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BEST 8 TRACKS OF THE MONTH – January, 2021

Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Big Animal Theory – 「Water Bloom」

英国在住の日本人ということ以外はほとんど情報が明かされていないプロデューサーによる新作『However Well Known, Always Anonymous』が最高だ。これまでの作品と比べ全体的に暗くなったといえばそうなのだが、鮮やかな視点移動の表現力と時折グッと心を掴む親密なメロディによって、荒涼とした景色の中で息を潜めていた生命が突然踊りだすようなダイナミックさがある。とりわけ本楽曲の色彩豊かな水の華が咲く瞬間を見事にディープフォーカスしてみせたようなサウンドには身震いしてしまう。アルバム全体の収録時間も11曲で33分と無駄なくまとめられているので、ぜひ気軽に丸っと堪能して欲しい。(高久大輝)

Cosha ft. Shygirl – 「Lapdance From Asia」

暗闇でわずかに光が明滅するクラブのフロアを思い浮かべた。この楽曲は、ブリスベンにあるストリップ・クラブでのCosha自身の体験から着想を得て、ムラマサやザック・セコフと共にLAで制作されたという。今、多くの人が求めているであろう身体性を伴った音楽体験や空間への欲求を満たす強いビートを鳴らしながら、一方でBonzai改めCoshaことカシア・オライリーの囁くような歌声と客演のシャイガールのフロウが、私たちの耳元を撫でるように官能的でもある。それに輪をかけるように、おそらくはムラマサの尽力だろう、ジャズ・ギターを思わせるフレーズとハーモニクスが、このビート・ミュージックと巧みに共存し美しく響いている。(加藤孔紀)

FKA twigs ft. Headie One & Fred again.. – 「Don’t Judge Me」

昨年リリースのへディー・ワンとフレッド・アゲインによるUKドリルの真髄と可能性を見せつけたミックステープ『GANG』に収録されたインタールード「Judge Me feat. FKA twigs」の完成版が届けられた。響き渡るFKAツイッグスによる高音のヴォーカルは胸を締め付けるほど美しく、へディー・ワンのヴァースではビートレスな導入から冷静に幕を開け、黒人としてイギリスで生きる中で経験してきた、差別やそれによって誘発された黒人同士の争いに対する怒りや抱えた葛藤が語られる。徐々に熱を帯びるその言葉に滲むのは、歴史を前進させるという力強い意思だ。ここで感じる痛みを、私は忘れたくないと思う。(高久大輝)

Gia Margaret – 「Solid Heart」

病によって損なわれた歌声を取り戻していく過程を、眩い光のようなアンビエント・サウンドをまとわせドキュメンタルに伝えた快作『Mia Gargaret』(2020年)によって一気に才能を広げたシカゴのシンガーソングライター、ジア・マーガレットが元日にリリースした一曲。伸びやかにひろがり、空間を充たすスチール・ギターと、オルガンの音色が楽曲に柔らかな風合いを与え、前作でも展開した浮遊感のあるサウンドを生み出している。しかし何よりも素晴らしいのは歌い終わりにかけて擦れるように消えていく、儚さを湛えた彼女の歌声。それが、微睡みのなかで薄れていく意識の中をただようような本曲の質感を生み出すキーである。(尾野泰幸)

Pino Palladino + Blake Mills + Sam Gendel – 「Just Wrong」

イギリス出身ながらディアンジェロやJ・ディラなどにも関わるベーシストのピノ・パラディーノと、そのピノも参加した自身のアルバム『Mutable Set』のみならず、ボブ・ディラン、フィービー・ブリジャーズまで去年は多数の作品に参加したブレイク・ミルズの共演作が3/12にリリースされる。この曲はそこからの第一弾曲。両者が交わるところを柔軟に広げたようなアブストラクトなジャズながら、室内楽的なアレンジやサウンドメイクはビーチ・ボーイズ『Pet Sounds』を思わせたりも。サム・ゲンデル、クリス・デイヴらも参加して、さながらLA音楽の歴史と現在の層の厚みを伝える。アルバムは歴史的1枚になりそう。(岡村詩野)

serpentwithfeet – 「Fellowship」

トライバルな(という表現にも是非があるだろうが……)ビートが耳に飛び込んできたことに驚いた。serpentwithfeetというと、もっと修験者的でストイックなR&B〜ソウル・シンガーというイメージが強かったが、新曲は予想外にダンサブル。そして、悦びに満ちている。タイトルやMVからも分かる通り、本曲のテーマはブラックでゲイである彼自身の、愛に対する認識の変化だろう。ただ、<不安に思うよりも、愛を数えることに時間を割くようになった>と歌うその艶やかな声には、クイアであってもそうでなくても、自分を取り囲む友人や恋人との時間の尊さが身に染みて感じさせられるのであった。サンファのプロデュースの相性も抜群で、ホーリーな感触のままサウンドが厚みを増していく楽曲後半は特に官能的。アルバムへの期待も大だ。(井草七海)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し注意の楽曲をピックアップ!

Curtis Waters – 「Doodoodoo」

ネパールで生まれ、ドイツ、カナダと渡り、現在ノースカロライナを拠点に活動するAbhinav Bastakotiが自身を戯画化したように作り出したのがCurtis Watersだ。「Shoe Laces」や「Better」など彼の楽曲は、ポップな曲調でMVも絵本の世界へ入り込んだようだが、憂鬱を歌ったそれは不思議の国のアリス的なホラーと紙一重の世界を表現する皮肉屋だった。しかし、本作は一転してサウンドから歌詞まで甘い内容になっている。特に”Doodoodoo”の三段活用と呼ばせてもらうが、サビのリフレインは無条件に気分を上げる。”Doodoodoo”の中に伏された言葉を邪推しなければの話だが。(杉山慧)

PARTYNEXTDOOR – 「LET’S GET MARRIED」

ドレイク率いる《OVO SOUND》の看板アーティスト、パーティネクストドアのEP『COLOURS』は幾層にも重ねられたサウンドとボーカルが多様な色を織り成す作品だ。トラヴィス・スコットを客演に迎えた「JUS KNOW」や四つ打ちの重厚なキックと16分のハイハットが静かに響く「LOW BATTERY」など聴きどころ満載。チーム・ドレイクの盟友G.Ryと自らがソングライティングとプロデュースに全編で携わり「PEACE OF MIND」ではスイスのヒットメーカーOZも参加している。パートナーへの熱烈な偏愛を歌う「LET’S GET MARRIED」のアブストラクトなエレクトロサウンドとアグレッシヴなボーカルが特にお気に入り。(望月智久)

 

【BEST TRACKS OF THE MONTH】
アーカイヴ記事

http://turntokyo.com/artists/best-tracks-of-the-month/


Text By Tomohisa MochizukiShino OkamuraKei SugiyamaNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono

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