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Editor’s Choices
まずはTURN編集部が合議でピックアップした楽曲をお届け!

Animal Collective – 「Prester John」

2000年代に最初の全盛期を迎えたブルックリン勢の正念場は続いているが、そろそろこのバンドは次のピークを迎えるのではないか。ソランジュやティーブスの作品に参加してきたパンダ・ベアらメンバー個別の活躍に触れるにつけそんな予感が頭をよぎっていたが、この新曲を聴いてそれが確信に変わっている。パンダ・ベアとエイヴィ・テアがそれぞれ作った異なる2曲を融合したそうだが、確かにパンダ・ベアらしいダブの要素が前半を牽引し、エイヴィのアシッド・フォーク~サイケ指向が後半で存在感を発揮している格好だ。デビュー時を思わせるアブストラクトな風合いを、見事な構成力で昇華させた約6分半。来年2月に届く6年ぶりのスタジオ・アルバム『Time Skiffs』が猛烈に楽しみ。(岡村詩野)

Gracie Abrams – 「Rockland」

リズミカルなギターのアルペジオにゆったりとした歌がのる。このやや性急とも思えるギターは「あなたが毎晩、夢に出てくる」という歌詞の、過去の恋人を今だに追いかけてしまう前のめりな感情を伝えることに一役かっている。そして、徐々に立ち現れるプログラミングされたビートが「あなたの鼓動を全て壊した」という歌詞のバッキングで聞こえてくると、その時の鼓動がどんなだったかを想像させる。アーロン・デスナーと共同制作されたこの曲には、昨年のテイラー・スウィフトの2作を手がけた時のような彼の貢献を感じる部分もあるが何より、新人でLA出身のSSWであるグレイシー・エイブラムスの詩と歌が、彼の音とビートの上で必然性を持って響くことに驚きがある。(加藤孔紀)

HEAVEN – 「Nebula (HEAVEN, aryy, Lil Soft Tennis, RY0N4)」

関西発のコレクティブ、HEAVEN名義での初作品となるミックステープ『AiR』には、彼らのオルタナ・ロックやヒップホップ、ベッドルーム・ポップなどを分け隔てなく通過した繊細でやわらかな感性がフレッシュにパッケージされた。今回選んだのは、その中で最もメランコリックな印象を残す1曲で、aryyとLil Soft Tennisによる歌のメロディーやリズムの心地よさもさることながら、特に気に入ったのはRY0N4のヴァース。欲望と虚しさが入り混じった感覚を端的に表現している「俺らはマジなんかが欲しい / I’m going crazy もうどうでもいい」というラインは、気怠そうな発声も相まって儚げに響く。(高久大輝)

jennylee – 「Newtopia」

もっぱら客演やソロでマイペースに活動するウォーペイントのメンバーだが、このところ立て続けにシングルをリリースし、ひとり本格再始動の兆しが見られるのが、ベーシストであるジェニー・リー・リンドバーグ。しかし変貌は驚いた。6年前のソロ・アルバムというとダークなエクスペリメンタル作品だったのだが、打って変わって、この曲はカラリと乾いたアコースティック・ギターに控えめなドラムとベースが並走する、オーセンティックで風通しの良いフォーク・ナンバー。キャロル・キングも頭をかすめるハスキーな歌声も表現の深みが増しており、シンガーとしての自信が彼女を歌モノに引き寄せたのだろうか。と言いつつつ、次なるシングルは挑発的なポスト・パンク・チューンのようで、そちらもまた期待。(井草七海)

Tim Heidecker – 「Dark Days」

《Jagjaguwar》や《SpaceBomb》といった高い信頼あるインディー・レーベルからリリースを継続しているティム・ハイデッガーがボニー・ライト・ホースマン、フルーツ・バッツのエリック・D・ジョンソンとラナ・デル・レイやワイズ・ブラッドの作品にも参加するドリュー・エリクソンとの共同プロデュースのもとで制作した最新曲。カントリー・フレイバーをまぶし、ザクザクとしたシンプルなアコースティック・ギターが印象的な温かみのあるサウンドが耳へとスッと流れ込んでくる。ティムがパンデミックに直面する中で本曲は制作されたというが、“希望というのは私が絶対に忘れたくないことだ”というリリックはいま改めて重く響く。(尾野泰幸)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣がそれぞれの専門分野から聴き逃し厳禁の楽曲をピックアップ!

