という肝の座りっぷりには、『All Mirrors』を経てこその格調の高さがある。後輩世代の女性SSWたちからもロールモデルとして支持される彼女だが、このギターと声だけで説得させる気迫と包容力に「やっぱりこの人しかいないんだよな」と思わされてしまったのだった。(井草七海)

Ethan P. Flynn – 「Everybody’s Dying To Meet You」

アルバムもEPも未だリリースしていないが、すでに『B-Sides & Rarities: Vol. 1(B面と稀少曲集)』という作品を発表しているミステリアスな若きSSW。彼がついに《ヤング・タークス》からデビュー。ダニエル・ジョンストンを思わせる独特な揺らぎのある声を何重にもオーバー・ダビングし、シンセサイザーはじめ幾重にも重ねられたサウンドのレイヤーによって、オーケストラとも思える壮大なサウンドを作り上げている。SSWでありながらサウンド全体のプロデューサーもこなしてしまう早熟な才能に、FKAツイッグスやデヴィッド・バーンが早々に気付き、自らの作品に招いていたことにも納得がいく。(加藤孔紀)

Joan Jett – 「Jeepster」

9/4発売のT・レックス・トリビュート・アルバムは、コロナ感染による合併症で亡くなったハル・ウィルナー最後(?)のプロデュース・ワークとして期待されているが、既に公開されている先行曲の中ではこの曲がとりわけハルらしさが出たプロダクションだ。アレンジ自体はオリジナルに忠実。ジョーン・ジェットのハスキーなロック・ヴォーカルも予想通り。だが、バックがすごい。マーク・リーボウ、ジム・ホワイト、そしてトーマス・バートレット。本田ゆかのソロでも共演したマークとトーマスはNY界隈では師弟のような関係だが、その二人をロック姉御のジョーンに引き合わせるそのセンスが素晴らしい。これでこそプロデューサーの粋な仕事。(岡村詩野)

Logic – 「Perfect」

Lil Pump然り、ラッパーの引退宣言ほど信用ならんものもないと思うことはしばしばあれど、この誠実でポジティブなラッパーに限って言えば話は別で、おそらく「6作目のスタジオ・アルバム『No Pressure』にて正式に引退する」という旨のポストが撤回されることはないだろう。そんな引退作の中で最も短く、セルフボーストに満ちたこの「Perfect」でも、アウトロでは「Nujabes、MF Doom、RZA、Kanye Westを彼はプロダクションの影響元に挙げています」と音声案内チックに読み上げてられていて、正直にリスペクトを示しているのもロジックらしい。ラップというアートフォームを愛し、楽しみ、苦しみながらもその歴史の一部となった彼に最大級の賛辞を。(高久大輝)

SKULLCRUSHER – 「Trace」

LA拠点のシンガーソングライター、ヘレン・バレンタインによるプロジェクトが「スカルクラッシャー」である。本曲は《シークレットリー・カナディアン》よりリリースしたデビューEPに収録。粗っぽいアコースティック・ギターに先導され、オーバーダブされた牧歌的な歌声がシンセサイザーやピアノ、バンジョーが絡み合うサウンドに乗って響き渡る。

仕事を離れ、突如自由の身になった彼女は、小さな部屋の中で人間の美しさと弱さをテーマとしてEPを作り上げた。レーベル・メイトたるフェイ・ウェブスターが鳴らすアンビエント/フォーク・サウンドと、拠点を同じくするフィービー・ブリジャーズのような内省の感覚とが去来する佳曲。(尾野泰幸)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Father John Misty – 「Anthem」

リンク・レイやキャット・スティーヴンスのカヴァーも収録したEPの表題曲は、レナード・コーエンの92年の作品から。この混迷の日々の録音故か、原曲では希望のように響いたパーカッションやクワイアは鳴りを潜め、楔のように淡々と打ち込まれるリムショットも相まって、ジョシュ・ティルマンの歌声はどこか隔絶された哀しみを匂わせる。だが、ストリングスやピアノで徐々に厚みを増していく音像は、天界のような優しさで僕らを包みこみ、彼は一言一言噛みしめるように歌う。さあ、不安や哀しみも受け入れながら自らを讃える鐘を鳴らそう。偉大な先達の精神はジョシュの気高い歌声に引き継がれ、シンガーの矜持は今の時代にも鳴り響くのだ。(阿部仁知)

Whitney – 「Hammond Song」

8月14日に発売を予定しているカヴァー・アルバム『Candid』の、3曲入り先行シングルの表題曲。ニュージャージー出身の三姉妹グループ・The Rochesが79年にリリースした代表曲のカヴァーである。基本的にはいつもの彼ららしい厚みのある編成とアプローチだが、上モノを抑え、より歌が引き立つ音像となっているところに原曲へのリスペクトを感じる。

原曲は姉妹のコーラスとロバート・フリップのギターソロのどこか不協和なアンサンブルも魅力だが、このカヴァーにはそういった要素はない。むしろオーセンティックなアメリカーナと地続きの一曲として解釈しているところに、ホイットニーなりの視点が浮き出ているのがいい。(吉田紗柚季)

東郷清丸 – 「七七」

ウィルスと長雨のせいで外出もままならなかった今年の7月。憂鬱なニュースの合間に子猫の寝顔を見ながらこの曲を聴くことで、精神の平衡をなんとか保っていた。河合宏知、谷口雄、あだち麗三郎、小林うてな、葛西敏彦という気鋭のメンバーがそれぞれの存在感を濃厚に発揮しながら作りあげられたスピリチュアルジャズを思わせるサウンドには、四十九日を意味するタイトルの通り、現世と冥土の境界線を滲ませていくような幽玄さがある。特に愛する者を静かに見送ろうとする東郷清丸の抑制的な歌声と、その裏で飲み込んだ巨大な悲しみを吐き出すようなあだち麗三郎のサックスが交錯するドラマチックな展開には、何度聴いても強く胸を打たれてしまう。(ドリーミー刑事)


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Text By Hitoshi AbeSayuki YoshidaDreamy DekaShino OkamuraNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono

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