Galya Bisengaliva – 「Aralkum (Coby Sey Remix)」

フランク・オーシャンやレディオヘッドの近作にも参加するヴァイオリン奏者、ガリャ・ビセンガリエヴァの昨年のアルバムの表題曲を、ミカ・レヴィと共にティルザ作品を支える鬼才=コービー・セイが再構築。原曲はガリャの故郷カザフスタンはアラル海の水位低下と砂漠化の歴史に思いを馳せる瞑想的なドローンが印象的だったが、コービーは加えて繊細なビート・プロダクションとダブ処理を導入。楽曲の時間軸に沿って生じる音の濃淡の変化やリズムの揺らぎは、自然音を取り入れたアンビエント〜エレクトロニカ作品を発表している彼ならでは。と同時にダンス的な律動が感じられるのも奥深くて何度も聴き返してしまう。(佐藤優太)

mazie – 「Spinnin」

ボルチモア出身のSSWであるmazieの新曲。主にプロデューサーであるElie Jay Rizkと楽曲を制作し、ファンシーかつシュールな日常の風刺が哀愁を誘う楽曲で話題を集めてきた。周囲とのギャップをコミカルに吐露する歌詞、まるで地球の自転を早めるかようにテンポを上げる所など、本作もこれまでのそうした作風の延長線上にある。特にMVの、自身の頭につけた360度カメラの映像は面白い。これは“それでも世界は回る“という大きなテーマと、個人が理解できるのは身の回りの小さな社会であることを同時に示すかのよう。そして、彼女の他の楽曲とも共通する“ちっぽけな自分“視点で語られる世界観をより補強する意味でも見事な演出だ。(杉山慧)

Isolation Berlin – 「Geheimnis」

自前の新スタジオで制作されたドイツのインディー・ロック・バンド、アイソレーション・ベルリンの3作目『Geheimnis』。表題曲の本曲は従来のギターロック風味は抑え目だが、よりソング・オリエンテッドなプロダクションがニューウェイヴ〜ポストパンク特有の倦怠感や妖しさを一層際立たせる仕上がりだ。ドイツ語固有の力強い響きも相まって、声色や言葉の流れから気品を漂わせるトビアス・バンボーシュケの詩情溢れる歌唱は、ボブ・ディランやモリッシー、ピート・ドハーティなど名だたる詩人を思わせる、言語を超えた風格を感じさせるではないか。執拗なまでに繰り返す「Geheimnis」(秘密、神秘)が耳の奥に残って離れない。(阿部仁知)

Jeff Tweedy – 「C’mon America」

《Sub Pop》の企画からリリースされた新曲 は、これまでの作風を引き継ぐ、オブスキュアなフォーク・サウンドがベース。SF的なリリックがテーマだが、無重力空間に放たれた対象は、タイトルのアメリカという国をそのまま意図しているのか。“世界は君に背を向けている”という皮肉的な歌詞はあるものの、個人的には“I offer you my gravity”という一節のとおり、アメリカの未来に希望を委ねるような解釈をしたくなった。 ニール・ヤングのカヴァー「The Old Country Waltz」も本作に続けてリリースし、コロナ禍でも精力的に様々な場所に姿を現し、音楽を発信し続けているジェフ。アメリカの良心というと安っぽいが、今この瞬間の世界を切り取り、自身の音楽と言動を同時進行で一致させようとする姿は、まさに、ニール・ヤングのように時代に向き合い続けてきた先達とシンクロする。(キドウシンペイ)

Joy Crookes – 「Trouble」

バングラデシュ人の母とアイルランド人の父を持ち、南ロンドンのエレファント&キャッスルで育った女性シンガーによる最新曲。全英5位を記録したデビュー・アルバム『Skin』からのカットとなる。UKのR&Bシンガーはアフリカやカリブ海にルーツを持っている者が多いが、このジョイはUKエイジアンであり、エイミー・ワインハウスにも通じるヴィンテージ感のあるサウンドの中に南アジアを感じさせるリズムや抑揚を取り込んでいるのが特徴であり、彼女の魅力となっている。父からニック・ケイヴやキング・タビー、バングラデシュの音楽を伝えられた音楽背景に加えて、ザ・ワナダイズの「You And Me Song」もカヴァーするセンスも持ち合わせているのがおもしろい。(油納将志)

Maika Loubté – 「Lucid Dreaming」

夢で出会った音楽と現実の出来事を元にした楽曲をひとつの物語にまとめたアルバム、『 Lucid Dreaming』からのタイトル曲。隔てられている(ようにみえる)夢と現実が共存する明晰夢に思いを馳せた本楽曲は、度重なる生活環境の変化で何度も境界を越える必要があったバックグラウンドと共鳴しており、それは歌詞を弟Keisei Loubtéと共作したことからも伺える。コマ送りの回想シーンを彷彿とさせるトレモロのかかった電子音と、副旋律を奏でるエレピを中心としたミニマルな構成は、心地よくどこかノスタルジック。何にも縛られずに音楽を作るのが役割だと語る彼女の意思が静かに垣間見える。(佐藤遥)

Obongjayar – 「Message in a Hammer」

ハンマーに込められたメッセージ。それは当然、穏やかなものではない。今年だけでもリトル・シムズ、パ・サリューなどの作品に客演するオボンジャイア。本曲はその初公式アルバムからの先行曲。いま英国ではセクシーなアフロビーツが流行だが、ナイジェリア出身で現在はイギリスを拠点に活動するこの若者は、アフリカ音楽の違う側面──抵抗性を継承している。BPM150の性急なキック&ベースに駆り立てられた醒めた怒りが、大統領も政府も議員も弁務官も大使も会計士も大臣も裁判官も軍も警察も歳入庁も監査官も将軍も全て盗賊だと看破する。「俺たちは笑って受け入れたりはしない」というコーラスの重みにも高揚する鮮烈なアジテーション。(佐藤優太)

Phil Cook – 「Queen Of Branches」

ジャスティン・ヴァーノンが在籍したデヤーモンド・エジソンそしてメガファンのメンバーであり、カニエ・ウェストともセッションするマルチ・インストゥルメンタリストの新作は、意表を突くソロ・ピアノ集。ゴスペル文化の啓発に努める彼は、古い教会を改築したコミュニティ・スペースで100年物のスタインウェイを用い即興演奏を録音したという。彼方に鳥のさえずりが聞こえる厳かな空気と敬虔な音の連なりは、キース・ジャレットを思わせる。Netflix『真夜中のミサ』で教会という場の持つ役割について深く思い巡らしていたこともあり、瞑想的な響きがなおさら染みわたった。サム・ゲンデルもリリースする《Psychic Hotline》より。(駒井憲嗣)

RINI – 「Mimosa」

カラッとしたカリフォルニアのプールのそばでミモザを啜りながら、君が枕に残していった香りを思い出している—シチュエーションと表現がキザったらしければ、メロディラインも歌い方もイントロのギターもキザったらしいのだが、全然アリだなと感じてしまう一曲。80年代を思わせるキラキラしたシンセサイザーのベタベタな使い方ながら、〈OVO Sound〉っぽさのある、都会の夜を連想させる音像のまとめ方。メルボルン出身のシンガーソングライター=RINIの待望のアルバム『Constellations』収録。同郷のOlivia Escuyosもライティングで参加している。(奧田翔)

Sangre Nueva – 「Goteo」

ディープ・レゲトンの探究者であるDJパイソン、バッド・ギャルなどとの共作も記憶に新しいフロレンティーノ、そして、ダンスホールにインド音楽やアンビエントの要素を交錯させるケルマン・デュラン。新世代のレゲトン・シーンを担うこれらの3人からなるサングレ・ヌエヴァのデビューEPが素晴らしい。中でも鮮烈なのが「Goteo」で、レゲトンのリディムであるデンボウにマイアミ・ベース譲りの重低音ベースとラテン・パーカッションを加えただけのシンプルで空間性の高いサウンドは、まるでマーク・フェルがレゲトンに取り組んだかのよう。このシンプルさこそが、今後のレゲトンの一つの指標になるのではないだろうか。(坂本哲哉)

Zack Fox – 「fafo」

「いぇー!」あー、本当にくだらない。冒頭から飛び出す、シングル版ジャケのうす汚い笑顔のように露悪的な、やけに録音のデカい掛け声。コメディアンでもあるザック・フォックスは、映画やテレビシリーズ、果てはポルノ動画メーカーまで広くわたる引用と暗喩で、パンチラインを量産する。自身を映画『スーパーバッド』の登場人物になぞらえてツッパるラインにはクスッとなる一方で、「バカ話も弾丸2発で止められちまう」と文末を表す「:」記号を弾痕に喩えるウィットには思わず感嘆。BNYXによる断片的なサンプルとどこか哀しげなピアノが印象的なビートと、フォックスのコミカルなフロウの相性も最高、何度も再生ボタンを押してしまう。(髙橋翔哉)

yeule – 「Don’t Be So Hard On Your Own Beauty」

シンガポール出身でロンドン拠点のyeuleは、まるで息苦しい現実を仮想空間から浸食するような仄暗いエレクトロニック・ポップを奏でてきた。来年発売のセカンド・アルバム『Glitch Princess』からの先行曲では一転、アコースティック・ギターを手に取っている。これまでビッグ・シーフやグルーパーらの楽曲をカバーしている影響が、今回ギターを弾くということに表れたのかもしれない。重力から解き放たれたようなダンスが印象的なMVでは、逆再生の手法を使っているが、リップシンクのために歌詞を反転させ自力で逆歌唱している(なんて泥臭い試み!)。全身でヴァーチャルとフィジカルの境界を探求するyeuleが開拓した新境地だ。新作の全貌が楽しみでならない。(前田理子)

柴田聡子 – 「雑感」

5分弱のポップソング。しかし3時間のロードムービーを観たような重みを感じさせる恐るべき楽曲だ。「雑感」というタイトル通り、2小節のループに乗る言葉たちにキャッチーな命題は与えられていないように見える。しかしその捉えどころのないいくつかを捕まえて繋ぎ合わせれば、一人の女性の生き様が、精緻な解像度で浮かび上がる。それは雨風のしのげる車ではなく、不安定なバイクで走る旅。目的地は分からないし教えるつもりもない。緊張したり緩んだり、信じたり疑ったりしながらも、私の人生のオーナーは私であるという揺るぎない覚悟。そして瞬く星空に感動した直後、年金の天引きに腹を立てる奔放なリアリズムに、強く心を揺さぶられた。(ドリーミー刑事)


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